THE BAWDIESの英語詞の創作方法を作詞協力のネルソン・バビンコイさんが明かす

作詞・訳詞家のココロ

シンガーソングライターで、米津玄師さんの「パプリカ」の英訳も手掛けた、アメリカ出身のネルソン・バビンコイさんの連載「作詞・訳詞家のココロ――歌詞がリリックになるとき」。第6回(最終回)では、英語で歌うTHE BAWDIESの「STARS」の制作過程から、このバンドの英語詞を作る上でのこだわりやポイントを語ります。

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米津玄師、SEKAI NO OWARI、THE BAWDIES、ゲスの極み乙女。などの英語詞や英訳詞に携わるアメリカ出身の作詞・訳詞家、ネルソン・バビンコイさん。

ビジネス文書や実用書、小説などとは異なる歌詞の翻訳は、どのように行われるのでしょうか?また、自身もミュージシャンであるバビンコイさんが、歌のコンセプトや日本語詞を基にした英語詞作りを依頼された際の創作過程とは?

単に言葉を訳すのではなく、異文化の懸け橋となる「文化通訳家」を名乗る著者が、日本の有名ミュージシャンたちとの英語詞の創作における苦労や楽しさ、歌詞の英訳ならではの工夫、「文化通訳家」の仕事、翻訳のコツや大切なことなどを語ります。

音楽が好き、翻訳に興味がある、英語を学習中など、すべての方におすすめの本です。

THE BAWDIESの「STARS」は旅立ちの歌

4人組のロックバンド、THE BAWDIESとは、インディーズ時代からの長い付き合いです。彼らは初めから英語で音楽をやっていました。それもブラックミュージックを聞いて育ったというだけあって、発音もすごくよくてかっこいい。海外を目指すという以前に、彼らは純粋に、自分たちが好きな音楽をやっているのです。

去年の秋にリリースされた「STARS」は、ROY君がピアノを弾きながら歌うバラード調の曲で、THE BAWDIESの新境地と言ってもいい曲です。まだ聞いたことのない方は、ぜひ聞いてみてください。すごくいいですよ。

僕はROY君と一緒にこの歌の英語詞を作ったのですが、もともと好きなジャンルの曲なので、メロディーを聞いてすぐ、「あ、これはいける!」と思いました。

英語風の旋律から歌詞を作っていく

THE BAWDIESの曲に詞を付ける方法は、ちょっと面白いんです。新しい曲が出来上がると、彼らはまず、英語風の「仮歌」を収録します。その時点では基本的に、英語でも日本語でも、決まった詩は付いていません。だから旋律に乗せて、「♪ ... nananana ... dadadada ... lulalalala ... ♪」みたいに、なんとなく英語っぽく歌うのです。

この仮歌を基に、ROY君と相談しながら歌詞を作っていくわけですが、THE BAWDIESの曲はすごく英語がハマりやすいので、気持ちよく発想が広がるんですよ。

「STARS」についてROY君が言ったキーワードは、「旅立ち」でした。空いっぱいの星の下、旅立っていく人と、それを見送る人。別れのときの、それぞれの思い。

“If you ever feel alone / Look up to the stars ...”と、サビの部分がまず出来上がりました。歌詞の中のyouは、一人一人にとってのかけがえのない人。恋人、親友、大事な家族・・・。あなたは誰を思い浮かべますか?

「ここには『オ』より『ア』の音が入る単語の方がいい」

歌詞が付くと、ROY君がスタジオに入って歌ってみて、そこから気になるところを一緒に微調整していくのですが、彼は本当に「職人」なんです。

「この音に乗る母音は、『オ』より『ア』の方が発音しやすい」とか、「ここの最後は、『アー』の方が響きがきれいだから、『アー』で終わる単語を探して、差し替えて」とか、語感にもすごくこだわって、とても大事に作品を作っている。だから彼との仕事は、とても勉強になります。

こんなふうにして出来上がった「STARS」の英語詞で、僕がいちばん気に入っているのは、例えば第2パラグラフの最初の部分です。

Lucky me that I found you

And the melodies that surround you

The love that grows deep inside you

You share with me, and I thank you

見てのとおり、最後が全部youで終わっています。字面は少し変かもしれないけれど、実際に歌ってみると語感が気持ちいい。意味の面でも、youと繰り返すことで、「あなただからこそ」と強調する感じになります。

このように今回はうまくいきましたが、そうでないときは、「ピタッとくる音を持つ語」を求めて、試行錯誤を繰り返すことになります。

もう1カ所こだわったのは、第4パラグラフの最初です。

All of yesterday’s sorrows

Can light your way to tomorrow

After the darkest nights, the sun follows

We drift away from the shallows

この4行は最後が、sorrows、tomorrow、follows、shallowsと、韻を踏んでいます。なんの制約もなく自由に詩を書くのもいいけれど、時にはこんなふうに、「ここは最後の音をそろえてみよう」など、ちょっとした条件を自分に課してみると、それが逆に楽しかったりするんですよね。

この部分の内容は、英語でありながら、日本的な情緒が見え隠れしています。韻を踏む英語の語感と併せて、そんなところも楽しんでもらえるとうれしいです。

日本語字幕で「花火」と表現されている英語詞は?

「STARS」のMVには日本語の字幕が付いています。ROY君自身が訳してくれたのです。

訳詞を見せてもらったときは、うるっときました。彼がこんなふうに丁寧に日本語訳を付けてくれたおかげで、僕たちが一生懸命に考えた英語詞の内容を、日本の人たちがちゃんと理解して、いい曲だと思ってくれるのですからね。

もちろん、英語の歌詞と日本語字幕には常に小さな違いはあります。

例えば、この曲の日本語字幕には、「夜空に花火を打ち上げて」というところがあるけれど、この部分の英語の歌詞は、“Let’s light up the sky tonight”で、「花火」は出てきません。でも、光で夜空を彩る「花火」の印象は、タイトルの「STARS」にも通じますし、花火のはかなさが、別れの切なさとも重なりますから、これはとてもよい言葉のチョイスだと思いました。

作詞・訳詞家のココロ

人や言葉を通して、自国や他国の文化を互いに発見する

僕は言葉の仕事をしているから、言葉について発見したことを少しお伝えしますね。

日本に来てもう13年ですが、ふと気付いたことがあるんですよ。日本の人と話をしていると、「あ、そうか。そういう考え方もあるよね」って、突然、言われることがよくあるのです。なぜだろうと思って考えてみたのですが、どうも日本の人たちは、日本の外の世界の考え方や習慣に、僕という外国人を通じて、突如、気が付くようなのです。

例えば日本では、誰かに何かしてもらったとき、「すみません」と言いますよね。でも、誰かに何かをしてもらったら、「ありがとう」ではないでしょうか?日本の文化では「すみません」で意味が通るけど、国際社会で「Sorry.」と言ってしまうと、誤解を招くこともあり得ます。それに、その言葉ではなんだかマイナスな気分になってしまいがち。必要な場面でスッと「Thank you.」が口から出るように、心掛けておくとよさそうです。

反対に、世界が歓迎する日本文化や日本語も、もちろんたくさんあります。和食ではよく「うまみ」と言いますが、これにピタッと当てはまる語は外国にはありません。だから英語でも、umamiのままで浸透しています。

それから僕は、「木漏れ日」という日本語が気に入っています。重なった木々の葉っぱの間から、キラキラと太陽の光がこぼれ落ちてくる。なんてすてきな言葉でしょう!

それぞれの言語の独自性や美しさを感じるとき、僕が目指す「文化通訳・翻訳」は、まだまだ奥が深いなと思います。

誰でも得意なことを発信し、インフルエンサーになれる

さて、この連載の第2回で、「今の僕があるのは、YouTubeで自作の曲や、気に入った日本の曲を歌っていたのがきっかけ」とお伝えしました。未来は何が転機で変わるかわからない。人生って、本当に不思議だなあと思います。

その僕から、最後に皆さんにメッセージを。

どうかあなたも、本当にやりたいことをやってください。ネットが発達したおかげで、誰でも自分の表現を世界の人に見てもらえるし、独創的な面白いコンテンツが発信できれば、誰だってインフルエンサーになれるのです。

音楽でも、詩や小説でも、料理、園芸、手芸、写真にダンス、なんだってOKです。初めは下手でも、続けているうちに上手になってきます。大好きなことに情熱を傾けていると、「この人と一緒に何か面白いことをやりたいな」と思ってくれる人だって、出てくるかもしれません。チャレンジしない手はありませんよ!

僕はこれからも音楽を通して、誰かの人生に何かよい影響を与えられること、誰かに喜んでもらえることを、続けていきたいと思っています。

6回にわたり僕の話を読んでくださったあなたに感謝しつつ、またきっと、どこかでお会いできることを願っています。

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米津玄師、SEKAI NO OWARI、THE BAWDIES、ゲスの極み乙女。などの英語詞や英訳詞に携わるアメリカ出身の作詞・訳詞家、ネルソン・バビンコイさん。

ビジネス文書や実用書、小説などとは異なる歌詞の翻訳は、どのように行われるのでしょうか?また、自身もミュージシャンであるバビンコイさんが、歌のコンセプトや日本語詞を基にした英語詞作りを依頼された際の創作過程とは?

単に言葉を訳すのではなく、異文化の懸け橋となる「文化通訳家」を名乗る著者が、日本の有名ミュージシャンたちとの英語詞の創作における苦労や楽しさ、歌詞の英訳ならではの工夫、「文化通訳家」の仕事、翻訳のコツや大切なことなどを語ります。

音楽が好き、翻訳に興味がある、英語を学習中など、すべての方におすすめの本です。

本書出版に寄せていただいたメッセージ

SEKAI NO OWARI/Fukaseさん

ネルソンは翻訳家として、シンガーソングライターとして、アメリカで生まれ育ったアメリカ人として、そしてネルソン・バビンコイという個として、様々な視点を持っていた。

だから、単純に英詞を作るだけではなく時代背景や習慣、文化といったものを聞いた上で作詞に臨めた。それはマルチに活動する彼だからこそ出来る事だと思う。

ゲスの極み乙女。/川谷絵音さん

ネルソンさんはただ英訳するだけじゃなく、ちゃんと洒落た意味に解釈して訳してくれます。この絶妙な塩梅が最高なんです。自分の曲なのに僕は新しい世界を見せられました。そんなネルソンさんのセンスに脱帽です。

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ネルソン・バビンコイ

ネルソン・バビンコイ(Nelson Babin-Coy)
15歳のときに2週間の交換留学をきっかけに日本が好きになり、日本語を独学する。名門カリフォルニア大学バークレー校の東アジア言語・日本語学科を卒業。在学中に慶応義塾大学に1年間留学し、日本語能力試験N1(1級)を取得。2007年10月に再来日し、音楽、芸能活動を始める。2018年に永住権を取得。現在はSEKAI NO OWARIやTHE BAWDIESなど、日本のメジャーミュージシャンの英語歌詞の提供や英語プロデュースを行い、NHK WORLD番組に出演しながら番組全体の英語監修も担当。『二階堂家物語』で映画俳優デビューし、バイリンガル俳優としても話題に。ほかに日本の海外向け番組やアーティストのプロデューサー、テレビパーソナリティー、YouTubeのクリエイターなど、さまざまな業界で活躍中。
公式サイト:https://www.nellybc.com/
Twitter:https://twitter.com/babin_coy
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCCVXvioNdjRJsuCrwkbnUMw
Instagram:https://www.instagram.com/babincoy/

構成:田中洋子/編集:ENGLISH JOURNAL ONLINE編集部