連載「日本語スラング採集記」では、マッコーリー大学講師で日本語の研究をしている言語学者のウェス・ロバートソン先生が、日本語のスラングや若者言葉のあれこれを英語で解説し、日本の文化について考察していきます。この記事で取り上げるのは「~は飲みもの」「食ってみろ飛ぶぞ」。今回はグルメ系スラングについて考察します。
「~は飲みもの」:ドーナツが飲み物ってどういうこと?
ご存知のように、私たちにとって飲みものになるものは多くはありません。ビールや水ならOKですが、ピザは飲みものでしょうか?あるいは猫は?絶対ダメですね。でもこれ、つい最近までの話だったりして?
日本のインターネット上には、一般的に液体とはみなされない多くのものを「飲みもの」と呼ぶ流行があります。
どういうことでしょうか?以前、ウガンダ・トラという日本人のタレントが、カレーの早食いに挑戦した際に「カレーは飲みもの」と言ったことがあります。このフレーズは番組の出演者や視聴者全員の笑いを誘い、ある種のロングラン・ミームとなりました。その後このフレーズは、他の早食いタレントたちにも使用され、多くのパロディ画像やジョークが生まれていきます。
「カレーの飲みもの」は、元のフレーズを超えてネット上でちょっとした広がりを見せています。人々はカレーという狭い範囲から逸脱して、カレーのような本当に早く食べられる食べ物について話しています。最初は、スープのような食べ物を指して拡大していきましたが、実際、「~は飲みもの」というフレーズが成立するのに「スープ感」は必要ないようです。
例えば次の例では、「~は飲みもの」という表現は、パンを指して使われています。このツイートには「これは飲みものなのでは・・・って勢いで消えていきます」と書かれていますが、もちろんこれはパンであって、飲みものでもなければ、液体でもありません。つまり、カレーよりもずっと固形物であるにもかかわらず、「~は飲みもの」という表現が成り立つのは、その食べ物がとてもおいしくて、コップ一杯の飲みものを飲み干すのと同じスピードで消えてしまうということがポイントなのです。要するに、味のおいしさの話をしているのであって、汁っぽさの話をしているのではありません。
この「~は飲みもの」というフレーズから派生して、「飲める~」という表現も使われるようになっています。ポイントはやはり、「おいしくてびっくりするほど早く食べてしまう」ということです。この使い方の主な組み合わせは「飲める+ハンバーグ」で、これは通常、ハンバーグがおいしくてすぐに食べてしまうことを意味していますが、かなりジューシーであることも示しているようです。私の知る限りでは、この「飲めるハンバーグ」の組み合わせが、「飲める」の新しい使い方をを広めたように感じています。
とはいえ、「おいしさ」を表すために「飲める」をつけた食べ物は他にもたくさんあります。「飲めるピザ」や「飲めるステーキ」「飲めるホットドッグ」「飲めるドーナツ」などがあるようです。確かにおいしそうですね。
英語の原文
As we all know, only some things are actually 飲みもの. Beer? Sure. Water? Absolutely. But pizza? Cats? Absolutely not. Well, at least, absolutely not until quite recently. You see, the Japanese internet has started a fad of referring to lots of things that aren’t typically considered liquid as 飲みもの.
So what’s going on? Well, some time ago a Japanese タレント named Tora Uganda who was known for very quickly eating things once stated「カレーは飲みもの」 after someone marveled at the speed he devoured a plate of Japanese curry. The phrase made everyone on the show laugh and sort of became a long-running meme. It was borrowed by other speed eater talents, and spawned parody images and jokes.
Currently, the カレーは飲みもの has taken on a bit of an extended life online. People are dropping the カレー part to discuss foods that you can eat really fast like, well, curry. This was first expanded to include foods that have a bit of soupy consistency, but as of this article “soupiness” doesn’t seem necessary any more. In our first example below, for instance, we can see a writer literally spell out the purpose of the phrase「X」は飲みもの while using it to refer to a bread-based dish. Their tweet specifically says “this is a drink…. which means it disappeared quickly”… but it’s bread, of course, not a drink or even a liquid-ish food. So despite being much more solid than curry, the 「X」は飲みもの phrasing still works because the point is that the food is so good it disappears at the same speed you could down a cup of liquid, not that the food has a liquid consistency that makes it easy to consume quickly. In short: flavor, not soupiness.
As a spin off of this phrase, 飲める now also sees use before verbs as a modifier which means “so good you’ll eat it quickly”. Literally, of course, this means the thing is “drinkable”, but the point is again that the thing is so good that people will marvel at the speed you’ll eat it. The primary combination this use is 飲める + ハンバーグ, which usually indicates that the hamburg steak is both so delicious that you’ll eat it right up and also quite juicy. From what I can tell, this 飲めるハンバーグ combination popularized the new 飲める use.
That said, it wasn’t hard for me to find many other foods with 飲める slapped on to indicate something like おいしい. This includes 飲めるピザ、飲めるステーキ、and even 飲めるホットドッグ、飲めるドーナツ. They look tasty.
飛ぶぞ:元プロレスラーの長州力がはやらせたフレーズ
元プロレスラーの長州力がテレビ番組『相席食堂』でこのフレーズを使って、2020年に大流行しました。発端はホタテの貝柱を食べた長州力が「食ってみな、飛ぶぞ」と言ったシーンです。文字通りの意味は「食べてごらん、飛ぶよ」ですが、その意味は「あまりのおいしさにぶっ飛ぶ」「トリップする」ということです。このフレーズの斬新さに『相席食堂』のMC千鳥も大爆笑し、フレーズは日本中に広まりました。
それ以降、「飛ぶぞ」はスラングとして「とびきりおいしい」という意味で使われることが多いです。以下のラーメンについてのツイートはその一例です。
全体的に見て、飛ぶぞは99%くらいの確率で「おいしい」という意味で使われると思います。しかし、「ぶっ飛んでしまう」「心配事を忘れてしまう」「ただその瞬間に我を忘れてしまう」というような経験を指すこともあります。この場合、「おいしい」や「やばい」といった一般的な表現とよく似ており、本来の「食べてみて」のパロディとして使われることもあります。下のツイートはその一例で、古い車を運転する楽しさについて語るのに「飛ぶぞ」を使っています。
英語の原文
This term became extremely popular in 2020 after it was used by the former wrestler Riki Choshu on the TV show Aisekishokudo. After eating some scallops, Riki uttered the phrase “kuttemina, tobuzo“. While literally meaning something like “try it, you’ll fly”, the idea is that it’s so delicious you’ll be blown away or “trip”. The originality of the combined phrase caused Aisekishokudo‘s hosts to burst into laughter, and the sentence then spread throughout Japan.
As a slang term, 飛ぶぞ is therefore usually used to mean “extremely delicious”. In this form, it’s regularly pasted just “as is” into a tweet or similar message, complete with the kuttemina starter used by Riki. The discussion of ramen below is case in point.
Overall, I’d say that 飛ぶぞ is used to mean “delicious” around 99% of the time. However, it can also refer to any experience that causes you to be blown away, forget your worries, or just lose yourself in the moment. In this case, it’s quite similar to common phrases like すごい or やばい, and sometimes is employed in a parody of its original 食ってみな style. The poster below is case in point, using 乗ってみ、飛ぶぞ to talk about the pleasure (seems non-sarcastic) of driving an older car.
みなさんは「~は飲み物」や「食ってみろ飛ぶぞ」というフレーズを聞いたことや使ったことがありますか?ユニークな言い回しで表現すれば、おいしい食事の時間がもっと楽しくなるかも?次回も新しいスラングや面白い表現を紹介しますので、お楽しみに。また、日本語に興味を持っている皆さんが、より深く理解し、楽しむ手助けになれば幸いです。
校正・翻訳:渡邊雄介