学校英文法で習ったのに忘れがちなandの用法とは?ナショナル・シアター・ライブでも有名な『アマデウス』

文学&カルチャー英語

英語は、文学、映画やドラマ、コメディーや歌などに楽しく触れながら学ぶと、習得しやすくなります。連載「文学&カルチャー英語」では、シェイクスピア研究者で大学准教授、自称「不真面目な批評家」の北村紗衣さんが、英語の日常表現や奥深さを紹介します。今回のテーマは、意外とよく使われる、学校英文法でも習うandの用法です。

数多く舞台化、映画化されている人気作

ピーター・シェーファー(Peter Shaffer)の戯曲『アマデウス』(原題:Amadeus)は1979年に初演され、それ以来、世界各地で上演されている人気作です。1984年にはミロシュ・フォアマン監督により、映画化もされました。

最近では2016年にロンドンのナショナル・シアターが再演しており、この上演は舞台演目を撮影して世界中の映画館で上映するナショナル・シアター・ライブのラインナップに入ったほか、新型コロナウイルス流行によって劇場が閉鎖されている期間にはナショナル・シアター・アット・ホーム企画の一環としてオンラインでも無料配信されていました。

今回はこの『アマデウス』を題材に、うっかり誤解しやすい接続詞andの使い方について説明したいと思います。

実在した2人の音楽家の人生を脚色した『アマデウス』

「アマデウス」(Amadeus)というのはモーツァルトのフルネームであるヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトを指します。ラテン語のamare(愛する)+deus(神)から成る言葉で、「神を愛する」あるいは「神に愛される」という意味です。

「アマデウス」がこの戯曲のタイトルとなっていることには大きな理由があり、基本的にこの作品はキリスト教における神への信仰と反逆の物語です。

主人公である作曲家サリエーリは音楽を愛し、自分に才能と成功を与えてくれるよう幼い頃から神に祈り、音楽家を目指して勉強と善行に励みます。大人になり、ウィーンの音楽界で活躍しているサリエーリはモーツァルトに出会います。

モーツァルトは下品な遊び人である一方、サリエーリがまったく及ばない独創的な音楽の才能を備えていました。神は努力家で敬虔(けいけん)なサリエーリではなく、放蕩(ほうとう)者のモーツァルトに音楽の才能を与えたのです。この不公平に怒ったサリエーリは、モーツァルトを陥れることを通して神に対する復讐を行おうとします。

モーツァルトはもちろんのこと、サリエーリも実在の人物ですが、サリエーリがモーツァルトを陥れようとしたという話自体は史実に沿ったものではありません。

さらに、これも勘違いされやすいところなのですが、『アマデウス』においてサリエーリは実際に手を下してモーツァルトを殺害しているわけではなく、策略によって破滅と死に追いやっています。

サリエーリの嫉妬と策略がこの作品の見どころです。

学校で習う英文法「命令文+and」

『アマデウス』は主人公であるサリエーリの独白が多い作品です。サリエーリがモーツァルトの楽譜を見て、曲の構成について次のように感嘆するところがあります。

Displace one note and there would be diminishment. Displace one phrase and the structure would fall.

Shaffer, Act 1, p. 57

これは2回出てきているDisplaceが動詞の原形で、どちらも、命令文+andの構文です。高校文法で習った記憶がある人も多いかと思いますが、「~しなさい、そうすれば・・・になります」という文ですね。こんなのどこで使うんだろうと思った人もいるかもしれませんが、英文を読んでいると結構出てきます。

最初の文のdiminishmentは「減少させる」という意味の動詞diminishの名詞ですが、ここでは音楽的な効果が減少してしまうことを指しています。2番目の文のphraseはここでは「楽節」です。

訳してみると、「音を一つ外してみろ、そうすればつまらなくなるだろう。楽節を一つ外してみろ、そうすれば構成が崩れてしまうだろう」くらいになるでしょう。モーツァルトの楽曲が完璧に作られていることを示すセリフです。

このサリエーリの発言でちょっとくせものなのは、and以下に助動詞wouldが使われていることです。これはand以下が仮定法の帰結部分のように扱われているからです。

命令文+andの文は、意味の上では「もし~したら、・・・になる」という仮定法に近く、ifを使って書き換えることができます。帰結の部分でwouldが使われているということは、if節は過去形になります。

このサリエーリの発言を仮定法に書き換えてみると、次のようになります。

If you displaced one note, there would be diminishment. If you displaced one phrase, the structure would fall.

普通の仮定法過去の文章になり、「もし音を一つ外してみたら、つまらなくなるだろう。もし楽節を一つ外してみたら、構成が崩れてしまうだろう」ということになって、命令文+andの文とだいたい同じような意味になります。

ここでは帰結部分にwouldが使われており、サリエーリとしてはこのセリフを仮定法過去の気持ちで言っているというところがポイントです。仮定法過去は現在の事実に反した仮定で、つまりサリエーリは目の前にあるモーツァルトの楽譜を見て、この譜面について音を変えるとか楽節をいじるとかいう方面の改善は自分ではまったく提案できない、それくらい音楽が完璧だ、という気持ちでこの発言をしています。

このように、命令文+andは仮定法と似たような意味になるので、日本語に翻訳する際は仮定法のように訳したことがよい場合もあります。ハヤカワ演劇文庫から出ている倉橋健、甲斐萬里江による日本語訳でも、仮定法のように訳しています(p. 344)。

命令文+andの形がうまく訳せないときは、仮定法に置き換えて自然な日本語になるよう考えてみましょう。

同じ仮定の意味の「名詞+and」

このお芝居にはもう1カ所、andを使った仮定法が出てくるところがあります。先ほど紹介した場面の少し前で、モーツァルトの妻であるコンスタンツェがサリエーリに、エリザベート王女の音楽教師の地位に夫を推薦してほしいと頼むところで、こんな発言が出てきます。

One word from you and the post would be his.

Shaffer, Act 1, p. 51

これも高校文法でうっすら習った覚えがある方もおられるかもしれません。名詞(句)+andで「~があれば、・・・になるだろう」という意味になる文です。多くの場合は名詞句部分に比較級が使われますが、このコンスタンツェの発言には比較級が含まれていないので、一見したところではわからなかった人もいるかもしれません。

the postは教師の「職」wouldは仮定法の帰結部分であることを示しているので、「あなたから一言あれば、その仕事は夫のものになるでしょう」という意味です。ifを使った文に書き換えると、次のようになります。

If there were one word from you, the post would be his.

意外と忘れやすいandの用法

接続詞のandはよく出てくるのでこの単語自体を忘れることはまずないと思いますが、仮定の文で使うandは、普段から英語を読み慣れていないとうっかり忘れてしまうこともあるかと思います。

読んでいてなんとなく浮いているandがあってしっくりこないというときは、この仮定の意味になる文法事項を思い出して読んでみましょう。

参考文献

■Peter Shaffer, Amadeus, Harper, 2001.

Amadeus: A Play by Peter Shaffer

Amadeus: A Play by Peter Shaffer

  • 作者:Shaffer, Peter
  • 発売日: 2001/08/01
  • メディア: ペーパーバック
 

■ピーター・シェーファー『ピサロ/アマデウス』伊丹十三、倉橋健、甲斐萬里江訳、早川書房、2020。

■ピーター・シェーファー『アマデウス』倉橋健、甲斐萬里江編注、音羽書房鶴見書店、2012。

■遠藤雅司『宮廷楽長サリエーリのお菓子な食卓――時空を超えて味わうオペラ飯』春秋社、2019。

宮廷楽長サリエーリのお菓子な食卓: 時空を超えて味わうオペラ飯

宮廷楽長サリエーリのお菓子な食卓: 時空を超えて味わうオペラ飯

  • 作者:遠藤 雅司
  • 発売日: 2019/11/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

■水谷彰良『サリエーリ 生涯と作品――モーツァルトに消された宮廷楽長』新版、復刊ドットコム、2019。

人気連載に書き下ろしを加えた北村紗衣さんの電子書籍

北村さんの人気連載「文学&カルチャー英語」第1~6回と「大学の英語教育」前後編に、電子書籍のための書き下ろし4章分を加えた電子書籍『不真面目な批評家、文学・文化の英語をマジメに語る』が発売中!

追加の章は、SFドラマ『マンダロリアン』アイルランドの人気お笑いグループによるジョーク、ヴィクトリア朝のオスカー・ワイルド、そしてモダニズム文学のキャサリン・マンスフィールドです。

英語圏の質の高いカルチャーを題材に学ぶことで、楽しいから続けられて、高い英語運用能力を得る上で必須の文化的背景も理解できるようになります。

▼詳細・購入はこちら↓

北村紗衣

文:北村紗衣(きたむらさえ)

武蔵大学人文学部英語英米文化学科准教授。著書に『シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち──近世の観劇と読書』(白水社、2018年)、『お砂糖とスパイスと爆発的な何か──不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』(書誌侃侃房、2019年)など。

ブログ:https://saebou.hatenablog.com/

編集:ENGLISH JOURNAL ONLINE編集部/トップ写真:山本高裕(編集部)