近年、 日本中至る所に外国人観光客が訪れています。その中でも、ここ1、2年で外国人観光客が急激に増えている、今、注目の港があるそうです。新しいインバウンドの 拠点 となったその場所に、なぜ外国人観光客が殺到し、何をしているのでしょうか。「通訳案内士」で「英語講師」の西田大(にしだまさる)さんに、お話を詳しく伺います。
世界では空前のクルーズブーム
今、先進国を中心として、 世界規模の「クルーズブーム」 が起きています。クルーズとは、海路を利用した大型客船による旅行のことです。半年ほどかけて世界一周をするクルーズから、日帰りで観光スポットを巡るものまで規模もさまざまです。
特に近年利用者を伸ばしているのが、一度に数千人が乗船できる大型船で世界中の観光地を訪れる長期のクルーズです。
船内には、レストランやバーなどの飲食施設は言うまでもなく、映画館、カジノ、プール、フィットネスセンター、医療機関なども備えています。少し古い話ですが、映画『タイタニック』をイメージしていただければいいかと思います。
長期クルーズの大きなメリットは、陸路や空路で移動する際の待ち時間や荷物の移送が必要なく、夜はゆっくりと船内で過ごし、日中は世界中のさまざまな観光地を巡ることが可能です。
近年、これらクルーズ船の寄港地として、地方の港町が活気づいています。私の地元、 静岡県静岡市にある清水港 も、数年前は海外からのクルーズ船の入港はほとんどありませんでした。しかし今では、年間50隻を上回る海外からのクルーズ船を受け入れています。
▼参考:清水港客船誘致委員会より
www.shimizu-port.jpクルーズ船の寄港地で起きていること
クルーズ船は、ほとんどの場合、寄港地へは午前中に入港し、夕方から夜にかけて出港します。入港後は、乗客の多くが、クルーズ会社や地元の旅行会社などが企画した、寄港地周辺の観光地などを訪れるツアーを利用します。個人タクシーを利用するツアーから数台の大型バスを利用するツアーまで、規模はさまざまです。
清水港の場合は、片道2時間ほどかけて箱根や富士山方面に出掛けるツアーもあれば、地元の神社や茶畑を散策するツアーもあります。 クルーズ船の停泊時間に合わせて数種類のツアーが用意 されています。
最近では、タクシー運転手や観光地の従業員の中に、英語の堪能な方も増えてきているようですが、やはりまだ十分だとは言えません。そして、このような ツアー において必要性が高まってきているのが「通訳案内士」なのです。
あるガイドツアーの一日
ここでは、私が担当させていただいたガイドツアーの一日を紹介させていただきます。
10:00 入港&歓迎セレモニー
春先の天気の良い日に、1000人弱の乗客を乗せ、およそ50日をかけて世界一周をしているクルーズ船(名前は伏せさせてください)が清水港に入港しました。入港後は、地元の学生たちや商工会議所の方などが参加される歓迎セレモニーが必ずと言っていいほど開かれます。
クルーズ船の乗客は富裕層の 割合 が高く、また、乗客が1000人程度と規模も大きいため、地元としても経済的なメリットを見込めるからです。セレモニーを終えて、いよいよお客さまと顔を合わせます。
この日、私はバスツアーでなく、観光タクシーでのカスタマイズされたツアーを 希望 されている60歳代夫婦のアテンドを依頼されていました。
11:30 顔合わせ
いよいよ対面します。会議通訳、電話会議なども含めて、どんな通訳においてもこの初対面の瞬間が一番緊張します。「初めて顔を合わせる」という理由ではありません。お客さまが話す「英語の相性」を 心配 してしまいます。
個人の差こそあるとは思いますが、私のような経験の浅い通訳者は誰もが同じ考えではないでしょうか。聞き取れるか聞き取れないかということではなく、どれだけスムーズに聞き取れるかというレベルにおいて、ガイドをするお客さまの話す英語が気になります。
この件についてはいつもよく質問を受けるので、もう少し詳しく伝えさせてください。
地域特有の英語を話すネイティブの発音には一苦労!
例えば、TOEICリスニングパートで満点レベルの方や、英検1級のリスニング問題を8割以上の正解率で解答できる方であれば、ネイティブスピーカーに話す英語を「ゆっくり話してもらう」か「繰り返し話してもらう」ことで、理解できないという状況は避けられると思います。
私もそのようにすれば聞き取ることはできますが、海外留学経験がなく、日本で市販されている音声教材のみでリスニング学習をしてきたため、ある地域特有の英語を話すネイティブの話を理解するのに苦労してしまいます。
つまり、非常にニュートラルな英語(市販の音声教材)のみを聞いてリスニング力を高めてきた一方で、実際には、そのようなニュートラルな英語を話すお客さまはほとんどいないのです。それゆえ、 初めて対面する前には、お客さまの「英語」がどれほどニュートラルな英語に近いかが 心配 になります。
「理解できない」ということはありませんが、「どれだけスムーズに理解できるか」ということが大切であり、ここで生み出される自然なコミュニケーションが、ガイド中の雰囲気にも大きく 影響する のです。
今回の私のお客さまはカリフォルニアから乗船された60歳代のご夫婦でした。対面時に握手した瞬間から、非常に聞き取りやすい英語でしたので、 安心 しました。
ツアーはお茶の工場見学が人気!
13:00 ツアー開始
行程表はツアーを企画した旅行会社から渡されます。その日の行程は、
①富士山と駿河湾の景観を楽しめる「日本平」
②静岡名産の緑茶の試飲ができる「地元お茶工場見学」
③近年外国人に人気のある「静岡浅間神社散策」
でした。
「富士山は含まれないの?」という質問もよくありますが、 多くのクルーズ船は清水港に入港する際に駿河湾を通って港に入ってきます。 その海上からの富士山の光景は大変素晴らしいようで(私は写真でしか見たことがありませんが)、たいていの観光客はそれで満足するようです。
また、夏から秋にかけての富士山は頂上部が冠雪していないので、そのこと(写真でよく見る富士山と異なること)でがっかりされる観光客も多いようです。
特に②の「お茶工場見学」は私も何度も海外からのお客さまと体験しましたが、本当に喜ばれるコースです。皆さんも、外国人と静岡に来られる際はぜひ立ち寄っていただきたいです。
kinzaburo.com最も気を配る出港時間
15:00 お見送り
クルーズのお客さまに対する地元ツアーでは、出港の時間厳守には最も気を配ります。特にお客さまは海外を周遊されているので、寄港地によっては一日に何度も時差に対応しなくてはいけない場合があります。
そのため、この 出港時間についてはガイドがしっかり 把握 しておくことが大切 です。もし出港時間に遅れてしまえば、原則として次の寄港地までお客さまと一緒に向かう必要があります。
私はいつも出港時間の2時間前には港に戻ってきて、近くのお寿司屋さんを紹介してそこで別れています。このときのカリフォルニアからのご夫婦のアテンドも大変楽しく、寄港地である横浜で大変盛り上がったのを覚えています。
通訳案内士が足りない!ますます需要が増えていく資格
日本を訪れる外国人観光客は、楽しい気持ちを持つ一方で、不安な気持ちも持っています。通訳案内士は、語学や知識の面からサポートして、 外国人観光客の日本滞在をより良いものにしていく役割 を担っています。これからますます需要が増えていく資格であることは間違いありません。英語力にある程度自信が付いてきたら、資格 取得 を目指されてはいかがでしょうか。
「全国通訳案内士」の試験とは?
「全国通訳案内士」の試験は、観光庁長官が 実施する 国家試験です。
訪日外国人に対し、日本の魅力をわかりやすく伝え、滞在中の生活を広くサポートするプロの観光ガイドとして、必要な知識及び能力を有する かどうか を 判定 すること目的として、毎年1回 実施 されています。
「全国通訳案内士」試験の年間スケジュール
- 5~6月:願書の配布・ 受付
- 8月:筆記(一次)試験
- 11月:筆記試験合格発表
- 12月:口述(二次)試験
- 2月:最終合格発表
最大限の効率で、確実に英語力がアップ! 西田さんの本
「正しい心」と「正しい学習法」で取り組めば、英語は誰にでも習得できる!読めばやる気と勇気がわいてくる、英語学習者必読の1冊です。
西田大(にしだまさる)
1973年生まれ。関西大学文学部英文学科卒業。TOEIC990点(満点)、英検一級、全国通訳案内士。23年間にわたり県立高校教員として勤務した後、通訳、英語講師として独立。通訳としての技量は高く評価され、国際会議や各国の大臣クラスの通訳にもアテンド。英語講師としては、TOEIC・英検等の検定試験から実用英語まで、幅広い分野の英語学習に精通し、その学習法・対策法は注目を集めている。著書に『 「音読」で攻略TOEIC(R)L&Rテストでる文80 』(かんき出版)、『 英語力はメンタルで決まる 』(アルク)、『 TOEIC(R)テストに必要な文法・単語・熟語が同時に身につく本 』(かんき出版)など。
- 静岡英語教室「英語屋」 https://terakoya-english.com/ (学校休校、外出自粛を受け、国内向け「オンライン授業」開始しました)
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