英国ロイヤル・バレエ振付家ウェイン・マクレガーの挑戦!人工知能(AI)はダンスを振り付けられるか?

AIが小説を書いたり絵を描いたりする時代、AIはダンスの振付もできるのでしょうか?英国ロイヤル・バレエの常任振付家も務めるウェイン・マクレガー(Wayne McGregor)氏がGoogleのチームと試みているプロジェクトについて書かれた『The Los Angeles Times』の英語記事から探っていきましょう。

www.latimes.com

振付家ウェイン・マクレガーはどんな人?

ウェイン・マクレガー氏はイギリス出身の振付家で、自身のカンパニーを率いるほか、英国ロイヤル・バレエの常任振付家も務めています。最近はダンテの『新曲』をテーマにした「ダンテ・プロジェクト( 地獄篇)/The Dante Project (Inferno)」を英国ロイヤル・バレエに振り付け、初演しました。

また、2019年3月に日本で公開された、16世紀イギリスのスコットランド女王メアリー・スチュアートとイングランド女王エリザベス1世を描いたイギリス映画『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』(2018年)では、劇中ダンスの振付を担当しました。

▼『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』の公式サイト

www.2queens.jp

▼『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』ダンスシーンのメイキング映像

TEDにも登壇し、ダンスを創作するときの振り付けのプロセスについて話しています。その手法は、現代のコンテンポラリーダンスの多くの振付家と同様、ダンサーとのインタラクティブなやりとりから動きを生み出すものです。踊りの実演を交えたスピーチは、視聴していてわくわくします。

▼TED「ウェイン・マクレガー:ダンス創作プロセスの実演」

マクレガー氏は以前からダンスとテクノロジーの関係を探る活動をしています。例えば、「Mix the Body」というプロジェクトでは、ウェブサイト上で線を描くことで、誰でも振付を体験できます。

▼「Mix the Body」のサイト

mixthebody.britishcouncil.org

▼「Mix the Body」に関する記事

www.digitalartsonline.co.uk

▼「Mix the Body」について語るウェイン・マクレガー氏

ダンスを振り付けるAIシステムとは?

マクレガー氏とGoogleの「アート&カルチャー」が共同で開発したAIは、ダンスの新しい動きを創り出すためのもののようです。それを使った作品「生きているアーカイブ――AIパフォーマンス実験」は、ロサンゼルスにあるミュージックセンターのドロシー・チャンドラー・パビリオンで世界初演されました。

この作品は、作曲家で指揮者のトーマス・アデス氏とのコラボレーションの一環で、同氏が2008年にピアノとオーケストラのために作曲した、聖書で描かれている神による創造の物語が題材の曲『イン・セヴン・デイズ』(1週間)を使っているそうです。

The deliberately untitled work is “a philosophical meditation on how a dance is made,” McGregor said by phone. It explores questions like: what does it mean to choreograph? And can interesting choreography be made with help from artificial intelligence?

あえて無題にしているこの(ダンス)作品は、「ダンスがどのように創られているかについての哲学的な思索」なのだ、とマクレガー氏は電話インタビューで語った。この作品は、「振付とは何か?」「AIの助けを借りて興味深い振付を創り出すことは可能か?」といった問いを追及している。

『The Los Angeles Times』 より

記事によると、マクレガー氏の舞踊言語を理解し、さらに彼のスタイルに基づいて新しい振付をすることができるAIシステムの開発には、2年かかりました。

McGregor teamed up with Google engineers and creative technologists to train the algorithm, called “Living Archive,” using thousands of hours of video from the choreographer’s previous works over 25 years.

マクレガー氏はGoogleのエンジニアとクリエイティブ・テクノロジストとチームを組み、同氏が25年以上にわたって振り付けたこれまでの作品の何千時間分もの映像を使って、「生きているアーカイブ」と名付けたアルゴリズムに学習させた。

『The Los Angeles Times』 より

アルゴリズムはマクレガー氏の過去の作品を学習したのに加えて、彼のカンパニーの10人のダンサーたちの動きも学習しました。そうすることで、AIはダンサーが踊っているときにその動きを捉え、次の動きを、スクリーンにアバターを映し出して 提案する ことができるようになったそうです。

マクレガー氏はこの 仕組み を、携帯電話で文字を入力する際に表示される 予測 機能に例えています。ただ、同氏によると、振付を 提案する このシステムはもっと洗練されているそうで、次のように述べています。

“It takes the essence of what that dancer is doing ? the shape, the position , the dynamic , the articulation of that body. Then it uses that information to develop the next potential phrase.”

「それは、ダンサーがしていること――形、位置、動き、体がどうなっているか――のエッセンスを取り出します。そして、その情報を使って、次にあり得る一連の動きを出してくるのです」

『The Los Angeles Times』 より

このAIシステムから提案された動きを受けて、ダンサーはそれをそのまま使うこともできますし、自分なりに解釈したり、そこからインプロビゼーション(即興)で踊ったりすることもできます。マクレガー氏によると、AIがダンサーとしてカンパニーに加わり、人間のダンサーたちと踊っているような感じなのだそうです。

そうすると、いずれ人間の振付家は要らなくなるのではと 心配 になる人もいるかもしれません。しかし、マクレガー氏はそのことについてそんなに 心配 していないようです。

ただ、マクレガー氏は次のようにもコメントしています。

“But is there a moment where the dances that the AI system makes are more interesting than the dances the humans make ?” McGregor wondered. “I don’t know yet . But there is a very interesting potential.”

「でも、AIシステムが生み出すダンスが、人間が創るダンスよりも面白い場合があるのでしょうか?」とマクレガー氏は問い掛けた。「まだ分かりません。しかし、そこにはとても興味深い 可能性 がありますよね」

『The Los Angeles Times』 より

人間のアーティストがいなくなることはないと思いますが、人間の振付家や作家、美術家なども、過去の他の人たちの作品を知っていて、その上で新しいものを創造する場合が多いでしょう。ということは、AIが人間と同じように独自のアーティストとなることもあり得るのでしょうか?科学的なことは分かりませんが、そんな将来も、もしかしたら面白いのかもしれません!

文:Irene
コンテンポラリーダンスでは、最新のテクノロジーとのコラボレーションも含めて、さまざまな新しい試みが行われています。人と機械の関係はさらに密接になっていくのかもしれませんが、脳を使っているだけでは得られない身体感覚はこれからも大切にしていきたいです。

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