挫折は、幸せをつかむきっかけになる。川平慈英 インタビュー

「クゥ?!」でおなじみの川平慈英さんに、英語を身に付けた方法や、挫折しそうなときに気持ちを切り替える方法など、学習に必要なメンタルの鍛え方を2回にわたって教えていただきます。

英語は話せばうまくなる

バイリンガルになるまで

私は沖縄県那覇市出身で、父が日本人で母がアメリカ人だったので、幼少期は家庭で英語と日本語の両方を使って会話をしていました。

アメリカ人の母は、子どもたちの会話のすべてを把握したい性格で、私たち兄弟が日本語でケンカしていると、「何を言っていたの?」と聞いて、英語で答えさせました。おかげで、子どものころから自然と英語を話すようになっていました。

「ハーフ」だから苦労したことも

沖縄に住んでいた幼少期は「ハーフ」であることが嫌でした。ちなみに私たちは「ハーフ(半分)」ではなく、「ダブル(倍)」と言ってました。沖縄では、アンチ・アメリカの人たちが多かったのです。「米兵 ゴー・ホーム!」と、罵声を浴びたこともありました。アメリカの軍人と日本人女性の結婚が多い中、私の父母はその反対のパターンだったのですけどね。

ところが、小学5年生のころ東京に転居すると、転換期が訪れます。転校したばかりの私に「ハーフなの?カッコいい!」「お母さんアメリカ人なの?家に遊びに行っていい?」と新しい友達ができて、「ハーフって意外といけるんだ!」と鎧が取れました。

2カ国語が話せて「いい!」と思うこと

ミュージカルの仕事では、バイリンガルでよかったと感じることがあります。日本語のミュージカルでも、ほとんどは原作が英語です。日本語に訳される前の英語のシナリオを読んだり、英語の原曲を聞くと、「こんなふうに書かれていたのか、これが言いたいのか」と気付くことができます。日本語には訳されない、訳しずらい奥の意味を知り、より深く役を理解して演じることができます。

ミュージカルで歌う英語の歌は、気持ちよく表現できて乗れることが多いです。日本語に訳した歌よりも、私自身、ストレートに意味が表現できるからなんだと思います。

表現力が評価されたことが自信になった

三谷幸喜さん演出、香取慎吾さん主演の4人芝居『TALK LIKE SINGING』を2009年にニューヨークで公演し、私が狂気に満ちた心理学者の役を演じたときのことです。

せりふには医者が使うような専門用語が多かったため、きちんと言えるか心配でした。しかし、 冒頭のモノローグで言った私のジョークに観客が笑ってくれたんです 。通じた!うけた!するとしびれるくらい自信が満ちてきました。

劇の最後には観客からスタンディングオベーションをもらいました。ショーの後には、初老の女性が“You’re good!”と私に力強く言いに来てくれました。 役者としてブロードウエイの舞台で表現力と英語力が評価された ことが大きな自信になりましたね。“You’re good!”の一言がまた聞けるなら、どんな努力も惜しみません!母から英語を使うようしつけられたことに感謝しています。

壁を乗り越えるための心の切り替え術

挫折したときに、自分の中の何かが壊れる音が聞こえた

高校の3年間「読売サッカークラブ(現東京ベルディ1969)・ユース」に通っていました。私は足の裏でボールを引き戻す「引き玉」や相手の両足の間からボールを通す「また抜き」が得意で、当時、ラモス瑠偉さんや与那城ジョージさんにかわいがってもらっていました。その後、全額奨学金をもらい、サッカーが強いテキサス州立大学に留学したのです。

ところが、大学2年目のシーズンの途中で監督が変わると、私のプレースタイルを好まない新監督に戦力外通告を言い渡されたのです。私はベンチウォーマーになっていました。私はプロを目指していましたが、試合に出てないとスカウトが来てくれません。そこで思い切って、監督に起用してほしいと直訴しました。すると・・・

Oh, thank you for asking. Thank you for giving me the chance to tell you about this. I don't need you.
やあ、聞きに来てくれてありがとう。君にこれを言うチャンスを君の方から与えてくれたことに感謝するよ。君は必要じゃない。

「君はもう使わない。ほかのチームを紹介するよ」と新監督は続けました。挫折って音がするんですよ。ガシャーン!シャリーン!血の気が引いていきました。生まれて初めての経験でした。その夜、学生寮に帰って親友の前で号泣し、帰国を決意しました。

挫折が、幸せをつかむきっかけになる

プロサッカー選手への夢を諦めた私は、SAT (アメリカにおける大学進学適性試験)を受け、上智大学に合格しました。そんなとき、大学生演劇に出会いました。

友達が、翌日がオーディションだというチラシを持ってきて私を誘ってくれたのです。演目は、ミュージカルの『Fame』。ダンスは好きで、中学のころからよく踊っていたので、受けてみることにしました。何しろ翌日のことだったので、私は何の準備もしないまま、オーディションに参加しました。

オーディションの会場で、私は受かりたい一心で、「俺しか見るなよ!」と強く思っていました。

Hey. Look at me. I’m here.
なあ、見てくれよ!こっちだって!

ダンスのコーチの目の前で「シェネ」というバレエの回転技を披露し、舞台監督のすぐ前まで近づいて行って自己紹介をしました。自分の気持ちが強過ぎて・・・

Just step back. You're too close . Back off. You're too near.
下がって、近過ぎます。下がりなさい。近過ぎです。

監督にそんなふうに言われてしまいました(笑)。でも、そんなアピールが効いたのか、見事オーディションに受かり、役をもらいました。これが私の役者としてのデビューとなったのです。

若いころは「地球は自分のために回っている」というような、根拠のない信仰心が、自分を突き動かしてたんですよね。さすがに減りましたが、アピールし過ぎて、「静かにしなさい」と怒らるれことは今でもあります。

自分を強く信じる気持ちを言葉にするなら、I’m good. です。ぜひ、皆さんも声に出して言ってみてください。自然と力が湧いてきますよ!

I’m good. Because I’m good. I don't know why. Because I’m good.
俺は素晴らしい!なぜなら素晴らしいからだ!なぜだか分からないけれど、俺は素晴らしいからなんだ!

今となっては、私にサッカーの夢を諦めさせた、テキサス州立大学の監督に感謝しています。「頑張ればなんとかなる」というような甘い言葉を言われていたら、プロ選手にもなれず中途半端なまま、今もアメリカに住んでいたかもしれません。

最もつらい瞬間が、一番の幸せへのきっかけになることもあるのです。私の場合は、サッカーをあきらめて帰国したからこそ、今があります。演劇と出合うことができました。何が人生を変えるか分かりません。つらいときであっても、何か新しい道を見つけたいと思ったら、迷わず飛び込む!それで人生がきっと変わります。

You’re good! Go for it! 

文:川平 慈英(かびら じえい)
文:川平 慈英(かびら じえい)

沖縄県那覇市出身の俳優。熱狂的なサッカー好きとしても知られ、サッカー中継等でナビゲーターも務めています。また、Eテレの番組 『コレナンデ商会 - キッズワールド NHK Eテレ こどもポータル』 出演中。

取材・編集:増尾美恵子 / 写真:山本高裕

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