ラッパーにして通訳者という異色の経歴を持つMEISO(メイソウ)さんは、2003年B-Boy Park MCバトルの覇者にして、2019年に開催された同時通訳者グランプリの優勝者。そんな彼による英語学習書『HIP HOP ENGLISH MASTER』(Gakken)が発売されました。『ENGLISH JOURNAL』に掲載したインタビューから、MEISOさんがなぜ、そのような経歴を持つに至ったのかをひも解きます。
目次
MEISOさんによる英語学習書新刊
MCバトルと同時通訳の共通点とは?
MEISOさんは、ラッパーで通訳者だ。「世界のどこかにもし、『ラッパー』と『通訳者』という、僕と同じ組み合わせでやっている人がいたら、ぜひ話をしてみたい」と語る。
大学生だった2003 年に「外人二十一瞑想(めいそう)」として、当時最も有名だったラップイベントの一つ、B-BOY PARKのMCバトルに飛び入り参加し、優勝。アルバムやライブなどの音楽活動を続ける一方で、2019年6 月にはJACI(日本会議通訳者協会)の同時通訳グランプリで優勝し、同時通訳とMCバトルの二冠達成という前代未聞の快挙を成し遂げている。
一見、何の共通点もなさそうなラップと通訳の世界だが、反射神経、早口でも聞きやすく伝わりやすい発声、「言葉」選びのスキルなど、多くの共通点があるという。とはいえMEISOさんは、「共通点が多いから」という理由でこの2つを追求してきたわけではない。日本とアメリカで育ち、日本語と英語の世界を行き来しながら、自然な流れでたどりついたのがこの「二足のわらじ」だった。
2カ国を行き来して日英のバイリンガルに
MEISOさんは東京で生まれ、生後1年ほどでアメリカ、テキサス州に渡って5 歳ごろまで「英語だけの世界」で育った。それから再び東京へ。そこで日本語を一から身に付けた。
ラップに出会ったのは中学生の時だ。すぐに曲を書いたり、人前でパフォーマンスをしたりするようになったという。そして16 歳、家族でアメリカ、ハワイに渡った。
「日本にいたときも、アメリカ人の父が英語で話し掛けてくれていたので、少なくとも英語を聞く力は維持できました」というが、高校生のMEISOさんが感じたことを表現できるほどの語彙力には達していなかったそうだ。「最初はかなりのフラストレーションがありました」と語る。
友達との会話の中で生きた英語を身に付け、楽に自分を表現できるようになるまでには数年かかった。
大学では、ラップの表現力を磨くため、アート、哲学、文学、音楽を組み合わせてArtistic Expression(芸術的表現)という専攻を自分で組み立てて学んだ。卒業後はハワイに住み、音楽活動をしながら、日英の語学力を生かして日本人観光客向けのツアーガイド、翻訳や通訳などの仕事で生計を立てる日々を過ごしていいた。それが30 歳で転機を迎える。
「自然に囲まれ、音楽やサーフィンを楽しむ生活はハッピーだったけれど、自分の可能性をもっと広い世界で試してみたいと考えました」
そして2013 年、スーツケース2つで東京の友人の家に転がり込んだ。
朝は音楽活動、昼は通訳者の「二足のわらじ」
日雇いの力仕事、ライターなどを経て、現在はアニメ制作会社で10名ほどの通翻訳者チームをまとめるグループリーダーを務めている。音楽活動とも両立しやすい環境だ。
午前中は音楽活動に充てている。「仕事の後だと、頭の動きが鈍くなる。曲を書いたり録音したりといったクリエイティブな活動は、朝、頭がすっきりした状態でやる方が、僕には合っているようです」と話す。
通訳のトレーニングも欠かさない。「30分から1時間程度、英語のポッドキャストを使ってシャドーイングをしています。話すスピードが速い人を選び、遅れないよう、かまないように話す訓練をします」
同時通訳は、ただ話者のスピードに合わせて正確に訳せばいいというわけではないとMEISOさんは考えている。「通訳もコミュニケーション。安心して聞けること、聞いていて疲れないことも大事です。だから、滑舌のよさはもちろん、通りやすい発声、聞きやすい話し方も心掛けています。これらはすべて、ラップの技にも通じますね」と語る。
同時通訳者として「広い世界で自分を試す」
一方でMEISOさんは、「社内通訳の場合、話者(訳す対象者)はだいたい同じ。外の世界で自分の力を試してみたい、ほかの通訳者の技も見てみたいという気持ちがあった」という。
そして2019年2 月、当時『ENGLISH JOURNAL』でコラムを連載していた同時通訳者、関根マイクさんのトークショーに参加した際、同時通訳グランプリの開催を耳にする。「関根さんはこの大会が『同時通訳者にとっての(ドラゴンボールの)天下一武道会』だと説明したんです。すぐに『出たい!』と思いました」
参加した社会人の部では、腕に覚えのある実務経験3 年以内のプロ通訳者たちが競い合う中で見事優勝。関根マイクさんもツイッターで「紛れもなく日本一です」と絶賛した。
「外の世界」で自分の通訳の力を試した結果はどうだったのだろうか?MEISOさんは、「通訳の世界の奥深さと面白さを思い知った」と話す。「もう一度出場しても、優勝できる気はまったくしません。同時通訳は、いくらやっても“完璧”の域には到達できない、終わりのない世界だと痛感しました」と話す。
ラップと同時通訳「結局、両方好きなんですよ」
最近は通訳の仕事が忙しく、「なかなか(ラップの)アルバムが出せない」と嘆くが、二足のわらじを脱ぐつもりはまったくないようだ。「結局、両方好きなんですよ。それに、片方のトレーニングはもう片方のトレーニングにもなる。両方の活動が相互に生きています」と話す。
「ラップと通訳の違いは?」と聞くと、「アイデアを出す人が自分であるか、話者であるか」という点を挙げた。「ラップは、ストーリーや詩を自分でゼロから組み立てて表現する面白さがある。ただ、通訳も、話者の言葉を受け取って、自分の頭の中に対応するアイデアを描く。それを言語化して声に出すというプロセスは同じ」と説明する。
特に、「ビートに乗せて即興で言葉を紡ぐ『フリースタイル』は、同時通訳に似ている。即時に言葉を選んで口にするために求められるスキルは共通です」という。
ラップで英語のリズムや動詞の運用力を高める新刊
そんなMEISOさんがこの8月に世に送り出したのが、英語学習書『HIP HOP ENGLISH MASTER ラップで上達する英語音読レッスン』。英会話でよく使われる「基本動詞」を使ったリリック(例文)をMEISOさん自ら作成、お手本となるラップを収録した。読者はMEISOさんのスムーズなラップを聞いて真似することで、音読の「質と量」を確保できてしまうという、DOPE(ヒップホップ用語で「かっこいい」「ヤバい」)な一冊だ。
MEISOさんのラップが乗るビートは、STUTS、EVISBEATS、DJ Mitsu the Beats、Eccyという今をときめく最強のビートメイカーが担当。思わず体が動く、躍動感にあふれるビートに合わせて、とにかく楽しく英語のリスニングや音読練習が続けられるようになっている。
本書の内容をもう少し詳しく紹介すると、
① 英会話で頻出する25個の基本動詞を使用した例文でラップ!
② 1トラックに4~8例文が収録されている。
③ 1冊で音読できる例文数は700以上。
④ ラップの難易度は3段階!ビギナーからハイレベルまで対応。
編集部でも、収録されているトラックを聞いてみたが、これで練習したら最高のラッパーになれるのではないか?というヤバさだ。Chapter 1の子音のトラックを流しただけで、気分はすぐに一流ラッパー。ビートに乗せてリピート練習ができるから、いつの間にかMEISOさんとラップバトルをしているようなノリになり、自分が心持ち格好良くなった気にもなる。
『HIP HOP ENGLISH MASTER』。英語のリズムを体得したい人や、「英語のラップをカッコよく決めたい!」という人は必携の一冊かもしれない。
取材・文:大井明子
本文写真:Yukitaka Amemiya
文・構成・トップ写真:山本高裕(ENGLISH JOURNAL編集部)
▼ HIP HOP ENGLISH MASTER試聴サイト ▼
『HIP HOP ENGLISH MASTER』収録曲の5分間サンプルミックスが聞けます。
▼ MEISOさんポッドキャスト「HIP HOP ENGLISH SCHOOL」 ▼
ラップを通して「世界」と「英語」を学ぶ、ヒップホップ エデュテインメントプログラム。ヒップホップ好き、英語好きどちらも楽しめます。
▼ マウイ島への寄付について ▼
ハワイ・マウイ島の大規模火災を受け、ハワイ・オアフ島在住のMEISOさんが主宰する音楽レーベル、Meditative RecordsのBandcampの収益を全てマウイ支援に募金する活動をしています。(10月末まで予定)。 バンドキャンプからMeisoさんのアルバムやシングル、ミックステープなどが購入できます。
マウイ島への寄付について
— meiso aka gaijin21 🇯🇵/🇺🇸 (@MEISO_) August 17, 2023
すでにご存知の方も多いと思いますが、マウイ島の山火事は壊滅的な被害をもたらしています。Meditative Recordsは今後2ヶ月間、Bandcampの売上金の全額をMaui Strong Fundに寄付させて頂きます。https://t.co/vCQLADK2Et https://t.co/g6zskZCZYm
▼ 「KING OF KINGS vs 真ADRENALINE」出場! ▼
2023年12月、MEISOさんはハワイから一時帰国、「KING OF KINGS vs 真ADRENALINE」という国内最大規模のMCバトルに出場予定です。
KING OF KINGS vs 真ADRENALINE
— 真・ADRENALINE (@ADRENALINE_INFO) August 31, 2023
12月17日(日)KT Zepp Yokohama
OPEN/15:00 START/16:00
トーナメント 出場者2人目は…初出場…
👑 B BOY PARK2003王者👑
🔥🔥Meiso a.k.a 外人21瞑想🔥🔥
未成年入場可能/観客判定!
▼チケットご購入はこちらから▼https://t.co/q60rcPDbo5 pic.twitter.com/nNYiUvfAoI
【トーキングマラソン】話したいなら、話すトレーニング。
語学一筋55年 アルクのキクタン英会話をベースに開発
- スマホ相手に恥ずかしさゼロの英会話
- 制限時間は6秒!瞬間発話力が鍛えられる!
- 英会話教室の【20倍】の発話量で学べる!
SERIES連載
思わず笑っちゃうような英会話フレーズを、気取らず、ぬるく楽しくお届けする連載。講師は藤代あゆみさん。国際唎酒師として日本酒の魅力を広めたり、日本の漫画の海外への翻訳出版に携わったり。シンガポールでの勤務経験もある国際派の藤代さんと学びましょう!
現役の高校英語教師で、書籍『子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ』の著者、大竹保幹さんが、「英文法が苦手!」という方を、英語が楽しくてしょうがなくなるパラダイスに案内します。
英語学習を1000時間も続けるのは大変!でも工夫をすれば無理だと思っていたことも楽しみに変わります。そのための秘訣を、「1000時間ヒアリングマラソン」の主任コーチ、松岡昇さんに教えていただきます。