現役プロ通訳者が通訳現場のさまざまな話題やこぼれ話を語ります。4回目の今回は、通訳案内士の松本美江さんが、グルメツアーに同行したときのエピソードを紹介します。
日本食の底力
「第五の味覚」という言葉をご存じでしょうか? 甘味、塩味、酸味、苦味の範疇に当てはまらない日本のかつお節や昆布だし汁の持つ味わいが、第五の味覚、umami として今、海外のグルメの関心の的になっています。事実、私のお客さまたちも最近ではこの umami という言葉を知っている人が増えてきていて、築地場外市場などにご案内して、かつお節や昆布について説明すると
Oh, this is the shaved bonito where umami comes from!と言って興味を示します。このように和食のおいしさの秘密ともいえる umami が注目されるようになったのは、やはり昨今の世界的な和食ブームがその理由のようです。おっ、これがうま味のもととなる削り節ですね!
美食体験ツアーで食談義に花が咲く
※イラスト:つぼいひろき今年の春、2週間ご一緒したニューヨークからのお客さま、金融関係のビジネスマンのお父さまと2人の息子さんだったのですが、毎日夕食はミシュランの三ツ星、お昼も星付きの所で召し上がるという日程でした。来日される前に頂いた日程表に、3晩連続で京都の三ツ星料亭での懐石料理と書かれているのを見て、これはきっと2晩目以降はキャンセルになるのでは?と思いました。これまでの経験から、どんなに日本食好きの方でも、懐石となるとせいぜい滞在中に2回が限度でしたので、3晩続けての懐石は、まず無理なのではと思ったのです。
ところがお会いしてびっくり、ご一家全員が筋金入りの食通、16歳の息子さんもよちよち歩きのころからニューヨークの日本料理店でシェフの“Omakase”を食べていたそうで、毎晩懐石でも望むところ、京都の三ツ星料亭を較してみたいとのことでした。
通常夕ご飯は同席しないガイドも、今回はぜひ一緒にとのことで、毎食ご相伴にあずかり、めったにない幸運な美食体験ツアーとなりました。途中さすがに、美食続きに慣れていない私の胃袋がストライキを起こしそうになりましたが、胃薬になんとか助けられて 2週間で体験したレストランのミシュラン星合計27個というグルメツアーを完走 することができました。
毎晩食事をしながら、たけのこはA料亭のものが良かったが、はまぐりはB料亭のプレゼンが優っていた、鯛はやっぱり明石の鯛を出したC料亭が……など、ご一家との食談義に花が咲きました。
It was interesting how every restaurant could take the same seasonal ingredients but come up with completely different ways of using them.との感想でした。どこも同じ旬の食材を使いながら料亭ごとに新しい工夫の取り入れ方が違っていて、まったく違うものになっているのが面白かった。
高級店から普段の食事までまず外れがない日本の食
このときのお客さまは特別にグルメでいらっしゃいましたが、日本食の体験を目的に日本へいらっしゃるお客さまは確実に増えています。今回のお客さまからも、
The “kaiseki,” sushi and Kobe beef restaurants you took us to were all wonderful, but those restaurants that seemed to be especially loved by office workers ? that “tonkotsu” ramen restaurant, yakitori shop and “kamameshi” place ? were surprisingly good. When it comes to dining out, Japanese people sure are spoiled for choice!とのお言葉。高級な和食から普段着の食事まで、まず外れがないのが日本の食の底力なのだと分かりました。日本はグルメな国なのだとあらためて思い知らされました。懐石や寿司、それに神戸ビーフは文句なく素晴らしかったが、君が息抜きにと連れて行ってくれた豚骨ラーメンやサラリーマン御用達の焼き鳥や釜飯などもびっくりするくらいおいしかった!外食だと選び放題で日本人はラッキーだね。
この記事は『マガジンアルク』2015年7-8月号に掲載されたものです。
文:松本美江(通訳案内士)
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