北九州市立大学准教授であり、言語学者でもあるアメリカ人のアンちゃんが、日本語ならではの表現に挑みます!今回は「微妙」という言葉にタックル!
毎日、新しい発見があるって素晴らしい!
ハロー!前回の記事を読んだ?勉強になったろう?私も、この連載のおかげで頭が良くなってきている気がします。
言葉は面白い。
意味が分かっていると思う言葉でも、記事を書いてみると、さらに深く理解できるようになる。自分の母国語だろうと外国語だろうと、同じだと思います。
先日、私はラジオで「まったく初めての人でもできます」みたいな発言を聞きました。「あれ?『まったく』は『…ない』とセットで使うと思ったけど、もしかしたら、それは『全然大丈夫』と同じような言葉の変化かもしれない!」と思いました。
そこで日本語のプロに聞いてみたら、彼女は「うん、そう!ベストじゃないけど、みんな使っているから仕方がない」と言いました。確かに、言葉は生きているけん、使っている人のニーズに合わせてどんどん変わっていく。でも、その友達が辞書で調べてみたら、「まったく初めての人」という使い方は全然大丈夫だと分かりました。
言葉のプロでも、全くの初心者でも、毎日、毎日新しい発見がある。毎日、新しいことを習える。
素晴らしい!
私は去年、この執筆活動を始めました。そして、今はテレビ、ラジオに出演し、講演会活動もやっています。この一年間の、日本語に関する知識の増加量は半端ないって!
だけどそれと同時に、まだ分からないことがたくさんあると毎日気付きます。でもこれは落ち込むことじゃなくて、ワクワクすることです。
ちなみに、「活動」や「活躍」という日本語にぴったり当てはまる英語がない…。マジ困るわ。
さて、今週の不思議な日本語について考えましょう。今日の単語は…
「微妙」です!!
もともと仏教用語だった「微妙」の今
多くの日本語の言葉と同じように、「微妙」はもともと仏教用語です(「もったいない」もそう!)。仏教での読み方は「みみょう」。第一の定義は「言葉で言い尽くさないくらい不思議で奥深く素晴らしいこと」。
この定義を読むだけで、私は日本語にさらに恋をした!この「微妙」は間違いなくポジティブな意味です。
でも今、最もよく使われる「微妙」の意味は、ポジティブでもネガティヴでもありません。2つの物を比べるとき、「ほんのちょっとの違いがあるけど、その違いを言葉で表すことができない、または違いが分からない」ことです。
例を挙げます。
お母さんの肉じゃがと、おばあちゃんの肉じゃが、どっちもおいしいけど、微妙に味が違う。
My mom and grandma’s beef and vegetable stews are both awesome, but there is a subtle difference in the taste. I just can’t put my finger on it.
「微妙に違う」なら“There is a sutble difference.”のように表現できます。
“I just can’t put my finger on it.”という慣用表現を知っていますか?これは「何か、違う。何かおかしいけど、説明できない」みたいな意味で、違和感があるときに使います。
あの2人は一卵性の双子なんやけど、見た目は微妙に違う。
They are identical twins, but there is something different about how they look. I just can’t put my finger on it.
多くの日本語と同様、「微妙」の意味も変化してきています。最近は、ちょっとネガティブなニュアンスで使うこともありますね。何かのことを「好きじゃない」とか「好みじゃないけど、直接に言ったら失礼だ」と思っているときや、「本当に思っていることをうまく言えない」というようなときに、この「微妙」を使います。
例文を見てみましょう。
このピザは微妙な味がする。
This pizza tastes INTERESTING...
interesting を強調してゆっくり言うと、この「微妙」と同じくらいネガティブなニュアンスが生まれます。一方、この英語をうれしそうに言ったら、「本当に面白い!初めての味だけど、なかなかいい!」という意味になります。
“I’ve never tasted anything quite like this.”(こういうは食べたことがないなぁ)と言うこともできます。これは褒め言葉として使うときもあるけれど、「あまり好きじゃない、好みじゃない」というニュアンスもあります。
アメリカ人は、日本人ほど丁寧で遠回しな言い方はしませんが、はっきり言わないときはあります。ストレートに言うアメリカ人でも、例えば「ゲー!これはバリまずいバイ」みたいな表現はあまり言いません。
ちなみに、それを言いたかったら、“Eww... This is so gross!”ですが、友達が作ってくれた料理がそんな微妙な味だったとしても、その人を傷つけたくないけん、丸く言います。
“This is INTERESTING...”も“I’ve never tasted anything quite like this!”も、イントネーションや表情で意味が変わってきます。でも、日本語にもそういうときがありますよね。
例えば「これはおいしくない(?)」と言うとき、文末を上げれば「おいしいやろう?」とか「おいしいよね?」という意味になります。でも、フラットに言えば、本当においしくないと思っていることになります。
「微妙」のビミョーな使い方いろいろ
ここまで文の中で使う「微妙」を見てきました。それでは、単独で「微妙…」と言いたいとき、どんなふうに英語に訳したらいいと?
私は大学の教員やけん、「微妙」という言葉をよく聞きます。最も多いやり取りは、
「ね、テストはどうだった?」
「微妙…」
ここでの意味は、「わけ分からんけど、なんか、自信があまりない」という感じ。実は、この「微妙」が一番英語に訳しにくい。当てはまる英語がなかなかないんです。
最も近いのはこれ。
I’m not really sure, but I don’t feel that good about it.
もう一つは、これ。
Not so good.
食べ物の味でも、テストでも、自分の気持ちが本当に分からないときは、次のように言いましょう。
“I’m not really sure if I like this dish or not.”
(この料理がおいしいかどうか、よく分からん)
“I’m not really sure how I did on the test.”
(テストができたかどうか、よく分からん)
微妙の使い方はほかにもいっぱいあるけん、私自身、微妙に分かっていないかもしれない。やけん、もっと例文を見てみよう。
親友と同じ髪形にしたけど、なんか、微妙に違う。
I got my hair cut in the same style as my best friend, but there is something different about it.
二人とも日本語が流暢に話せるけど、弟のほうが微妙にうまい。
They both speak Japanese fluently, but I just feel the younger brother is a tad bit better.
tad bit は「ほんの少し」という意味です。
ちなみに、日本語の「少し」は、そのまま英語で使われることがあります。アメリカ全国には広がっていませんが、数年間前に見たテレビドラマで、主人公が“Hey, could you move a skosh to the right?”みたいなことを言いました。驚きで気絶しそうになりました。
話が脱線して申し訳ない!例文に戻りましょう。
入試はどうだった?受かったと思う?。
分からん。微妙。Hey, how’d you do on the entrance exam?
I have no idea. But probably not that good.
もし、本当に分からない、ぎりぎりかなと思ったときには、“Not so sure. It’s gonna be close.”(分からん。ギリギリかな)とか、“Not so sure. It could go either way.”(分からん。受かるかもしれんし、落ちるかもしれん)のように言えます。
あのパーティーに行きたくないわ。雰囲気は超微妙だ。
I don’t wanna go to that party. There is just something weird about the atmosphere.
weird を直訳すると「変」や「おかしい」という意味です。
彼の英語はうまいけど、発音は微妙におかしい。
His English is really good, but his pronunciation is just a little off.
His English is really good, but there is just something weird about his pronunciation.
※ 2つ目の文は結構否定的やけん、気をつけて!
a little off は「微妙におかしい」「ちょっとずれている」という意味です。
まとめ
どうだった?英語の勉強になった?微妙?笑笑。
日本は、曖昧さを大事にする文化やけん、その曖昧を表す表現が多いことは当然だと思います。その一つが、今回取り上げた「微妙」です。もともとの意味はそれほど英語にしづらくありませんが、多くの言葉と同じように、意味は次第に変わりつつあります。
言葉は生きているけん、それはある程度納得しないといけませんが、外国語を勉強している人はマジ可哀想!!
今日、読んでくれてありがとうね!次回の記事は何を書こうかな。
【参考】
「微妙」という言葉に隠された本当の意味(東洋経済ONLINE)
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文:アン・クレシーニ
アメリカ生まれ。福岡県宗像市に住み、北九州市立大学で和製英語と外来語について研究している。自身で発見した日本の面白いことを、博多弁と英語で綴るブログ「アンちゃんから見るニッポン」が人気。Facebookページも更新中!