伝統芸能の世界には、代々受け継がれてきた「型」という表現様式があります。スポーツにしても何にしても、洗練された技術には「型」がある。では、TOEICテストには? TOEICスコアアップ200点請負人のJay(ジェイ)こと早川幸治さんにお話しいただきます。
「謎かけ」とTOEICの共通点
整いました。
TOEICとかけまして、選挙候補者と解きます。
その心は・・・
どちらも、「セイカイ」を目指すでしょう。
先日、お笑い芸人のねづっちさんの「謎かけ」をライブで聞いて、「謎かけができるようになりたい!」と火がついてしまいました。その後、ねづっちさんの著書を読み、YouTubeで謎かけ講座を見て気付きました。
おっと、また整いました。
謎かけとかけまして、マッサージと解きます。
その心は・・・
どちらも、「カタ」がポイントでしょう。
そう、謎かけには「型」があるのです(ちなみにマッサージは「肩」)。
謎かけの習得とは「型」の習得であるように、実はTOEICの学習のポイントも、まさに「型」の習得なのです。「型」を身に付けることで、リスニング力やリーディング力を整えることができます。
長文には「型」がある
TOEICスコアが500点を超えてくると、さらなるスコアアップには長文系の克服がカギとなります。
長文系とは、Part 3(会話問題)、Part 4(説明文問題)、Part 6(長文穴埋め問題)、Part 7(読解問題)の4パートです。これらのパートでは、長文を聞いて/読んで設問に答えるため、素早い処理能力が求められます。高いスコアを目指すほど、一語一句を処理していくというよりは、ストーリーの流れに沿って理解していく力が必要となります。もちろん理解の前提となるのは、単語力や文法力ですが、それだけでスムーズに理解できるわけではありません。ストーリーに沿って理解するために必要なものが、整った「型」なのです。
例えばPart 3では、冒頭を聞けば「どこで」「誰と誰が」「何について」という概要を理解することができます。だからこそ、3問セットの1問目に多いのが次のような設問なのです。
場所
- Where is the conversation most likely taking place?
会話は恐らくどこで行われていますか? - Where are the speakers?
話し手はどこにいますか?
人物
- Who most likely is the man/woman?
男性/女性は恐らく誰ですか? - Who most likely are the speakers?
話し手は恐らく誰ですか? - Where does the woman probably work for?
女性はおそらくどこで働いていますか?
話題
- What are the speakers mainly discussing?
話し手は主に何について話していますか? - What is the topic of the conversation?
会話のトピックは何ですか?
これらの設問が3問セットの1問目で問われていなかったとしても、冒頭を聞いて「場所」「人物」「話題」が何かをつかむことで、その後の展開を追いやすくなります。
Part 4も基本的には同様です。例えば留守番電話の場合は、冒頭で話されるのは「誰が何のために電話をかけているか」です。そのため、留守番電話の1問目に多いのが次の設問です。
- What is the purpose of the message?
電話メッセージの目的は何ですか? - Why is the speaker calling?
話し手はなぜ電話をかけているのですか?
また、留守番電話の始まり方には「型」があります。
①Hello, Mr. Lopez. This is Deborah Richardson from Starclick Institute. ②I’m calling to let you know that your application has been approved.
①名乗る:こんにちは、ロペスさん。こちらはスタークリック・インスティテュートのデボラ・リチャードソンです。
②目的:お申し込みが承認されたことをお知らせするためにお電話しています。
このように、話の展開に「型」がある上に、名乗り方や目的の伝え方には慣用表現(太字)があるため、これらを知っておくことで処理が加速します。冒頭で目的を理解することができれば、その後は目的に関する内容が展開されていくため、多少知らない単語があったとしても内容を推測することができるのです。
このような展開は、Part 7においても同様です。冒頭で目的や概要をつかみ、徐々に詳細へと入っていきます。Part 4の留守番電話で目的が問われることが多いように、Part 7のe-mailやletterにおいても、目的が問われることが多くあります。
- What is the purpose of the e-mail/letter?
メール/手紙の目的は何ですか? - Why was the e-mail/letter written?
なぜメール/手紙は書かれたのですか?
メールや手紙に限らず、全ての文書には目的があり、基本的には冒頭で提示されます。さらに、冒頭は次のような慣用表現で始まることも少なくありません。
- I am writing to confirm your order placed on February 13.
2月13日の注文の確認のためにご連絡しております。 - I am writing in response to your inquiry regarding our product.
弊社製品に関する問い合わせのお返事をさせていただきます。 - Thank you very much for your interest in our service.
弊社サービスにご興味をお持ちいただきありがとうございます。
また、article(記事)のように情報を伝えることが目的な場合であっても、冒頭を読めば「何の記事か」という概要が。そのため、基本的には冒頭を読めば何の話かをつかむことができ、その後は詳細へと展開していくのが長文系のパートに共通している「型」なのです。
なお、長文穴埋め問題のPart 6においても、長文を読んで答える必要があるため、冒頭から目的や概要をつかんだ上で、徐々に詳細情報に入っていくという流れは、Part 7と共通しています。
単語や文法の学習に加えて、この「型」を意識したリスニングやリーディングの学習をすることが、700点や800点といった高得点帯に届くカギとなります。
「逆を知る」ことの効果
私が尊敬する元プロ野球選手の野村克也さんは、阪神タイガースの監督時代に、現在北海道日本ハムファイターズ監督で、当時はタイガースの外野手だった新庄剛志選手にピッチャーをさせました。ちなみに、大谷翔平選手のような二刀流を目指させたわけではありません。ピッチャーの心理が分かれば、打者としての才能も開花するとにらんでの起用でした。
打者はピッチャーが投げる球を打ちます。つまり、ピッチャー側を知ることが打者としてのレベルを高めることにもつながるのです。
実は、TOEICでもこれと似たことが言えます。
当たり前の話ではありますが、リスニングとは誰かがスピーキングしたものを聞くことです。同様に、リーディングとは誰かがライティングしたものを読むことです。つまり、リスニングとスピーキングはつながっており、リーディングとライティングもつながっているのです。
だからこそ、リスニングとリーディングにおける「型」の習得には、スピーキングとライティングに取り組むことも効果的です。特にTOEIC 600点を超えた後は、TOEIC S&Wテストに取り組んでみることで、「型」の習得を目指すのはいかがでしょうか。
TOEIC L&Rテストを基準とするならば、TOEIC S&Wテストは「アウトプット版」のPart 1(写真描写問題)、Part 2(応答問題)、Part 4(説明文問題)、Part 5(短文穴埋め問題)、Part 7(読解問題)というイメージです。
そのため、TOEIC S&Wテストの学習を進める上で、読んだ情報について的確に口頭で伝えたり、考えをメールに書いたりする練習をする過程で、スピーキングやライティングの「型」を学ぶことができます。こうして、アウトプットを活用して「型」を整えることが、インプットにおいてストーリーに沿った聞き取りや読み取りができるようになってくるのです。
S&Wテストの受験でハイスコアを取ることを目的とするのではなく(もちろん、目的としてもOKです)、「型」を身に付けることを目的とすることは非常に効果的です。話し手や書き手の側からスキルを高めることは、聞き手や読み手としてのスキルアップに直結します。
おわりに
6回にわたり「気まま」に書かせていただいた連載も、今回が最終回です。ガチガチのTOEIC対策ではなく、少し違った角度からのアプローチによって、異なる視点や広い視野でTOEICを見るきっかけになったとしたらうれしく思います。
読者の皆さまの英語力アップ&目標スコア達成を、心より願っております!
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