最も華やかで孤独だったダイアナ妃の3日間を描く芸術作『スペンサー ダイアナの決意』【ENGLISH JOURNAL 11月号】

イギリスの故ダイアナ元皇太子妃をクリステン・スチュワートが演じた映画『スペンサー ダイアナの決意』が公開中です。『ENGISH JOURNAL』2022年11月号のInterview 1では、昨秋のベネチア国際映画祭でワールドプレミア上映された際の、記者会見の様子をお届けしています。

記事では、Interview 1に併せて誌面に掲載したコラムをご紹介します。

文:中村千晶(映画ライター)

王室のベールに包まれた日々、ある3日間の秘密

Ⓒ Pablo Larrain

What’s beautiful about her is you feel like you’re friends with her.
彼女(ダイアナ)の美点は、自分が彼女の友達みたいに思えることなんです。

物憂げでどこか思い詰めたような大きな瞳。はにかんだ上目遣いの表情と、そわそわと落ち着きのないしぐさ―ここにいるのは俳優クリステン・スチュワートではない。彼女は今、自身の存在を完全に消し去っている。

『スペンサー ダイアナの決意』で彼女が演じるのは、ダイアナ妃だ。史上最も愛されたプリンセスであり、36歳でその生涯を閉じた悲劇のヒロイン。そんな世紀のアイコンにパブロ・ラライン監督は驚くべきアプローチで迫った。その人生の中のわずか3日間を描き、一切の説明を排除し、彼女の心理描写のみにフォーカスしたのだ。

映画は1991年のクリスマスイブ、エリザベス女王の私邸にダイアナがやって来るところから始まる。チャールズ皇太子に見初められ、1981年に20歳で結婚したプリンセス。輝くばかりの美しさと人柄で「ダイアナ・フィーバー」を巻き起こすも、この結婚は最初から偽りだった。夫の裏切りと不貞、パパラッチの執拗(しつよう)なフラッシュにさらされ、彼女は摂食障害を患ってしまう。バスルームにこもり、嘔吐(おうと)を繰り返す彼女の声にならない叫びに胸が苦しくなる。

それにしてもクリステン・スチュワートが素晴らしい。「トワイライト」シリーズのヒロインとして一躍スターとなったのは18歳のときだ。セザール賞を受けたオリヴィエ・アサイヤス監督の『アクトレス~女たちの舞台~』(2014)でその実力を知らしめた。プライベートではアクティビストな顔ものぞかせる。2017年にバイセクシュアルを公表し、恋人たちとの交際を常にオープンにしてきた。現在は脚本家のディラン・マイヤーと婚約中だ。

そんな彼女が本作で体現するのは、悲劇のプリンセスではない。旧態依然とした制度に苦しみ、生き方を封じられた一人の女性だ。そして彼女は傷付きながらも、自分らしさを取り戻そうと、新たな一歩を踏み出す。その姿は現代を生きるわれわれの苦悩となんら変わらない。そんなダイアナに、クリステンはどこか自分を重ねたのかもしれない

You’re not on some predestined path. And sometimes your life can feel like it’s happening to you, but you can just take the reins.
人は運命で決められた道を歩かされているのではないのです。時には物事が自分に降りかかってくるように感じることもありますが、それでも、実は自分で手綱を握れるのです。

Ⓒ Pablo Larrain

『スペンサー ダイアナの決意』

Story 1991 年のクリスマス。ダイアナ妃とチャールズ皇太子の夫婦関係は既に冷え切っていた。不倫や離婚のうわさが飛び交う中、クリスマスを祝う王族が集まったエリザベス女王の私邸サンドリンガム・ハウス。精神的に追い詰められたダイアナは生まれ育った地で、今後の人生を決める一大決心をする――。

Cast & Staff 監督:パブロ・ラライン/出演:クリステン・スチュワート、ジャック・ファーシング、ティモシー・スポール他/配給: STAR CHANNEL MOVIES /TOHOシネマズ 日比谷他、全国で公開中

『ENGLISH JOURNAL』2022年11月号

『ENGLISH JOURNAL』11月号の特集は「海外ゲストと行きたい日本7選」。「歴史」「瞑想」「アート」「アクティビティー」などのテーマを切り口に、海外からのゲストとの日本の楽しみ方を紹介します。

Interview 1:クリステン・スチュワート(俳優)
Interview 2:トム・デイリー(高飛び込み競技選手)

ENGLISH JOURNAL 編集部
ENGLISH JOURNAL 編集部

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