さまざまな企業の英語教育や、英語への 取り組み を紹介するインタビュー連載「あの会社の英語人」。
第1回は、2012年に開始した社内公用語の英語化以降、10年以上にわたってグローバル化に 取り組む 楽天株式会社にフォーカスします。英語を使った現在の働き方やコミュニケーションについて、広報部の渡邊良太郎さんと與語めぐみさんに伺いました。
※本記事に掲載した写真はすべてコロナ禍前に撮影されたものです
グローバル化において、公用語の英語化は必然的なことだった
当社は2010年に社内公用語の英語化を宣言し、約2年間の準備期間を経て、2012年頃から正式に社内公用語の英語化を始めました。
その意図としては、「国内外に広がるグループの従業員間の円滑な情報共有を果たすこと」にありました。M&Aなどによる海外 展開 が増え、グローバル企業へと舵を切る中で、必然的に国外での仕事や外国籍の従業員が増えていった。そういった流れもあり、世界中の楽天グループの従業員が 言語という壁に阻まれず必要な情報を共有し合い進化を続ける ためには、社内公用語の英語化が必要であるという先読みがあったんです。
世界の最新情報をスピーディーにつかんでビジネスに取り入れていくためには、英語が必要不可欠です。一体感をもったグローバルな環境で、競争力のある組織を目指していく・・・それが英語化の背景にあった狙いでした。得意不得意は関係なく、グローバルな競争環境の中で、公用語の英語化は必要なことだったんです。
仕事を進める過程で、気付けば英語を身に付けている
現在は当社の 取り組み への認知も広がっており、元々英語が得意な従業員も多く在籍しています。しかしもちろん、英語ができないから入社できないということはまったくありませんし、2012年当時も英語が苦手でうまく話せない従業員も多くいました。社内公用語英語化のベンチマークの一つとして、TOEICをはじめとした一定の 基準 を設定していますが、どうしても英語が苦手でスコアが伸び悩んでいる従業員には、一緒に勉強法を考えるカウンセリングの機会も設けています。ほかにもセミナーやeラーニングの提供など、 社内公用語を英語化するのみではなく、手厚いサポートも 実施 しております。現在のコロナ禍においても、オンラインでのサポートを 整備 したりと、従業員の「学習したい」という気持ちには臨機応変に応えています。
もちろん、漠然と机に向かって勉強するだけではモチベーションを保つのも難しいでしょう。当社の場合、日々の仕事で英語を使う機会があることもあり、自然と英語でのコミュニケーションに慣れていける環境があります。現在、従業員の中には日本語が話せないメンバーもいて、グローバルメンバーが参加する会議は原則英語で進みます。英語圏出身の従業員もいればインドや中東をはじめ、欧米以外にルーツを持つ従業員もいて、さまざまな訛りの英語を聞くことでリスニング力の幅も拡がりますし、日々の何気ない会話から「こういう言い回しをすればもっと細かいニュアンスが伝わるんだ」といった学びが蓄積されていくんです。
相手に訴えたいことや、相手から引き出したいことは案件ごとに異なりますよね。例えば「時間がないけど頑張ってみるよ」と言いたいとき、おそらくほとんどの人が“I will try my best.”といったフレーズを思い浮かべるでしょう。ところがある日、ネイティブのメンバーが“Let’s see how much time we can muster.”という言い回しをしたんです。そこでmusterには「かき集める」という意味があることを知り、「そういう使い方ができるんだ!」と驚きました。その後、同じようなシチュエーションで真似して使ったみたときは気持ちよかったですね。「今の私、ネイティブっぽかったかも」って(笑)。そうやって、 仕事を進める過程で自然に英語が身に付く んです。英語で話すことの楽しさを実感しますし、勉強する意義も感じられるので、ますます学習意欲が上がっていきます。
人前で英語を話すのは恥ずかしいのか? 楽天に根付くカルチャーが後押ししたもの
英語化を実現するうえでもう一つ重要だったのは、「 間違いを恐れずに、シンプルな英語でどんどんコミュニケーションを取っていく 」ということです。日本人は、同じ日本人がいる空間で英語を話すことや、人前で自分の英語力をさらすことに抵抗感がある人も多いかもしれません。その気持ちも非常によくわかるのですが、当社においては不思議とそういった感覚がないんです。例えば毎週月曜日に行う「朝会」と呼んでいる全体会議は、英語で 実施 されます。誰もが英語で話す環境があるので、恥ずかしがらずに積極的に英語を使っていく土壌が育ったのだと思います。
いまだに相手が私の言葉をくみ取って「こういうことね」と言い直してくれることもあれば、逆に日本語が苦手な従業員に日本語での表現を教えてあげることや、資料を直してあげることもあります。“One more time, please.”と聞き返すことも日常茶飯事ですが、真摯に相手の言葉を理解しようとする人を悪く思う人はいません。母国語が違う者同士、支えあい学びあう風土が根付いたおかげで、「間違っていたら恥ずかしい」と感じることはないんです。
流暢さやアクセントが美しいのは理想ですが、それよりもまず 「互いに歩み寄る」という姿勢が、英語を使う上で何より大事なこと なのかもしれません。つたない英語でも相手に思いが伝わると、やっぱりとてもうれしいものですよね。そういった小さな成功体験の積み重ねが、従業員一人ひとりにとって成長の機会となっています。
英語は目的を達成するためのツールである
お話ししてきた通り、異なるバックグラウンドを持つ者同士が歩み寄ることのシンボルが、当社においては「英語を一生懸命話す」ことでした。だからこそ、社内公用語の英語化の実現に向けてここまで本気で取り組めたのだと思います。しかし 同時に 、 英語はあくまでもツールにすぎない という考えも重要です。英語でのコミュニケーションを通じて、最終的に達成したいことをいかに実現できるか。事業をグローバル 展開 しながら、世界中の人々にとって常識をくつがえすようなイノベーションを生み出し続け、弊社のビジョンである「グローバル イノベーション カンパニー」を達成し続けていくことだと思います。
現在弊社は新型コロナウイルスの感染 拡大 を受け、原則在宅勤務となっていますが、本社の楽天クリムゾンハウスでは70以上の国や地域出身の従業員が働いています。ほぼ外国籍のメンバーで構成されるチームもあります。英語化はよりよいフェーズに入ってきていると実感しています。英語でのコミュニケーションがこれまで以上に当たり前になってきているのです。世界中の人材が集まることで、国を超えたネットワークも生まれます。例えば我々広報部で言えば、国内メディアと海外メディアのニュースの報じ方の 分析 や、海外でいち早く注目されている事業についてよりスピーディーに情報共有できています。
言葉は通じ合えてもカルチャーは異なるので、広い意味でのダイバーシティへの 取り組み は常に意識が必要であると言えるでしょう。カフェテリア(社員食堂)では、現在はコロナ禍で特別営業中ですが、ベジタリアンである従業員や宗教を配慮したメニューや祈祷室を用意したりと、 従業員全員が幸せに過ごせる環境 を目指してさまざまな工夫をしています。大変なこともありますが、凝り固まっていた考えがほぐされるような発見があるたびに「それぞれに個性があって、そのどれも間違いではないよね」と思わされるんです。「日本人だから」「外国人だから」とバイアスをかけるのではなく、国や地域、人種で 判断 しない社内風土は本当に素晴らしいと思います。だからこそ誰もが働きやすい会社にすることができると信じています。
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