holy duster って英語?神主さんがスピリチュアルな洗車!

現役プロ通訳者が通訳現場のさまざまな話題やこぼれ話を語ります。2回目の今回は、通訳案内士の松本美江さんが、外国人にとって最も満足度が高い明治神宮での通訳エピソードを紹介します。

神道ときれい好き文化

成田空港に到着するほとんどの外国のお客さまにとって、日本観光の1日目は東京です。期待も好奇心も一番盛り上がっているこの日に、私が第一にお連れしたい場所は── 東京の観光地の中で、これまでで一番お客さまの満足度が高かった明治神宮 です。その魅力の一番の理由は、都会の真ん中にありながら12万本もの木が植えられた豊かな森に包まれていることでしょう。またすぐ隣に原宿の竹下通りや買い物客でにぎわう表参道があり、掃き清められた神社とのギャップを観察してもらうことで、日本文化の多様性を肌で感じてもらえます。

本殿への参道で観光客は神道に興味津々に

実は最近の明治神宮は、これまで以上に海外からの団体ツアーでにぎわうようになっていて、もはや静寂な場所とはいえなくなっています。それでも参道を歩くと、森の空気清浄効果もあってか、皆さん一様に清々しさを感じると言います。参道に入ってまず目に留まるのが、積み重ねられたカラフルな酒樽です。

Sake is the official drink of Shinto . It is served at most ceremonies, except those for children and babies.

清酒は神道の正式な飲み物です。それは子どもと赤ちゃんのためのものを除いて、ほとんどの儀式で出されます。

と説明すると、
Now I know they have alcohol, I really like Shinto .

お酒がオッケーだなんて、もう神道が好きになったよ!

と笑顔になるお客さまも。

次に皆さん驚嘆するのが樹齢1500年の檜(ひのき)を使った大きな鳥居。

Passing under this torii will cleanse you. Are you emotionally prepared?

この鳥居の下を通ることで、気持ちが清められるのです。心の準備はいいですか?

と説明すると、お客さまの顔が引き締まります。通り抜けた途端
Oh, I already feel so much cleaner!

ああ、私はすでにとてもきれいに感じます!

と笑いながらも、清々しい表情になっていて、私の説明を真面目に受け止めてくれるのが分かります。参道を進むと手水舎があります。ここでは作法に則って身体を清めてもらうのですが、こうした 動作 を体験することで、神道の教えに自然に関心を持つようになるのです。
What kind of teachings are there in Shinto ?

はどんな教えなの?

When do you come to the shrine ?

どんなときに神社に来るの?

May priests get married?

神官は結婚できるの?

などと矢継ぎ早に質問が飛んできます。私は、 神道には経典も創始者もなく、自然崇拝から始まった自然発生的な信仰で、最も大切な教えは、全ての厄災のもとになる心と体の汚れを清めること 。だから特に決まった日に参拝しなくても、自分が必要だと思ったら来ればいい。 汚れを避ける以外、禁止事項がほとんどないので、神官さんも結婚でき、おそらく世界で一番シンプルかつフレキシブルな宗教 だと思うと説明するのですが、これが想像以上に欧米のお客さまの心に響くようなのです。本殿に着くと、ここでもまたほとんど装飾がなく、中に明治天皇とその皇后さまの御霊が祭られている閉じられた扉があるだけのシンプルさに驚かれます。
※イラスト:つぼいひろき

帰りの参道で必ず紹介するのが、車のおはらい所です。

The priest shakes something like a holy duster to bless new cars and cars that have been involved in an accident.

神官さんが holy duster のような道具を振って、事故に遭った車や新車などを清めてくれるのですよ。

これには皆さん大笑いしながら、 すぐに 真面目な顔になって
It's like a spiritual car wash, isn't it? That's an amazingly good idea!  Why hasn't it spread to other countries?

スピリチュアルな洗車ですね?こういうわ分かりやすさがすごい!なぜ他のに広まらなかったの?

と聞かれます。確かに仏教と比べても神道が海外で普及しているとはあまり聞いたことがありません。戦争中に国家神道となって政治的に利用された時代があったからかもしれませんが、これからは日本人のきれい好き文化と共に神道ももっと自信を持って海外に紹介してもいいのではと感じています。

この記事は『マガジンアルク』2016年3-4月号に掲載されたものです。

文:松本美江(通案内士)

イラスト: つぼいひろき

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