クイーンの歌詞“many a lonely day”は文法的に正しいの?英語ネイティブスピーカーも間違える単数形と複数形

文学&カルチャー英語

英語は、文学、映画やドラマ、コメディーや歌などに楽しく触れながら学ぶと、習得しやすくなります。連載「文学&カルチャー英語」では、シェイクスピア研究者で大学准教授、自称「不真面目な批評家」の北村紗衣さんが、英語の日常表現や奥深さを紹介します。今回のテーマは、ザ・キラーズ、オアシス、クイーンの歌詞に見られる、間違えやすい単数形と複数形の使い方です。

ネイティブスピーカーでも混乱する、単数形と複数形

単数形と複数形の区別はややこしく、英語学習者にとっては頭が痛い問題です。しかし、実はネイティブスピーカーでも、この区別には混乱することがあります。

普段から ウィキペディアを編集している私は、英語版ウィキペディアで、おそらくは英語話者が書いたと思われる、名詞の単複や句読点が変な文によく出合います。

今回は、ネイティブスピーカーによる文章を題材に、単数形と複数形について、間違い探しを通して学んでみることにしましょう。

ザ・キラーズのヒット曲“Human”の歌詞に登場する名詞

まずは、こちらをお聞きください。アメリカのロックバンドであるザ・キラーズ(The Killers)の2008年のヒット曲“Human”です。この歌には文法的におかしいと言われている有名な歌詞があるのですが、どこだかわかりますか?

聞き取りだけだとちょっと難しいと思いますが、右下の字幕をオンにするとわかるかもしれません。おかしいところは、43秒くらいで初めに出てきて、その後何度も繰り返される、次のサビの部分です。

Are we human, or are we dancer?

orの前の部分は別におかしくありません。これは主語がwe(私たち)で、humanは形容詞で「人間の」という意味で使われているので、主語が複数でも変化はせず、特に問題ない文です。

おかしいのは後半で、dancerは名詞なので、weの補語ならdancersにならないといけないのですが、なぜか無冠詞で単数のdancerになっています。普通の英語では本来、“Are we human, or are we dancers?”(私たちは人間なのか、それとも踊り手なのか?)にならないといけないはずです。

この文が文法的に正しくなるように無理やり解釈できる状況というのは、実は、まったく存在しないわけではありません。

以前、代名詞についての記事でroyal weを扱いましたが、この語り手が王室の人間なら、be動詞の後が単数になるということもあり得ます。名詞が無冠詞なのは、いわゆる役職を示す無冠詞名詞だと取って、王様とか女王様が仕事の割り振りについて「朕がダンサー役を務めるのか?」とかなんとか尋ねているのであれば、こういう文も成り立つかもしれません。

・・・が、ザ・キラーズの“Human”は、別に王室メンバーが職務について語る歌とかではないので、この文は単に文法的におかしいわけです。

おそらくここでdancersではなくdancerという単数形が使われているのは、その少し後に“Looking for the answer”という歌詞があるからだと思われます。answerとdancerは脚韻を踏める単語です。その方がリズムがきれいなので、音に引かれてdancerになったのでしょう。

“Human”のサビは、ファンの間では、意味のわからない文法的におかしな歌詞として有名です。この歌の冒頭の歌詞には“sometimes I get nervous”(時々イライラするんだよね)という一節がありますが、このへんちくりんな歌詞はファンにとってはそれこそ聞くだけでイライラするものであるようで、実はdancersなのではないかとか、denser(「より密集した」、denseの比較級)ではないかなどという推測が乱れ飛んでいました。

実は、リードボーカルのブランドン・フラワーズは、この歌詞について質問を受け、“dancer”だと確認しています。しかし、やはり奇妙であることには違いないので、この歌詞は2014年に変な歌詞ランキングの投票で1位に輝いています。

巨人の肩の上に立てなかったオアシス

アルバムタイトルで名詞の単複が間違っているという珍しいものもあります。

イギリスのロックバンド、オアシス(Oasis)が2000年に発表した“Standing on the Shoulder of Giants”は“Go Let It Out”などが収録されているアルバムですが、タイトル自体が英語としておかしいものになっています。

Standing on the Shoulder of Giants

このアルバムタイトルは、よく見ると、Shoulderが単数形なのにGiantsが複数形です。巨人が複数いるのに肩が1つ?というのは不可思議で、これはStanding on the Shoulders of Giants”となるべきです。

ザ・キラーズのヘンテコ歌詞は適合する状況が想像できた私でも、さすがに複数の巨人に1つしか肩がないという状況はなかなか想像しづらい・・・というか、怖いのであまり想像したくありません。

Standing on the Shoulders of Giants”(巨人の肩の上に立って)というのは、中世くらいからヨーロッパで知られていることわざです。これは、先人が積み上げた業績を用いることで、遠くを見通し、新しいものを見つけることができる、という知識の重要性をうたった言葉。英語の用例としては、アイザック・ニュートンによるものが有名です。

この言葉は英語圏ではしょっちゅう見掛けるもので、論文検索エンジンである「グーグル・スカラー」はこの言葉を標語にしていますし、イギリスの2ポンドコインのへりにもこの言葉が書いてありました。

間違えたのは、オアシスのノエル・ギャラガーが酔っ払ってこのコインの言葉を写したせいだという伝説がありますが、意味不明なアルバムタイトルとしてよく批判されています。

現在の不評ぶりからして、このタイトルを決定したときのオアシスは、巨人の肩に立って先を見通すことができなかったと言えるでしょう。

私はオアシスが大好きなのですが、実はオアシスの作詞能力には常々あまり信頼を置いていません。というのも、こういう、本人たちは何か面白いと思っているのかもしれないけれども、はたから見ると意味がよくわからないだけ、という歌詞がたまにあるからです。

クイーンのブライアン・メイによる古風な言葉遣い

最後に、一見おかしいようですが、文法的に正しく単複を使っている歌詞を紹介して終わろうと思います。

1975年のクイーン(Queen)のアルバム“A Night at the Opera”(オペラ座の夜)に入っている“’39”をお聞きください。

1分2秒くらいのところで、次の歌詞があります。

And the story tellers say / That the score brave souls inside / For many a lonely day sailed across the milky seas

“And the story tellers say”は「そして語り部が言うには」で、語り部が言った内容はthat節以降です。

次の“the score brave souls inside”がくせ者です。scoreの意味が取れない人が多いと思いますが、このscoreは「20」という数字です。そこまで聞いて、「え、the score ofじゃないの?」と思うあなたは、かなり英語を学んでおられると思います。

現代英語では普通、「20人の」と言う場合はthe score of ~となりますが、少し古い言い方では、ofがなくなってscoreが形容詞のように使われることがありました(“OED” score, n. III. 16. a)。“’39”は、作詞したブライアン・メイがわざと少し古くさい英語を使っておとぎ話風な語りを作っているので、これは意図的でしょう。

さらに、insideも何を指すのか曖昧なのですが、これは前にthe ship、つまり船の話が出てきているので、おそらくinside the ship、つまり「船の中にいる」という意味だと思われます。

この“the score brave souls inside”が、“sailed across the milky seas”の主語になります。“the milky seas”は文字通りには「乳白色の海原」ですが、the Milky Wayで「天の川」を意味するので、ここはおそらくそれに引っ掛けてあり、「星の海原」とでも考えればよいでしょう。

そしてscoreとともに今回のテーマに関連するのが、For many a lonely day”です。

Forは期間を示す前置詞です。その後の部分について、manyなのに単数形?と意味がわからなくなるかもしれませんが、many+a+単数名詞で「あまたの○○」という意味になるので、これは文法的に正しい使い方です。many+a+単数名詞もちょっと文語的な言葉なので、ここも少し詩的な表現をあえて使っています。

全体を訳してみると、「そして語り部いわく、船の中にいた20人のつわものは、孤独の中、幾日も幾日も星の海原を航海したということだ」というような意味になるでしょう。

ということで、“’39”のこの部分は、「単複がおかしいのでは?」と思われるところがいくつかありますが、いずれも文法的には間違いではなく、わざと古めかしい雰囲気を出すために言葉を選んでいることがわかります。

“’39”は宇宙の旅が主題の不思議な歌で、ギタリストで天文学者でもあるブライアン・メイが、自分の得意分野で科学と芸術を融合させるべく、注意深く作った曲だと思われます。これくらい英語の単複をしっかり使いこなせるようになれれば素晴らしいのですが、なかなかそうはいきませんね。

参考文献

■‘score, n.’ OED Online, Oxford University Press, March 2020, https://www.oed.com/view/Entry/173033. Accessed 6 May 2020.

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北村紗衣

文:北村紗衣(きたむらさえ)

武蔵大学人文学部英語英米文化学科准教授。著書に『シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち──近世の観劇と読書』(白水社、2018年)、『お砂糖とスパイスと爆発的な何か──不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』(書誌侃侃房、2019年)など。

ブログ:https://saebou.hatenablog.com/

編集:ENGLISH JOURNAL ONLINE編集部/トップ写真:山本高裕(編集部)