外資系企業が求めているのはどんな人材なのでしょう。GE、モルガン・スタンレーなどの外資系企業に人事部長として25年在籍し、1万人以上を面接した経験をもつ鈴木美加子さんが、英語力に加えて求められる資質を教えます。
多様性を活かす
「女性が多い会議は長引く」との発言が大きく取り沙汰されました。多様性を理解していない典型的な例ですが、外資系企業では致命的な失言になります。外資系に転職する際には、性別や年齢で差別的なことを言わないようくれぐれも気を付けたいものです。
外資系において特に尊重される多様性は、まず「人種」についてです。25年間の会社員生活を振り返って、私の職場には必ず、中国人・韓国人・アメリカ人がいて、それ以外の国から来ている社員もちらほら在籍している状態でした。当然、「〇〇人だから」とラベルを貼るのはご法度で、発言には注意するようになります。
日本人の場合は、同じ黄色人種であるアジア系の人々への偏見に無自覚であることが多いので、特に注意しておくべきかと思います。会社員時代、出張の飛行機でビジネスクラスの男性客が、アジア系のCAと白人のCAとで態度を変え、前者に対しては随分と上から目線で接している場面を何度も目撃して、残念に思いました。彼の中では、今でも“Japan as No .1”なのでしょう。
多様性を持つ組織の強さは、発想力です。日本人だけで考えると、例えば、プロジェクトの進め方一つとっても思い込みに縛られて形骸化しがちです。一方、外国人が入ると、「あれ?このプロセス無駄じゃない?」とか「こっちの方が効率よいのでは?」と、新しい視点が持ち込まれ、議論にも幅が出て、最終的な成果物もよりよいものが出来上がります。
思い込みの実例を挙げると、ある企業で会社負担の英語クラスを作ろうとしていた時のことです。日本人は、曜日と時間とレベルの組み合わせを固定することしか考えていませんでした。日本ではそれが、ごく自然な英語クラスの組み方だからです。そのため、アメリカ人のスタッフに「同じレベルならどの授業に参加してもいいことにしては?」と提案されて、一同びっくりしました。
先生が大変なのではとの反対意見にも、「これは社員のためのプログラムですよね?忙しい彼らの利便性を第一に考えるべきでは」と上手に 主張 してくれました。思い込みは第三者に 指摘 されないとなかなか気が付かないので、斬新なアイデアを持ち込んでくれる人材は、どのようなバックグラウンドを持つかに関係なく貴重なのです。
「アサーティブネス」とは?
アサーティブネスとはなんでしょうか?「自分の 主張 を攻撃的でなく遠慮しがちでもなく、上手に堂々と 主張 できるスキル」と言い換えることができます。
英語初級者の頃は、自信がなくてついつい消極的になってしまいます。相手の顔を伺いながらモノを言い、萎縮しがちです。日本語の感覚から抜けられなくて、「すみません」を連発したり、「もしかしたら間違っているかもしれませんが」と話し始めたりしてしまいます。日本語では万能の「すみません」ですが、英語で“I am sorry.”になると、
悪いことをしてしまい申しわけありませんという意味になるので、頻繁に口にすると非常に自信がない人だと誤解されます。
英語に自信がつくにつれ、時計の振り子が極端から極端に振れて、いやに高圧的な英語を話す方が出てきます。相手のことより自分が大切で、言い負かしたいという気持ちが生まれ、“ Should (べき)”とか“You are wrong.(あなたは間違っている)”などと強過ぎる口調になったりします。 ちなみに 、“You are wrong.”は相手を完全否定する非常に強い言葉なので、交渉でこの一言を口にしたら、その場で話が終わってしまう残念な結果になります。
中間はないのかと言うと、それこそがアサーティブです。相手のことを尊重しつつ、自分の意見をしっかり持ち、言うべきことは言いながらも、相手をむやみに傷つけたり怒らせたりしないのです。相手によって態度を変えたりはしません。
ここで、消極的・アサーティブ・攻撃的の特徴を表にまとめます。
具体例でお話しします。ある時、ご夫婦でキャリア相談に来た方がいらっしゃいました。両方とも転職を考えていらっしゃるとのことで、夫は日本企業、妻は外資系企業にお勤めでした。夫君と話していて、「ところで英語はおできになりますか?それによって外資系をおすすめできるかが変わるので」と質問しました。その時の彼の様子で、私は「彼は英語はできない」と 判断 して、次の質問に移ろうとしました。ところが奥様の方をふと見ると、強くうなずいており、「あれ?」と思ったので、彼に「TOEICなどの英語のスコアをお持ちですか?」と質問してみました。するとなんとTOEIC 960点だというのです。
私はとても驚きました。しかしそれを聞いて即刻、彼は外資系には転職しない方がいいと、 判断 しました。「TOEIC 960点の実力があるのだから、彼は外資系が向いているのでは?」と思った方もいるかもしれません。しかし、私がそう 判断 した理由は、彼の英語力とは実は関係がないのです。 判断 の根拠は、彼に「アサーティブネス」のスキルが足りていないことでした。
彼のように謙虚過ぎるタイプは、外資系では損をします。TOEIC 960点ならば、「ビジネス英語はまったく問題ありません、TOEIC 960点ですし」と自信を持って言い切れるくらいでちょうどいいのです。100点の実力を謙虚に90点に見せるのが日本人の大半だとすると、100点の実力を150点に見せようとするのが英語人のおおかたです。せめて、100点を120点に見せられなければ、外国人と英語で仕事をするときに埋もれてしまいます。
英語で仕事をする機会が巡ってきたら、「謙譲は美徳ではない、能ある鷹は爪を見せる」を思い出して、謙虚になり過ぎないようにしましょう。
英語のロジカル思考
英語で仕事をする上で、ロジカルに話せることは非常に重要です。これができないと、「地頭」が悪いと誤解されます。一言で言うと、結論を 先に 持ってくればよいのですが、日本語の構造と英語の構造が違うため、慣れを必要とします。
英語のロジックと日本語のロジックの差
英語のロジック
日本語のロジック
2つの言語におけるロジックの違いは、
a) はじめに : 英語ではまず「結論」を述べるのに対して、日本語では長い前置きやあいさつから入ることが多いです。
b) 話のボディ : 英語では話の主旨が一貫している必要がありますが、日本語では特に書き言葉の場合、「そして」「ですが」「そして」とつながっていき、相反しているように聞こえたり、同じことを繰り返し述べたりする流れであっても許容されます。
c) 結び : 英語ではもう一度結論を繰り返します。日本語では最後に結論が現れます。
話の流れの違い ? 英語 vs 日本語
英語ネイティブの国では、「最初に結論を述べた後で、理由やデータなどの根拠を3つ挙げて、最後に結論を繰り返す」フォーマットを用いることが多いです。以下に 具体的な 「ロジカル」な会話を挙げます。
論点 : 明日の会議でA案を 提案する 件ですが、明日、社長が欠席することがわかりました。どうしましょうか?このように「結論を 先に 」を鉄板のフォーマットとして、英語のロジックで話せるように練習しましょう。多様性を活かし、英語でロジカルに 主張 できる人材こそが、外資系企業が求める人材です。日常の癖を少しずつ見直すことで、外資系スタンダードの人材に成長できます。今日から、多様性をリスペクトし、結論を 先に 端的に話し、自分の意見を上手に 主張する ことを始めましょう。結論 : 提案する のを来週の会議に延期しましょう。
理由1 : 社長はA案に賛成ですが、役員の中にあまり乗り気でない人が3人います。社長不在で議論が進むと、否決される 可能性 があります。
理由2 : 社長のスケジュールを秘書に聞いたところ、来週の会議の前後にも社内でミーティングがあるので、必ず来週の会議には参加するはずとのことです。
理由3 : A案の決定には、まだ時間的余裕があるので来週で十分間に合います。
結論を繰り返す: 以上3つの理由を基に、A案の提案を来週の会議に延期したいと思いますがよろしいですか?
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鈴木美加子 (株)AT Globe代表取締役。 GE、モルガン・スタンレーなど外資出身の元・人事部長。外資への転職エキスパート。 TOEIC 960点・英検1級。
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LinkedIn : https://bit.ly/2UbhGyy
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