英語は「意味の濃い」単語を使いこなせればネイティブに近づく【日英翻訳者、遠田和子さんインタビューVol. 3】

遠田和子さん

日英翻訳者でライター、また英語学習の執筆を手掛け、企業の英語プレゼン講師なども務める、遠田和子さん。遠田さんの電子書籍『日英翻訳のプロが使う ラクラク!省エネ英単語』(GOTCHA!新書)発売を記念して、遠田さんのインタビューを3回シリーズでお届けします。第3回は、効果的な英語プレゼンや、伝わりやすい英語で話したり書いたり、日英翻訳したりするコツを伺います。

インタビューVol. 1:青学の英米文学科に入学するも、学内の「夜学」に夢中で通っていた

インタビューVol. 2:翻訳家になれる人の2つのタイプとは?出版翻訳の夢はこうしてかなえた

翻訳案件で提案したことを機に英語プレゼン講師

翻訳や執筆に加えて、会社の研修の一部として、社員の方を個人指導する英語プレゼン講師もしています。私が特化しているのは、学会で英語の発表をするエンジニアや研究者の指導です。

自動車会社のエンジニアの方や、化粧品会社の研究職の方などがいます。ご自身の研究成果を発表する際に、どうやってアピールすると効果的かを一緒に考えます。業務や成果について伝えたいことがたくさんあっても、プレゼンで全部言おうとすると、印象が薄くなってしまいます。

それを、例えば、「あなたが一番伝えたいこと、アピールしたいことは何ですか?」と問い掛けたり、「このスライドはこうしてみたらどうでしょうか?」「こうした方が注目してもらえますよ」と提案したりします。対話を通して、伝わるプレゼンに変えていくお手伝いをするのです。

英語の話し方についても、本番前のリハーサルで、「アイコンタクトや語の強勢に気を付けてください」などと伝えます。そうして、より良い英語のスピーチができるようにします。

そういうコーチングを始めたのは、プレゼン資料を翻訳する仕事がきっかけです。スライドやスピーチ原稿を英訳していて、内容について「こうしたら、もっと良くなる」と思うことがいっぱいあったのです。

それで、提案書を作って、エージェントを通してクライアントに渡しました。「伝わる英語の書き方とは」「魅力的なプレゼンとは」とか、そういう内容です。

そうしたら、クライアントから「1回教えてみてくれませんか」と言われて、やってみたらお役に立てたようでした。その会社とは、プレゼン指導の仕事がもう10年続いています。

言語と文化の差異を踏まえたライティング学習書

英語学習書を初めて出版できたときは、自分でも驚きました。

あるとき、これだけ長いこと日英翻訳をしてきたのだから、英文ライティングの本を書けるのではないかと思って、企画書を書きました。だけど有名でも何でもないから、無理かなと思いつつ、知人から出版社の担当者の名前だけ教えてもらって、企画書を送りました。

その企画書がなぜか編集者の目に留まり、私の話を聞いてくれて、営業会議や編集会議も全て通過しました。「企画が通りました」と言われて、うれしいのと同時にびっくりでした。私は運が良いのかもしれません。

英文ライティングの本は、フレーズを列挙して、それらを使いましょう、というだけでは駄目だと思います。

私は、日本語と英語の間を、毎日、行き来しているわけです。技術翻訳であっても、日本語と英語の間の言語的な差異をすごく感じます。出版翻訳となると、言語に加えて文化の差異も関係してきます。そういう根っこの違いを知った上で、発想転換をしないと、本当の意味での英語らしさや日本語らしさには到達できないと思うのです。

だから、通じる英語を書くためには、ただ単にフレーズを覚えればいいわけでも、TOEICで高得点を取ればいいというわけでもありません。

去年の秋に出した『究極の英語ライティング』という本でも、私のベースは同じです。日本語と英語の言語としての違いを認識した上で、どういうアプローチで英語を書けばいいのか、ということ。といっても、難しいことではなくて、簡単なスキルを身に付けることで、発想転換できるようになります。

私が日英翻訳講座で教えている翻訳学校に来る人も、五里霧中の方がたくさんいます。何を指針にして英語を書けばいいのかが分からないのです。

翻訳して、それを直されて、というステップを繰り返していても、どうして直されたのかが分からないし、直しを次にどう生かせばいいのかも分からないわけです。

だから、もっと体系的に学びたいというのです。私はある意味、方法論を教えるので、講座の終了時に、「すっきりしました、何を指針にすればいいのかが分かるようになりました」と言ってくださる方もいます。

日本の旧来の英語教育は、英語を神棚に上げて、パンパンって拝んでいるような感じがします(笑)。「英語とはこういうものです、だから、そのまま全部覚えなさい」というような。そうではないでしょう、と思います。

遠田和子さん

英語は平易な表現方法をゴールに

何をどう目指せばいいのか分からない、という英語学習者がたくさんいて、他方、英語教材はいっぱいあります。でも教材で勉強してみても、やっぱりよく分からない、という方がいます。

その戸惑いの原因の一つには、ゴールが見えていない、ということがあります。新刊『日英翻訳のプロが使う ラクラク!省エネ英単語』の一つの狙いは、読者にとってawareness(気付き)の機会になること。伝わる英語って難しいものではなくて、簡潔明瞭、平易な英語の方が伝わる、ということに、まず「へえー!」と思ってほしいのです。

難しい文、複雑な文が高尚なわけではありません。SVO(主語+述語動詞+目的語)から成る分かりやすい英文を作ること、SVOで発想することが大事、と伝えたいのです。そのことに気付いてもらえたら、本の大きな狙いは達成できると思っています。というのも、どういう英文が良いのかが分からないと、どこを目指せばいいのかも分かりませんから。

本では英語の動詞を中心に紹介しています。その理由は、動詞に英語の本質があるからです。英語は動詞指向の言語で、「誰かが何かをする(Somebody does something.)」という構文が最も英語らしいと言えます。つまり、先ほどもお話ししたSVOの文ですね。

でも、日本語の構文は英語のそれとは異なっています。日本語の構文をそのまま英語にしようとすると、大抵、be動詞が多い英語になってしまいます。be動詞を多用する英文はしばしば冗長になります。それをSVOの構文にすることで、英語らしい簡潔な表現にできるのです。

例えば、「AさんはB部署のマネジャーです」を、Mr. A is the manager of the B division.ではなく、Mr. A manages the B division.と言えば、だいぶ語数が減ります。

どこで語数が減っているかというと、名詞managerを動詞化することによって、冠詞と前置詞がなくなるのです。その2つは、日本人が不得手な品詞ですよね。動詞で発想すると、日本人が間違えやすい語を使わなくて済みます。なおかつ、英文がより生き生きとした力強いものになるのです。

「意味の濃い」英単語を活用する

「意味の濃い」言葉というのは、1語の中にたくさん意味が詰まっている言葉のことです。

例えば、動詞のlookは「見る」という意味です。でも、「見る」という動作を表す動詞は他にもいろいろあります。glareという1語なら、「見る」という動作だけではなく、その動作が持続する時間、さらに感情のニュアンスも加わります。

glareの定義を英英辞書で調べると、「look angrily at something for a long time」と書いてあります。angrily=怒りの感情で、for a long time=長い時間。つまり、lookとglareそれぞれの情報量は、glareの方がずっと多いわけです。

glareのような意味の濃い言葉をうまく使えば、たくさんの言葉を費やす必要がありません。

辞書で、日本語に対応する英語を1語ずつ引いていくと、例えば、日本語で「大きな声で叫ぶ」なら、「大きな声で」はin a loud voice、「叫ぶ」はshout、と、出てきた単語を全て使って、英訳や英作文をしてしまいがちです。でも、shoutにはin a loud voiceの意味が含まれていますから、一言shoutと言えばいいわけです。

さらに例を挙げると、spoonやforkなども動詞になります。「アイスクリームをスプーンですくう」と言いたいとき、「すくう」は何て言うのかな?と思いますが、実はspoon out ice creamとすれば、全部言えてしまうわけです。

「英語ってこんなにシンプルでもいいんだ」ということに気付けると、では自分が何を学べばいいのかが見えてきます。

「SVOで組み立てればいい」と分かり、英語に触れているときに「この動詞にはすごくたくさんの意味が詰まっている」と気付いて、強い動詞を自分で発見できるようになっていきます。

そうすると、「英語って面白い」と思えてきます。

英語では1文は30語未満がベスト

受験英語の弊害かもしれませんが、私は高校生のときに散々、英文解析といって、長文を読まされ、ここがSとVだ、とか、この関係代名詞はここにこういうふうに係っている、とかの分析をしました。そういう勉強、しませんでした?

長くて分かりづらい英文を散々、読まされてきたのではないかと思います。英語圏では、plain English(平易な英語)がだいぶ前から推奨されているのに、それを教わる機会はありませんでした。

翻訳者の方によくお伝えすることがあります。それは、1文に30語以上入れないように、ということです。

日英翻訳するときに、原文の日本語では1文が長いことが多くあります。日本語では、属性の異なる情報が1文に入って長くなっても、あまり気になりません。だけど、それは、one sentence, one idea(1文には1つのアイデア)を重んじる英語では駄目なのです。

英語で1文の長さが30語以上になったら黄信号で、40語を超えたら赤信号になります。15から25語くらいが平均的な長さです。

だから、日本語の原文を切って訳しましょう、と私はよく言っています。でも、日本語の1文は英語の1文に翻訳しなければいけない、と思っている方がいるようです。そうする必要はないですよって伝えるのですが、プロの翻訳者でもそんな呪縛にとらわれている人がいます。

遠田和子さん

息抜きはバレエと旅行

バレエは週2回必ずレッスンに通っていて、10年は続けています。永遠の初心者ですけど。床に胸をベターっと付けて開脚できますし、スプリッツもできます。

劇場に見にも行きます。自分が習っていると、舞台でバレエダンサーがいとも簡単にやっている動きが本当はすごく難しいテクニックだと分かって、なおさら素晴らしさを感じられます。

旅行は、年に2回くらい海外旅行に行くようにしています。1回2週間くらいで。フリーランスなので、飛行機代が一番安いときに行きます。6月とか4月とか。

直近ではスペインに行きました。その前はエジプトに。今まで行った中で一番エキゾチックだった場所は、アフリカのボツワナ共和国です。

遠田和子さんの新刊『日英翻訳のプロが使う ラクラク!省エネ英単語』

GOTCHA!人気連載に書き下ろしを加えた電子書籍「GOTCHA!新書」に、遠田さんの本が登場!簡潔な表現を好むアクション(動詞)指向の英語を言ったり書いたりできるようになる方法を、日英翻訳の確かな経験から伝えます。日本語の原文からは想像もつかない魔法のような英訳術に触れて、英語の自在な使い手になりましょう!

遠田和子(えんだ かずこ):日英翻訳者、ライター。著書に『究極の英語ライティング』(研究社)、『Google 英文ライティング』『英語「なるほど!」ライティング』『あいさつ・あいづち・あいきょうで3倍話せる英会話』(講談社、含む共著)などがある。共訳書は『Love from the Depths ― The Story of Tomihiro Hoshino』(立風書房)、『Rudolf and Ippai Attena』(講談社)、『Pilgrimages in the Secular Age: From El Camino to Anime (Japan Library)』(出版文化産業振興財団)など。http://www.wordsmyth.jp

取材・構成:GOTCHA!編集部/写真:山本高裕(GOTCHA!編集部)