区切る箇所を間違えると解けない関係代名詞の問題【難問クイズで学ぶ文法知識④】

Twitterで話題になった北村一真さん作成の英語クイズで文法知識&読解力を高める本連載。第4回は英文で使われているwhichの用法を問う問題です。

クイズ

下の英文を読んでクイズに答えましょう。

Patrasche had lain quiet countless hours watching its※ gradual creation after the labor of each day was done, and he knew that Nello had a hope-vain and wild perhaps, but strongly cherished-of sending this great drawing to compete for a prize of two hundred francs a year which it was announced in Antwerp would be open to every lad of talent, scholar or peasant, under eighteen, who would attempt to win it with some unaided work of chalk or pencil.

― Maria Louise Ramé: A Dog of Flanders

文脈:『フランダースの犬』の原文から。ネロの絵が完成に近づいていくのをパトラッシュが隣で静かに見守っていたことを述べている箇所です。

※its:ネロが密かに描いている

下線部whichの用法は?

(1)主格の関係代名詞
(2)目的格の関係代名詞
(3)それ以外の関係代名詞
(4)いずれでもない

単語・語句

問題を解き終わった人、出てきた語句を理解できなかった人は、ここで確認しましょう。

  • lie:横になる
  • vain:はかない、無駄な
  • wild:たわいもない、無謀な
  • cherish:~(夢や希望など)を心に抱く
  • franc:フランク、フラン ※通貨単位
  • Antwerp:アントワープ ※ベルギー北部の都市
  • lad:少年、若者
  • scholar or peasant:学者であれ、農夫であれ = 身分がなんであれ
  • unaided:人の手を借りない、独力の

ヒント

whichの後に続く節の構造をしっかりと見極めよう。

つまずきポイント

it was announcedのところで節を区切って考えてしまうと混乱します。

さて、今回は、日本でも親しまれている『フランダースの犬』の原文からの抜粋です。本作は主に子供が読む児童文学というイメージが強いかもしれませんが、原文の英語は一文が長く構造も複雑な箇所があり、必ずしも易しくはありません。引用文はdoneの後の,andを挟んで短めの前半と、かなり長い後半に分かれています。まずは前半を確認しましょう。

前半の構造

Patrasche (S)
 had lain (V) quiet
   (countless hours)
     (watching its gradual creation after the labor of each day was done)

countless hoursは形の上では名詞ですが、「何時間も」と副詞的にhad lainを修飾するフレーズです。最後のwatching … はhad lain「横になっていた」際に同時に行っていたことを表現する分詞構文です。パトラッシュがネロの絵が徐々に完成していくのを忍耐強く横で見守っていたことが読み取れます。

後半の構造

続いて、後半に目を向けましょう。今回、特に問題となっているのは下線部which以降の構造ですが、それ以外でも少し注意が必要な箇所があります。

he knew that Nello had a hope(彼はネロが希望を持っているのを知っていた)というところまで読んで、hope(希望)とはどういう希望だろうか、と考えるのがポイント。そうすれば、ダッシュ(-)で挟まれた箇所の後ろに出てくるof … がhopeにつながり、その内容を説明する前置詞句であるということがすんなりと読み取れるでしょう。

もちろん、コンマ(,)やダッシュ(-)で挟まれている箇所は挿入語句なので、混乱しそうならばカッコでくくって考えてみるというのも重要なテクニックです。

このネロのhope(希望)の内容を説明するof … 以下の箇所に今回問題となっているwhich節が含まれます。sending this great drawing to compete for a prize of two hundred francs a year(1年200フランクの賞の獲得を目指してこの立派な絵を送る)のa prize of two hundred francs a yearの部分をさらに説明するために関係代名詞節が追加された形です。

ここで、whichの後にit was announcedという区切りの良さそうな構造が続きますが、announcedのところでこの節が終わっていると考えてしまってはいけません。そもそも関係代名詞節とは、独立した文ではit / that / they / themなどの代名詞として文中の主語や補語、目的語の位置にあるものが先頭に出て、whichやwhoなどの関係代名詞と呼ばれるものに変化した構造です。

関係代名詞節の成り立ち

したがって、上のshe wrote のようにもともと代名詞があった箇所はあるべき名詞句が抜け落ちたような形となるのが普通です。この成り立ちを考えると、今回の問題文をannouncedで区切って、which it was announcedが1つの関係代名詞節を構成していると考えるのは、it was announcedに名詞句が抜け落ちている部分が見当たらないため無理があります。では、どう考えればよいでしょうか。

ここで、would be open以下の部分が前とどうつながっているのか、ということに目を向け、主語が見当たらないことから、whichはwould be openの主語となる代名詞が移動したものではないかと考えられたかどうかがポイント。種明かしをすると、この部分は、以下のような成り立ちで生まれた関係代名詞節になっています。

つまり、独立した文で書いていたとすると、it … thatの形式主語構文のthat節内の主語の位置に登場していたであろう代名詞が先頭に移動して、whichとなった形です(なお、このような構造の場合、thatは通常省略されます)。

関係代名詞の主格、目的格というのは、関係代名詞となった代名詞がもともと果たしていた役割が主語なのか目的語なのかによって決まるため、that節内の主語が移動、変形した下線部whichは「主格の関係代名詞」と考えるのが正しいということになります。

なお、下の例では日本語として通りがよくなるよう、be open to ~「~に開かれている」のところを「~が参加できる」のように意訳しています。

解答と訳例

正解 (1)

訳例
パトラッシュは静かに何時間も横になって、毎日の仕事が終わってから絵がだんだんと出来上がっていくのを見守っていた。彼はネロにはある望みがあること、ひょっとしたらはかなくて無謀な望みかもしれないが、強く心に抱いた望みがあることも分かっていた。それはこの立派な絵を、アントワープで発表された、賞金200フランクのコンテストに出品するという夢だ。これは独力で描いたチョーク画や鉛筆画でそれを勝ち取ろうとする18歳未満のすべての才能ある若者が、身分にかかわらず参加できるとされているものだった。

前回までのクイズはこちらから

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北村一真(きたむら・かずま)
北村一真(きたむら・かずま)

1982年生まれ。慶應義塾大学大学院後期博士課程単位取得満期退学。学部生、大学院生時代に関西の大学受験塾、隆盛ゼミナールで難関大受験対策の英語講座を担当。滋賀大学、順天堂大学の非常勤講師を経て、2009年に杏林大学外国語学部助教に就任。2015年より同大学准教授。著書に『英文解体新書』(研究社)、『英語の読み方』(中公新書)、『知識と文脈で深める 上級英単語ロゴフィリア』(共著、アスク出版)、『ジャパンタイムズ社説集2022』(解説執筆、ジャパンタイムズ出版)、『英文読解を極める 「上級者の思考」を手に入れる5つのステップ』(NHK出版新書)など。Twitter:@Kazuma_Kitamura

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