11月1日、2020年度の大学入試における英語民間試験の活用延期が発表されました。 実施 に向けて進められてきた英語民間試験ですが、突然の延期をどう受け止めればいいのでしょうか。英語のカリスマ講師であり、元文部科学省の「英語教育の在り方に関する有識者会議」のメンバーも務めた安河内哲也氏にお話をうかがいました。
方針 は堅持するべき">4技能を指導し、評価する 方針 は堅持するべき
――今回の延期発表についてどう思われますか。
安河内氏:この時期に突然の変更で、たいへん驚き、困惑しています。私自身も4技能を評価する入試が始まることに期待し、生徒たちと今まで一緒に準備してきました。もちろん英語の根本的な教え方は同じですが、皆がうまく次の入試に対応できるように、授業の構成をいろいろと考えていく必要があると考えています。
今後も リスニングの重要性が増すことは変わりません。そして、もともと資格試験のスコアをAO入試や推薦入試、一般入試でも出願要件や、加点・試験免除などに活用にしている大学は多数あります。留学をするのであれば、TOEFLやIELTSは必須です。ですから、生徒たちがこれまで資格試験に向けて勉強してきたことは決して無駄にはならないと思います。4技能を育成することは英語習得の基本であり、従来型の入試に対しても、役に立たないわけではないと思っています。
今回の延期の 原因 はいろいろあると思いますが、説明や発表が遅れて不安が広がったことが大きかったと思っています。私自身も、審議会から文科省とセンターにバトンが渡った後、さまざまな発表が大変遅れていたことや、説明があまりなかったことを 心配 し、いくつかの記事で述べていました。
ポータルサイトの開設ももう少し早く行うべきだったと思います。ただ、資格試験の活用は延期になりましたが、指導要領に即して4技能を測るという方向性は間違ってはいないと思います。それは世界の潮流でもあります。今回の延期によって、4技能の指導と評価自体が悪者になってはならないと思います。現場で、4技能を融合し言語活動を通じて指導しようという動きは、絶対にストップしてはならないと思います。
英語の「指導と評価の乖離」が発端
―― そもそも 、なぜ民間試験が導入されるようになったのか、その経緯を知らない方も多いかもしれません。まずその点からクリアにしていただけるでしょうか。
安河内氏:なぜ、民間試験の導入が検討されるようになったのか。 そもそも 理由は、「指導と評価の乖離(かいり)」にあります。
文部科学省では、グローバル化を見据えて2002年ごろから「4技能」をバランスよく指導することを 方針 として示し、それ に従って 中学高校の学習指導要領も4技能を重視する内容に改訂されてきました。英語学習者としても英語教師としても、その 方針 は、まさにその通りだと思います。
しかし、個別の大学入試では、昔から構文解釈や翻訳問題、文法問題に偏った出題がされてきました。入試全体として、読解問題や知識問題が多く、ライティングは少し、リスニングはわずかで、スピーキングはほとんどなかった。いくら高校で4技能をバランス良く教えることを目標に掲げても、大学入試で問われない技能は省かれてしまう。だから、学校現場でも、予備校や塾でも、なかなか4技能の指導が進まない状況にあります。
これを 改善 するために、大学入試を4技能を測るものに変えていかなければならないということになり2014年から検討が進められてきました。そして大学入試センターが単独で、50万人もの受験生のスピーキング、ライティング試験を一斉に 実施 ・採点するのは人員的にも設備的にも無理があり、すでに実績のある民間試験を使用することになったというのが、民間試験導入の簡単な経緯です。
審査 を経て、英検、TOEFL、IELTSなど7つの民間試験が採用されました(当初は8団体だったが、TOEICが参加をとりやめた)。ここにきて延期ということは、準備を進めてきた民間試験の 実施 団体にとっても大きな驚きだっただろうと思います。
これらの試験 に関して は、試験会場が都市に集中していて地方の人には不利、受験料が高額など、さまざまな問題が専門家から 指摘 されていました。 今後の 課題として、今回大きな問題となった、この格差の問題にさまざまな形で対応する必要があると思います。
今後も 続けていくべき">4技能の指導は 今後も 続けていくべき
―― 今後は 、英語の試験はどうなっていくのでしょうか。
安河内氏:いくつかのオプションが考えられます。1つ目は、国は24年度の新英語試験開始を目指すと言っていますから、あと4年間をかけて、試験機会の公平性やスコア対照の問題を解決して、再度、成績提供システムを構築する。
2つ目は、大学入試センターが、独自でスピーキングとライティングの統一試験問題を作り、民間との共同で 実施する 。3つ目は大学が独自に、あるいは複数の大学で共同し、高校の学習指導要領に即した4技能試験を開発し、 実施する 。リスニング、リーディングは大学入試センターで、スピーキング、ライティングは大学で作るというような分担もあるかもしれません。
そして4つ目は、これまでと同じ大学入試を続け、何も変えない。しかし、これからの時代、世界的にも4技能評価が主流ですから、さすがに4つ目の選択肢はないだろうとは思います。
――現場の先生はどうでしょうか。
安河内氏:一生懸命、4技能を教えようと努力されてきた先生は、たいへん困惑されているのではないでしょうか。しかし、4技能を指導することにはほとんどの人は異議をもたないでしょうし、国も4技能評価自体については実現に向けて努力すると明言しています。
今回の延期騒動で、「やっぱり2技能、3技能だけ勉強していればいいんだ」と後退するのではなく、 今後も 4技能の指導を研究していってほしいと思います。やはり時代に即した英語力が身につけることが重要だと思います。
安河内哲也(やすこうち てつや)
福岡県北九州市生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒。東進ハイスクール・東進ビジネスクールのネットワーク、各種教育関連機関での講演活動を通じて実用英語教育の普及活動をしている。また、文部科学省の審議会において委員を務めた。予備校や中学・高校での講演の他、大学での特別講義や、大手メーカーや金融機関でのグローバル化研修、教育委員会主催の教員研修事業の講師も務めている。一般財団法人 実用英語 推進 機構 代表理事。
執筆&編集:あの国で留学 編集部
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