連載「気ままにTOEIC」第5回。TOEICスコアアップ200点請負人のJay(ジェイ)こと早川幸治さんが、「TOEICのスコアが高くても英語は話せない」「英語力よりテクニックで解けるテストだ」など、TOEICテストを批判する声に向き合います。さて、そんな批判の真偽は?
TOEICに対する向かい風に向き合う
前回は、冒頭で「無駄な抵抗」の話から入りましたが、今回は「無駄ではない抵抗」の話です。
私が会社員を辞めて、英語教育の世界に入ろうとしたとき、食事をしながら大学の先輩に相談したところ、ありがたいアドバイスをいただきました。
「英語なんかじゃ食っていけないよ」
そのアドバイスに抵抗する形で英語教育の世界に入っていきましたが、今では先輩に感謝しています。ネガティブなアドバイスではありましたが、そのネガティブさが逆に「生半可な気持ちではいけない」という決意につながりました。
話は本題のTOEICに変わりますが、TOEICのように広く普及してくると、さまざまな批判や苦言も出てきます。大切なことはそれらに惑わされずに学習を継続することなのですが、そうはいってもやはり気になるという方もいらっしゃると思います。
飛行機が離陸する際には、向かい風の状態で滑走することで揚力を得ています。そういう訳で(?)、今回はちまたのTOEICに対する向かい風にじっくり向き合ってみます。なぜなら、批判にも一理あるからです。それらを一度受け入れてみて捉え方を変えることで、TOEICを活用して浮き上がる揚力になればうれしく思います。
向かい風1:スコアが高くても話せない
最も多く聞くのが、この批判です。また、「TOEICで良いスコアを取っても仕事で使えない」という批判もあります。確かに、TOEICで高いスコアを取れたからといって、それは英語が話せるとか、仕事で使えるという証明にはなりません。しかし、その一方で、英語を使って仕事をしている方々からよく聞くのは、「確かにスコアが高くても話せるとは限りません。でも、あの内容が理解できずに英語を使って仕事をするのは無理でしょう」というコメントです。
日本語においても似たような状況がありますよね。ちょっと脱線しますが、「バラ」を漢字で書けますか?では、「あいさつ」はいかがでしょうか。「かんぺき」は書けますか?何度も書いたことがある人は問題なく書けたはずですが、それらを書く環境にいない場合は悩んだかもしれません。しかし、漢字で書かれていたら読めると思います。英語も同様です。「書かれているものを理解する」という基準であれば、まずは読めるようになることが大切です。
TOEIC L&Rテストで測っているのは、スピーキングやライティングの力ではなく、スピーキングされているものを理解する力(=リスニング)と、ライティングされているものを理解する力(=リーディング)です。英語を使う機会がない中で力を伸ばすには、英語が使われている場面の理解を優先することは間違っていません。
ちなみに、先ほどの漢字は以下のとおりです。
薔薇:薇の草冠の下は「微」ではありませんのでしっかり確認してください。
挨拶:「挨」も「拶」も「あいさつ」以外では日常的に出合わない漢字ですね。
完璧:「ぺき」の下は、「土」ではなく「玉」です。鉄壁と完璧では「ぺき」の字が異なります。
「え!そうだったの!」という反応があったかもしれません(笑)。今回の記事の最大の学びが「璧」の字だったということにならないことを願っています。
向かい風2:TOEICはテクニックでスコアが出せる
「TOEICは受験テクニックでスコアが取れるから、純粋な英語のテストではない」という苦言を呈されることもあります。確かにPart 2(応答問題)であれば、質問の中でWhenだけ聞き取れれば、応答のTomorrowを選んで正解できるというケースはあります。何についての「いつ」なのか分からないのに正解できてしまうというテクニックではあるのですが、そのテクニックを使うためには最低限WhenとTomorrowを聞き取れる英語力が必要です。そして、その力があれば解けるという易しい問題だというだけです。
TOEIC L&Rテストは、1つのテストで10点から990点を振り分けるテストですから、一部聞き取れるだけで正解できる易しい問題も出ますし、本文の内容を正確に理解できるだけでなく、言い換えている選択肢を正しく選べる力が求められる難しい問題も出題されます。また、いわゆる「テクニック」と呼ばれるものには2種類あります。一つが「裏技」、もう一つが「スキル」です。Part 5(短文穴埋め問題)においては、空欄の前後を見るだけで解けてしまうというテクニックがあります。
突然ですが、次の問題を解いてください。
ナタールに分布するハエマンサス・デフォルミスは、ネリネ・ウンドゥラータと同様に ------- 花です。
(A) 美しさ
(B) 美しく
(C) 美しい
(D) 美しげ
いかがでしょうか。ナタールという地名も、ハエマンサス・デフォルミスやネリネ・ウンドゥラータという花の名前を知らなくても、正解の(C)を選べたと思います。これはテクニックなのでしょうか。恐らく「美しい花」というフレーズを知っていることによる「感覚」での解答です。これは「裏技」ではなく「スキル」です。また、「名詞『花』を修飾する場所が空欄のため、形容詞が入る。形容詞は「~い」が多いから、(C)の『美しい』を選ぶ」という解き方もできます。一見、裏技っぽくも見えますが、これは文法に基づく知識を応用したスキルです。
リーディングにおいても、速く正確に読むテクニックは裏技ではなくスキルですし、全部理解できない場合において、聞けるもの/読めるものに絞って正解を出すのもスキルの一つです。
また、「純粋な英語のテストではない」というのはまさにその通りです。純粋な英語のテストにする場合は、リーディングで最後まで終わらない人が出ないようにすべきです。TOEIC L&Rテストは、800点を持っている人でも最後まで終わらないケースが多くあります。75分ではなく100分にすることで、正確な英語力を測れるケースは増えるでしょう。でも、実際には75分です。これは、時間内に処理できるスピードも求めているのがTOEICだからです。実際の仕事において、5行程度のメールの確認に10分もかけていてはもったいないですよね。だからこそ、TOEICにおいても、英語力を基盤とした情報処理能力が求められているのです。そのため、単語力を増やすだけではスコアに反映されないケースも少なくありません。
私たちは日本語で情報を処理する際には、幾つかのテクニックを自然に使っているのです。それは裏技ではなく、スキルです。これらは英語においても必要なものです。
向かい風3:リアルな世界に選択肢はない
「いやいや、テストはそういうものなので!」と一蹴することはできますが、意外とこれは大事なポイントです。特に、英語を使って仕事をしていくことを目指している場合、正解を選べたかどうかだけでなく、本文の内容を理解できたかどうかを意識しておきたいところです。
リアルな世界ではPart 2のようにWH疑問詞だけの聞き取りで答えらえるシーンはありません。また、Part 7(読解問題)のようにビジネス文書に対して読めたかどうかを確認する選択肢が付いていることもありません。選択肢選びや消去法で解ける以上の力が必要です。設問を見て本文から情報を見つけるような「答え探し」的な読み方ではなく、本文の内容を正確に理解する力を追及していただくことで、選択肢のないリアルな世界につなげることができます。
TOEICスコアの意義
TOEICに限らず、テストとは実力を数値化することが目的です。GPSのように「現在地」を測るためのものです。その現在地をできるだけ高いところに持っていくために、日々の学習があるのです。高いスコアを取ることの意義は、英語が使えるようになったことの証明ではなく、英語が使える環境に入るためのパスポートを手にすることです。いま英語が話せなかったとしても、300点の人が英語環境に入るのと、800点の人が英語環境に入るのでは、スタート地点が異なります。もちろん、300点の状態で英語環境に入っても最終的には英語力は大幅に伸びます。でも、スタート地点での苦労は、800点の状態で英語環境に入るよりもはるかに大きいでしょう。
ぜひ、学習を通して高いスコアに到達し、英語環境を手にしてください!
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