『ドライブ・マイ・カー』で英語指導した俳優が語る、演技と英語学習の共通点とは?【ヒロウエノさんインタビュー・音声付き】

俳優のヒロウエノさんは、NHKの大河ドラマや連続テレビ小説、Netflix映画など数多くの作品に出演する一方で、通訳・英語コーチとして日本人俳優たちの英語や演技の指導をしています。英語コーチとはいったいどんな仕事なのでしょうか?指導する際に気を付けていることや、英語指導をした映画『ドライブ・マイ・カー』の舞台裏、英語を身に付けるためのアドバイスなどをお伺いしました。

※本記事はENGLISH JOURNAL2022年12月号に掲載した内容を再編集したものです。

演劇界における「英語指導」の仕事

演劇界における「英語指導」とは、いったいどんな職業なのでしょうか?ヒロウエノさんは「制作準備段階からポストプロダクション(映画撮影後の編集作業)まで、幅広く関わることのできる仕事」だと言います。

具体的には、俳優が外国語のセリフを理解し、覚え、練習する手助けをしたり、撮影中には発音の正確さなどを確認して監督に伝えたりします。撮影後にはラフカットを見て、吹き替えの必要性などを確認することもあるそうです。

そんな英語指導とういう職業において、ヒロウエノさんが特に気を付けていることについてお伺いしました。

You have to make sure that you’re being part of the story, you’re being part of the process. And so, you have to be a cog in a big clock, and you have to be a good motivator. Like I said, you have to give them a pep talk, but at the same time, you have to respect the actor, how they prepare for the character, because speaking the English dialogue is not the most important thing, but the portraying the character perfectly is the most important thing.

自分(英語指導の役割)はあくまで物語の一部であり、製作過程の一部であるということを自覚しなければいけません。ですから、大きな時計の一つの歯車であり、人の意欲をうまく引き出す人にならなくてはいけません。先ほども言ったとおり、俳優たちに叱咤激励しなくてはいけないときもありますが、同時に、俳優たちがどのように役の準備をするのかを尊重しなくてはいけません、なぜなら英語のセリフを話すことが一番大切なのではなく、その役を完璧に演じることが一番大切だからです。

『ドライブ・マイ・カー』での興味深い体験

大河ドラマ「西郷どん」「いだてん」をはじめ、数々の作品で英語指導を務めてきたヒロウエノさん。これまでに一番印象に残っている経験を聞いたところ、カンヌ国際映画祭やアカデミー賞で数々の賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』での仕事が、興味深く珍しいものだったと言います。

Hamaguchi-san really values the privacy of the actors. So only a few crew members are allowed to be in the room, and I was one of them. And through a number of table-read sessions, it was really interesting. The actors were reading to each other in languages they don’t understand. But what happens is that they sort of start to get used to the sounds of other languages and even start to understand some of it. And that chemistry was so interesting, fascinating.

(監督の)濱口(竜介)さんは、俳優のプライバシーを本当に大切にしています。だから部屋に入れるのは数人のスタッフだけで、私もそのうちの一人でした。そして何度も読み合わせをしたのですが、これが実に面白かったんです。俳優たちは、お互いに理解できない言語で読み合っていました。でも何が起こるかというと、彼らはある程度他の言語の音に慣れ始め、さらにはその一部を理解し始めるのです。その化学反応はとても興味深く、魅力的でした。

(左)NHK 大河ドラマ「青天を衝け」八十田明太郎役 (右)NHK 太平洋戦争80 年特集ドラマ『倫敦ノ山本五十六』溝田主一役 写真提供:ロットスタッフ

演技と英語学習の共通点

日本で生まれ育ったヒロウエノさんですが、インタビュー音声を聞いて分かる通り、とても流暢なアメリカ英語を話します。英語教師だった母の影響で幼い頃から英語に関心を持ち、初めて英語を話したのはなんと3歳の頃。家に遊びに来た外国人に”This is my baseball cap.”と話し掛けたところ、”Oh, cool!”と反応してくれたのがとても嬉しかったと話します。

高校時代には演劇部に入り演技に目覚め、卒業後にハリウッドを目指し渡米しました。UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)で学ぶ日々は、「本当に大変で、徹夜で勉強する毎日だった」と言います。

地の利を生かして大学の内外で演技を学び、卒業後は多数のオーディションを受けて俳優や通訳、英語コーチのキャリアを積んで気付いたことは、「演技」と「英語学習」の共通点でした。

Because on set, the director says, “Action!” so you have to move. Whether you’re saying your line, you’re moving your muscle. It’s acting, it’s not thinking. And I think learning a language, learning English is the same thing. ’Cause people misunderstand, you know, learning the new language is the intellectual thing. It’s like, you know, thinking it, reading it and thinking about saying it, but not actually saying it. It’s more of a physical process.

撮影現場では、監督は「アクション!(動いて!)」と言うわけですから、まさに動かなくてはいけないのです。セリフを言うにしても、筋肉を動かしているわけです。それは行動することであって、考えることではありません。言語を学ぶこと、英語を学ぶことも同じだと思うんです。皆さん誤解しているんです、新しい言語を学ぶことは知性的なことだと。考えて、読んで、口に出そうと思いながらも、でも実際には口に出さない、といった感じです。もっと、身体的なプロセスなんです。

ヒロウエノさんの下には、「英語を話せるようになりたい!」という人がたくさんやって来るそうです。そういった人々にするアドバイスは、「考えるのではなく、行動しよう」ということ。俳優が、演じる役柄について分析するだけではその役のように振る舞えないのと同じように、英語も考えているだけでは上達しないということなんですね。

また、「英語を話せるようになりたいから3カ月勉強しよう」というように考えるのではなく、「残りの人生、ずっと勉強し続けるんです」とヒロウエノさんは言います。筋トレをやめたら筋肉がなくなってしまうように、英語も続けることが大切。

残りの人生、ずっと勉強し続けるんです。勉強とすら考えずに、ただやりましょう

インタビューの続きはEJ12月号で

ENGLISH JOURNAL12月号では、ヒロウエノさんのインタビュー全文を掲載。より具体的な英語指導の内容、英語を身に付けるためのアドバイス、リラックスと集中の極意などについて話します。

文・構成:古川(編集部) 取材:大井明子 翻訳:春日聡子 写真:山本高裕(編集部)

ヒロウエノ
ヒロウエノ

俳優、英語指導。UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)哲学科卒。英語指導・通訳を担当した映画『ドライブ・マイ・カー』(2021年、濱口竜介監督)が第94回米アカデミー賞で日本映画初の作品賞・脚色賞を含む4部門にノミネートされ、国際長編映画賞を受賞した。俳優としては、NHK大河ドラマ「青天を衝け」八十田明太郎役、CX「ナンバMG5」松島雄平役、映画『Red』(2020年、三島有紀子監督)安藤ウェス役など。2023年公開の映画『コットンテール』(リリー・フランキー主演)で英語指導を務める。
Twitter: @hiroueno  Instagram: @hiroueno1984  YouTube: Hiro Ueno YouTube Channel

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