この記事は決して見ないでください!?「神話」で読み解く人間心理

アルクの英語情報誌『ENGLISH JOURNAL』(イングリッシュジャーナル)の動画連動企画「EJ Lecture」。「神話」をテーマとしたレクチャーの第2回目。「カリギュラ効果」を背景に、ギリシャ神話「オルフェウスとエウリュディケ」と日本神話「イザナキとイザナミ」の類似点と違いをひも解きます。人間が「禁止されたこと」に魅かれる心理と、古代の神話が示す夫妻のエピソードを通して、その不思議を探求します。

神話に登場する「見るな」のタブー

「この記事は決して見ないでください」という、煽るような記事タイトルで大変失礼いたしました。「神話」をテーマとしたレクチャーを紹介する、いたって平和な記事なので安心して読んでいただければと思います。

皆さんは、Web広告やYouTubeの動画などで「閲覧注意!」「心臓の弱い方はクリックしないでください」などと書かれているものをついつい見てしまう、そんな経験はありませんか?「『見てはいけない』と禁止されると逆に見たくなる・したくなる」という人間心理をうまく利用したもので、一般に「カリギュラ効果」と呼ばれています。

カリギュラ効果とは、古代ローマ帝国の暴君として知られる皇帝カリギュラを題材にした映画『カリギュラ』が語源と言われています。過激な内容のためにアメリカ・ボストンなどの一部地域で上映禁止になったことで、かえって世間の話題を集めてヒットしたということにちなんでいるそうです(諸説あり)。

では、なぜ人は「決して〇〇してはいけない」と言われると、逆に興味を持ってしまうのでしょうか? 人間は昔も今も「禁止されたこと」に抗えない生き物だということが、実は古代の「ギリシャ神話」「日本神話」のエピソードからもわかります。 その神話例について、詳しくは動画で見てみましょう。

ギリシャ神話「オルフェウスとエウリュディケ」:(動画03:02~03:23)

There is one important qualification, they say, Hades and Persephone  says to Orpheus. They give older, and their order is not, never looking at Eurydice while Orpheus is guiding Eurydice to the upper world.

一つの重要な条件があることを、ハデスとペルセフォネはオルフェウスに告げます。彼らの命令は、(オルフェウスは)エウリュディケを地上に導く際にエウリュディケを決して見てはいけない、というものです。

音楽家のオルフェウスは、妻エウリュディケを亡くして悲しみに暮れ、自ら冥界に向かいます。そこで冥界の王ハデスと女王ペルセフォネに出会い、エウリュディケを連れ帰ることを許してもらいます。ただし、その際に「地上に戻るまでエウリュディケを決して見てはいけない」という条件を付けられます。しかし、道中で不安になったオルフェウスはエウリュディケを見てしまい、彼女の姿は永遠に消えてしまうというエピソードです。

「見るな」と言われたにもかかわらず、エウリュディケが自分の後を付いてきているか不安に駆られて見てしまったために、妻を連れ戻すことに失敗した というわけです。

日本神話「イザナキとイザナミ」:(動画06:05~06:48)

Iizanami says to Izanaki that I want to go. I want to go to back to the upper world, but I can't. I want to kind of negotiation to, to the gods of underworld, so please wait. So she says to her husband, and her husband agrees with it. But there is a qualification again there is again a qualification and while she is preparing to return to the upper world, Izanaki must not look at her.

イザナミはイザナキに、私も(一緒に地上へ)行きたいと伝えます。ですが地上に戻りたくても、できません。イザナミは黄泉国の神に交渉しようと思い、(イザナキに)待つように言います。イザナミがイザナキに伝えたことに、イザナキも了承します。しかし一つ条件があり、彼女が地上へ戻る準備をしている間、イザナキは絶対に彼女を見てはいけないということです。

男神イザナキは、妻である女神イザナミを出産が原因で亡くし、黄泉国に向かいます。イザナミは黄泉国にしかない食べ物を口にしてしまったために地上に戻れなかったのですが、どうにか黄泉国の神を説得することを試みます。

ただし、その準備をしている間は「自分の姿を決して見てはいけない」という条件をイザナキに言い残し、イザナキはそれを待ちます。しかし待ちきれなくなったイザナキは、イザナミの全身にウジがたかっている姿を見てしまい、恐怖のあまり逃げ出します。その結果、不仲になった夫婦は離婚を決断するというエピソードです。

こちらもギリシャ神話と同様に、「見るな」と言われたにもかかわらず、心配になってつい見てしまったため、妻を連れ戻すことに失敗した というわけです。

ギリシャ神話と日本神話~類似点と相違点

ギリシャ神話「オルフェウスとエウリュディケ」と日本神話「イザナキとイザナミ」は、どちらも主要な登場人物が「夫と妻」であり、「夫が死んだ妻を地下世界から連れ戻すのに失敗する」という話の流れも似ています。

しかし実は異なる点もあり、エピソードの中で「ルールを課す者」と「ルールを破る者」がそれぞれ違うことがわかります。

ギリシャ神話「オルフェウスとエウリュディケ」:
ルールを課す者:ハデスとペルセフォネ(
ルールを破る者:オルフェウス(人間

日本神話「イザナキとイザナミ」:
ルールを課す者:イザナミ(
ルールを破る者:イザナキ(

基本的な内容は似ているものの、上記のように登場人物の関係性が異なるために、2つの神話は違った印象を与えています。

次回は、この2つの神話について、より深く掘り下げていきます。「ギリシャと日本というかけ離れた場所で、どうして似た内容の神話が存在するのか?」この疑問に迫ります!

勝又泰洋
勝又泰洋

1987 年、神奈川県生まれ。京都大学ほか非常勤講師、各種カルチャーセンター講師。専門は、ギリシャ・ローマ神話、比較神話学。大学生および一般の人々に神話の魅力を伝えることに尽力。

写真・動画:田村 充
構成・文:須藤瑠美

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