英語表現を覚えるなら「教科書」と「強化所」を巧みに使おう【早川幸治の気ままにTOEIC】

同じ英語力を持っていても、理解力は人によって大きく異なる――。今回、TOEICスコアアップ200点請負人のJay(ジェイ)こと早川幸治さんにお話しいただくのは、「教材とリアルを融合」させ、学んだ英語を知識として強化する方法です。

「リアル」に覚えたい英語表現

「お前は完全に包囲されている。無駄な抵抗はやめて、おとなしく出てきなさい」

というと、家に立てこもった犯人に対して刑事が拡声器を使って説得するドラマのシーンが思い出されます。

この記事を読まれている方の中には、会社から言われて嫌々勉強している方もいらっしゃるかもしれません。何か悪いことをしたわけではありませんが、刑事さんから上の言葉を投げかけられたかのように、「無駄な抵抗はせずにおとなしく勉強している」という方もいらっしゃるでしょう。

でも、あるときに気付きます。勉強を進めていくと、ふとしたときに街中で「あ、これTOEICで勉強したやつだ」という英語との出合いが増えます。テレビで見ていた俳優さんを街中で見かける感じでしょうか。いや、そこまでうれしいものではないかもしれませんが、「お!会えた!」という喜びを感じられることもあります。

しかし、TOEICに出てきたものが街中にたまたまあるのではなく、「街中にあるからこそTOEICに出てくる」のです。TOEICに出てくるストーリーは作り物ではありますが、日常を再現しています。新海誠監督の映画『君の名は。』や『すずめの戸締まり』には、東京が舞台となるシーンがあります。ストーリーは創作ですが、そこに出てくる建物や風景はまさに実際にあるものが登場しているということに似ているかもしれません。実は、私たちはTOEICに登場する表現に「完全に包囲」されています。外に出て、英語を探してみると、TOEICで学習した単語に包囲されていることに気付きます。

現場で見るスポーツはテレビで見るのと臨場感が違う。対面で話すのとオンラインで話すのとでは空気感が違う。それと同じで、単語を教材で目にするのと日常で目にするのとでは実感が異なり、身に付き方も異なります。やはり、「リアル」に勝るものはありません。

教材で勉強しているのに「どうしても表現が覚えられない」と悩んでいる方は、「リアル」を体感してみることをおすすめします。

教材とリアルを融合させるメリット

先日、沖縄を旅行した際に、北谷(ちゃたん)にあるアメリカンビレッジに寄りました。そのときに英語版のガイドマップを手にしたのですが、ほんの少し載っていた場所の説明だけでも、さまざまなTOEIC重要表現がありました。次の8つの表現のうち、分かるものは幾つありますか。

● along the coastline
● stroll around
● housing over 50 fashion shops, specialty stores, and restaurants
● explore
● for inquiries
● patio
● luxury spot
● exclusively for guests

リアルな英語に触れれば触れるほどTOEICが生きたものに見えてきます。沖縄料理の「チャンプルー」は「ごちゃまぜ」を意味します。まさに教材とリアルをチャンプルーすることで、学びが生き生きしたものに変わります。教材では知識のみを習得する形ですが、リアルに触れることは「体験」です。その体験によって知識が強化され、身に付きやすくなるというメリットがあります

それでは、先ほどの表現の日本語訳とTOEICとの関連をご紹介します。

along the coastline(海岸線に沿って)
along~で「~に沿って」を意味し、TOEICでもalong the river(川沿いに)のようによく使われます。

stroll around(~を歩き回る)
strollはwalkの同義語です。Part 1の写真描写でstrollが使われることもあります。

housing over 50 fashion shops, specialty stores, and restaurants(50以上のファッション店、専門店、レストランがある)
houseを動詞で使うと「~を収容する」や「~を有する」という意味になります。

explore(~を探索する)
「~(観光地)を探索・探検する」というときに、このexploreが使われることが多くあります。

for inquiries(お問い合わせは)
広告などで、最後に問い合わせ先を掲載する際に使われる表現です。この後には、電話番号やメールアドレスが載っているのが通常です。

patio(中庭)
Part 1の頻出語です。

luxury spot(ぜいたくな場所)
luxuryはランクの高さや豪華なものの説明として、広告などに登場します。

exclusively for guests(ゲスト専用の)
exclusively for ~(~専用の)も広告でよく使われる表現です。会員限定のものや特典などを記す際に用いられます。

教材は「教科書」、街は「強化所」

教材の場合、英文を読む目的は「解くため」や「意味を理解するため」ですが、リアルな情報を読む目的は「行動するため」や「知識を得るため」です。また、教材は「読み方や解き方を学ぶ」という目的で取り組みますが、リアルな情報は「知るためや判断するため」です。この特徴をうまく活用して、教材とリアルな情報を混在させると学習効果が高まります。

例えば役所に行く機会があれば、お住いの地域について書いてある広報資料の英語版をもらって読んでみてください。旅行を予定されている方は、現地で英語版のパンフレットを手にしてみてください。教材で学んだ英語に大量に出合うことができますし、それによって学習が強化されます。教材は「教科書」としての役割を果たしますが、街は「強化所」としての役割を果たします

同じ英語力でも理解力が大きく異なる理由

同じくらいの英語力を持つAさんとBさんの2人がいるとします。教材だけで学習しているAさんと、海外旅行が大好きなBさん。このような2人の場合、英語力は同じなのに理解力が大きく異なるケースが多々あります。その理由が「体験」の有無です。

Aさんは教材だけで学習しているので、頭の中だけでの学習経験しかありません。そのため、意味が分かる単語が多ければ理解できますが、知らない単語が少しでもあるとガクッと理解度が下がります。一方で、Bさんはリアルな英語に触れる体験があります。知らない単語でもその場の文脈を考えることで推測することに慣れています。そのため、多少単語が分からなくても雰囲気で情報を処理できる感覚が身に付いていることが多いのです。

その結果、知っている単語の数は同じだったとしても、文脈から判断できる力を持つBさんの方が圧倒的に内容を理解することができる、という場合も少なくありません。その結果、知識としての英語力は同じであったとしてもTOEICのスコアが大きく変わってくるのです。

もちろん、簡単に海外旅行ができる訳ではありませんので、日本国内の至る所にある「街中の英語」に触れる量を増やすことで、知識の強化だけでなく文脈から判断する推測力も磨くことができます。こうして身に付けたスキルは、教材に取り組む際にも活用できるようになります。

寺山修司さんの『書を捨てよ、町へ出よう』という本のタイトルのように、書は捨てなくてもよいので(むしろ、教材は捨てないでください!)、街へ出て英語に包囲された環境へと入ってみてください。例えば、ATMを使うときには必ず英語モードにしてみてください。何かを英語で処理することで、体験を通して「引き出し」や「預け入れ」を努力なく身に付けることができ、知識として強化されるようになります。

このように体験を取り入れながら教材に取り組むことで、今まで無機質に思えた教材の内容が、リアル感のある内容に見えてきますよ。

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早川幸治さんの本

早川幸治
早川幸治(はやかわ こうじ)

ニックネームはJay。株式会社ラーニングコネクションズ代表取締役。企業研修講師として、これまで英語公用語の企業をはじめ、全国の200社以上で研修を担当してきた他、大学や高校でも教えている。「苦手は憧れの裏返し」という信念から、脳や心の働きを生かす動機付け&学習法セミナーや、TOEIC講座を提供。著書50冊以上。

本文写真:StockSnap, นิธิ วีระสันติ from Pixabay

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