映画業界で活躍!芸能通訳者が英語トレーニング方法を大公開

芸能通訳トップ画_10月15日公開

映画俳優や監督などの通訳をする「芸能通訳者」の今井美穂子さん。この連載では、今井さんが通訳学習者の基礎訓練を活用した英語のトレーニング法を、完全オリジナルの英語エッセイ(日本語訳・英語音声付き)とともにお届けします。第1回のテーマは「自己紹介」。今井さんが芸能通訳としてデビューするまでのお話です。

芸能通訳者のトレーニングを大公開!

EJOの読者の皆さん、初めまして。芸能通訳者の今井美穂子です。私は、映画配給に10年間携わった後、2009年に通訳者としてデビューしました。現在はエンターテインメント業界を中心に活動する傍ら、通訳者養成学校で後進の指導にあたっています。

この連載では、私がTwitterで提唱している、英語の多面的なトレーニング方法をご紹介します。トレーニングの素材は、毎回私がオリジナルで制作、ご提供します。皆さんの英語力をアップするのに役立つ、通訳者ならではの練習法をご紹介していきますのでお楽しみに!

毎回の構成は以下のようになります。

  • オリジナル英語エッセイのテキスト:今回のトピックは私が芸能通訳になるまでの経歴について。大まかな日本語訳を付けました(逐語訳ではありません)。英語だけで内容が理解できる方は、日本語の部分はさっと読み飛ばしてもOKです。

  • 英語エッセイを読み上げた音声:私が読み上げています。

  • 今回の注目フレーズ!:英語エッセイの中から、なじみのない表現や、覚えておくと役に立つ表現をピックアップしました。

  • 英語のトレーニング法:エッセイと音声を使用した英語訓練法をいくつかご提案します。ご自分に必要なトレーニングを選んでみてください。

では、さっそく始めましょう!

芸能通訳者になるまでのあれこれ

通訳者になるまでの「下積み」時代

Needless to say, I was tickled pink when the editors of English Journal Online came to me to propose that I write a series of columns for them. But for someone who, by trade, only speaks the minds of others, it is quite an unnatural act, for I am not accustomed to voicing my own mind. So I have been pacing back and forth in my room, worrying about having nothing of substance to write about.

言うまでもなく、ENGLISH JOURNAL ONLINEの編集部から「コラムの連載を書きませんか?」と提案されたときは、とてもうれしい気持ちになりました。とはいえ、職業上、人様の言葉を伝えることを専門とする者としては、自らの考えを伝えることはとても不自然なことでして、ご提案を受けてから、いったい何を書こうかしらと、しばらく部屋の中で右往左往しておりました。

And so, where do I begin? To give you a bit of my background, I have been working as a freelance interpreter for the last 12 years, mainly in the film and entertainment industry. I had initially been working in film distribution as a corporate employee for ten years. I was a member of what they call the acquisitions department, which entails traveling to film festivals and film markets to acquire distribution rights for Japan. A more familiar term to describe the job would be “film buyer.” Working in film sounds glamorous, but often it means sleepless nights, endless script-reading, and spending too much time sitting hours and sometimes days on end in front of the movie screen, all of which can wreak havoc on your lower back.

さて、どこから始めましょうか。経歴について少しだけ書きますと、私は映画やエンターテインメント業界を主軸にフリーランス通訳者として12年間働いてまいりました。その前は映画配給会社の社員として10年ほど働いていました。会社員時代は買い付け部門に所属しており、映画祭や映画見本市へ出向いて、映画の配給権を獲得するなどの業務に従事しておりました。いわゆる「映画バイヤー」という仕事です。映画業界というと華やかに聞こえますが、実際は夜を徹した業務や大量の脚本読みが要され、映画を見続けるあまり腰痛になるなど重労働でありました。

キャリア12年でもまだまだ「新参者」

I now feel, however, highly indebted to the decade that I worked in film distribution. After three years of training at an interpreting school, I took that leap of faith, quit my job, and embarked upon a new career as an interpreter. I would soon discover that it was the knowledge base and connections gained in that decade that would later prove indispensable in developing my career as an interpreter in the field.

今となっては、映画業界でのあの下積みがなければ、今の私はなかったように思います。3年に及ぶ通訳訓練を修了してから、えいやと賭けに出て通訳者としてのキャリアをスタートさせたわけですが、会社員時代に築いた知識や人脈が、後に通訳者としてのキャリアを築いていく上で欠かせないものだったとわかるようになりました。

Interpreters working in film share a very small pie. We are the people you see sitting next to the movie stars when they come to Japan to do their press conferences or standing beside them when they mingle with the fans and do soundbites for television while walking the red carpets. To the extent of my knowledge, there are only a dozen or so English-Japanese interpreters working in film who are in constant demand, and they have been doing it for decades. So, for someone relatively new in the field – 12 years in the field passes asrelatively new” – it is a constant process of proving yourself to your clients and building trust. I consider every job as a test of sorts. If the client likes my work and comes back to me for a second request, I have passed the test.

芸能通訳はパイが非常に小さい仕事です。映画スターが来日する時の記者会見や、スターがレッドカーペットでインタビューを受けたりファンと交流したりする時に隣に張り付いて通訳しているのが芸能通訳者です。私の知る限りでは、映画業界で常時稼働している日英通訳者は両手で数えられるほどしかおらず、いずれも何十年も活躍し続けている大ベテランです。私のように12年のキャリアがあってもまだまだ新参者の部類です。従って常に自分の力を証明し、クライアントからの信頼を勝ち取らなければなりません。私は一つ一つの案件を一種のテストとして捉えています。クライアントが仕事ぶりを気に入ってくれて、再依頼があれば、テストに合格したと言えるでしょう。

In the subsequent columns, I will be sharing with you random insights from my experiences on the job, glimpses into what happens behind the scenes, and tactics in language studies derived from my own experiences in training for and teaching interpreting. If your interests are English language acquisition, films, or famous people, you’ve come to the right place.

次回以降のコラムでは、現場での経験から得た気付き、舞台裏の様子、通訳者養成や自身の通訳訓練から得た語学の学習のヒントなどについて共有させていただきます。英語学習、映画、セレブリティーに興味のある方は、きっとお楽しみいただけると思います。

今回の注目フレーズ!

  • be tickled pink とてもうれしく思う
  • by trade 職業柄
  • interpreter 通訳者
  • film distribution 映画配給
  • acquisition ※ここでは「買い付け」の意味
  • film market 映画見本市
  • distribution right 配給権
  • days on end 連日、何日も続けて
  • wreak havoc on ~ 〜に打撃を与える
  • lower back 腰
  • indebted to ~ (feelやbeを伴って使い)〜に恩恵を受けている
  • take a leap of faith 清水の舞台から飛び降りる
  • knowledge base 知識の基礎
  • connections ※ここでは「人脈」の意味、通例、複数形で使われる
  • indispensable 不可欠の
  • field 分野
  • do soundbites ※soundbitesは番組などで取り上げられるちょっとしたインタビューや発言。ここで言うdo soundbitesはそのようなインタビューを受けること。
  • in constant demand 常に依頼を受けている
  • subsequent これに続く
  • insight 洞察
  • glimpse 垣間見ること

英語のトレーニング法

上記のエッセイと音声を使用した英語訓練法をご提案します。ご自分にとっての英語学習上の課題に応じて、必要なトレーニングを選んでみてください。

ディクテーション

難易度:★

対象:リスニングが苦手と感じる英語学習者。

手順:1センテンス単位で音声を止め、テキストを見ずに書き取りをします。一通り書き終えたら、原文のテキストと照らし合わせ、間違えたところや抜けたところを精査します。

効果:音声をひとつのまとまった構造として認識する訓練になります。前置詞、冠詞、時制、動詞の活用、可算・不可算名詞等、後述する「リプロダクション」や「シャドーイング」では見落としかねない細かい文法を意識できるようになり、文法力、ひいてはリスニング力、スピーキング力のアップにつながります。

リプロダクション

難易度:★★

対象:リスニングはある程度できるが、正確に話すのが難しいと感じる英語学習者。

手順:1〜3センテンス単位で音声を止め、テキストを見ずにリピートします。慣れないうちは1センテンス単位実施し、一言一句正確に再現します。慣れてきたら2~3センテンスと分量を増やしてもよいでしょう。文法に自信のある学習者の方は、多少表現を変えても、内容を正確に再現できていれば構いません。文型認識、意味理解が重要です。

効果:文の形や理解した内容を瞬時に口で再構築することで、正確なスピーキング力が身に付きます。

シャドーイング

難易度:★★★

対象:リスニング力、スピーキング力、語彙力全般の底上げを図り、英語発話のリズム、発音、スピードを改善したい英語学習者。聞きながら話すので、負荷の大きい訓練法です。ある程度基礎力を付けてから取り組むことをお勧めします。

手順:音声にかぶせるようにして、ほぼ同時にまねをします。慣れないうちはテキストを見ながらでもよいでしょう。話者の声の高低やリエゾン、リズムを意識しながら、はっきりと声を出してシャドーイングしましょう。ヘッドフォン着用を推奨します。時間に余裕があればご自身のシャドーイングを収録し、書き起こし、原文テキストと照らし合わせると、語彙や文法上のウィークポイントをあぶり出すことができます。

効果:大量にまねることで、リスニング力、スピーキング力、語彙力アップにつながり、自然な発話が身に付きます。

パラフレージング

難易度:★★★★

対象:表現の幅を広げ、文章構築力を身につけたい英語学習者。相当な文法力と語彙力が要される訓練法で、上級者にお勧めです。

手順:言い換えの練習。1〜3センテンス単位で音声を止め、原文と違う表現や文型を用いて内容を再現します。

【例】

元の文:Needless to say, I was tickled pink when the editors came to me to propose that I write a series of columns for them.

パラフレーズした文:It goes without saying that I was overjoyed when the editors came to me with an offer to write a column series for them.

効果:表現の幅が広がることで、言葉の詰まりや言いよどみが減っていきます。言いたいことをずばり伝えられるようになります。パラフレージングの訓練は、日々多くの英語表現に触れ、インプットを十分に蓄積することが前提となります。

まとめ

最後までお読みいただきありがとうございました。第1回の「芸能通訳の現場から!」、いかがでしたでしょうか?今回は自分のバックグラウンドについて、そして通訳者としてデビューするまでの経緯について書かせていただきました。

次回からは、現場での体験談、仕事や学習を通じて得られた気付きなどについて執筆する予定です。言語習得に興味のある方、映画や芸能に興味のある方にはきっと面白くお読みいただけると思います。それでは次回をお楽しみに!

※公開した記事の内容に誤りがありましたので、修正いたしました。
読者の皆さまにはご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。
【誤】
パラフレージング
難易度:★★★★
対象: リスニングが苦手と感じる英語学習者。

【正】
対象: 表現の幅を広げ、文章構築力を身につけたい英語学習者。相当な文法力と語彙力が要される訓練法で、上級者にお勧めです。
(2020年10月22日更新

今井美穂子

今井 美穂子(いまい みほこ)日英通訳者。映画配給に10年間携わった後、2009年に通訳者デビュー。現在はエンターテイメント業界を中心に活動する傍ら、通訳者養成学校で後進の指導に当たっている。 芸能通訳者としては、来日イベントや国際映画祭での記者会見、舞台あいさつ、レッドカーペット、取材での通訳を10年以上にわたり担当。 過去に通訳した著名人には(以下敬称略)マーティン・スコセッシ、クリストファー・ノーラン、キアヌ・リーブス、岩井俊二、塚本晋也、黒沢清、仲代達矢、渡辺謙がいる。
Twitterアカウント:https://twitter.com/mihoko_imai