ブラックオパールの原石を巡るドタバタ狂騒劇【FILMOSCOPE】

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気になる新作映画について、登場人物の心理や英米文化事情と共に映画評論家の真魚八重子さんが解説します。

今月の1本

『アンカット・ダイヤモンド』(原題:Uncut Gems)をご紹介します。

宝石商のハワードはギャンブル中毒により借金を抱えていた。借金はハワードの義兄アルノにまで及んでおり、ハワードはアルノの用心棒から常に監視されている状況だった。ある日、ハワードはエチオピアで採掘されたブラックオパールを手に入れた。そのオパールはNBAのスター選手の興味を引き、ハワードは彼と取引をすることになった。この取引で一獲千金を狙うハワードは、リスクの高い賭けに挑むことになるが・・・。

ギャンブル中毒男が一攫千金を狙い危険な賭けに挑む

原題のUncut Gems(未加工の宝石)は、本作ではブラックオパールの原石を指す。監督は『神様なんかくそくらえ』(2014)や『グッド・タイム』(2017)のジョシュ&ベニー・サフディ兄弟。この『アンカット・ダイヤモンド』も終始騒然としつつ、言い知れぬすごみが全体を支配する。

ニューヨークで宝石商を営むハワード・ラトナー(アダム・サンドラー)はスポーツギャンブルで借金漬けとなり、破滅寸前だが持ち前のバイタリティーでなんとかしのいでいる。そんな彼がしばらく前から画策し心待ちにしていたのが、エチオピアで採掘されたブラックオパール。それがようやく手元に届いたその時から、ハワードは金と石を巡る狂騒の終末に突入していく。

ハワードがユダヤ人であるため、ユダヤコミュニティー独特の血族の関係性も描かれる。ハワードは義兄のアルノから大金を借りており、アルノの用心棒から日常的に監視される羽目になる。このアルノに雇われた借金取りのフィルを演じるキース・ウィリアムス・リチャーズが、すさまじい説得力を持った顔をしていて忘れ難い。サフディ兄弟の人間の表情をむき出しにする演出手腕もあるのだろうが、このリチャーズが本作のために街でスカウトされた素人であったというのには驚嘆した。キャスティングをした人は、本作の成功にどれだけ多大な貢献をしたことか計り知れない。

映画は全編、複数の人が同時にしゃべり、その間に電話やノックの音も鳴り続けるような、意図的に神経に障る設計がされている。それが一人の男のいかに切羽詰まった数日間であるかを強迫的に表している。音楽は前作『グッド・タイム』に引き続き担当するダニエル・ロパティンが素晴らしい仕事をしている。前述の騒然とした演出に加え、さらにセリフの邪魔をせんばかりのボリュームで、タンジェリン・ドリームのようなエレクトロ系の劇伴が存在感を強調しながら流れ続け、とても印象深い。

『アンカット・ダイヤモンド』(原題:Uncut Gems)

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Cast & Staff

監督:ジョシュ・サフディ、ベニー・サフディ/出演:アダム・サンドラー、ラキース・スタンフィールド、ザ・ウィークエンドほか/Netflix映画「アンカット・ダイヤモンド」Netflixにて独占配信中

www.netflix.com

文:真魚八重子(まな・やえこ)

映画著述業。『映画秘宝』、朝日新聞の映画欄、文春オンライン等で執筆中。著書『映画系女子がゆく!』(青弓社)、『映画なしでは生きられない』『バッドエンドの誘惑』(共に洋泉社)も絶賛発売中。

編集:ENGLISH JOURNAL編集部

※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2020年7月号に掲載された記事を再編集したものです。