ハイスクール受験【オレゴン12カ月】

渡米して20年以上がたち、現在はオレゴン州ポートランドで暮らす大石洋子さん。家族や身の回りで起こった出来事や季節のイベント、日米文化の違いなどにまつわるお話を現地からお届けします。

ついこの間まで、おねしょをしないかだの、自転車の補助輪がいつになったら取れるのかだのと気をもんでいたように思うのだが、ふと気付けば、この9月からウチの娘は高校生になる。早いものである。

アメリカでは、すべての生徒が高校に入学する。どこまでが義務教育かというのは州によって異なるが、オレゴンでは満16歳に達すると、親の許可があればドロップアウト、つまり卒業を待たずに学校をやめることができる。 ちなみに 、2016年のオレゴン州の高校卒業率は74.8%で、全米50州のうち48番目という低さ。オレゴンよりも低かったのは、ネバダとニューメキシコ。反対に、トップはアイオワとニュージャージーで、それぞれ90%を超えていた。

公立の高校なら試験なしで入れるが、ウチの娘は、私立の高校も受けた。どちらに行くことになるかは、この原稿を書いている時点ではわからないのだけれど、この私立高校の受験はなかなか新鮮な体験だったので、それについて少し書いてみよう。

始まりは、10月末のオープンハウスであった。日曜の午後に開かれた、学校説明会だ。名前や住所などを用紙に書き込みはしたが、正式な申し込みではなく、あくまでも下見の会である。講堂で、短い紹介ビデオを見た後に校長の挨拶、そして在校生の代表数名がこの学校の魅力について語るのを聞いた。

それから入学 希望 者とその家族は小さなグループに分けられ、在校生に校内を案内してもらった。教室にはさまざまな教科の教師が待ち構えていて、質問に答える。体育館には、各種課外活動クラブに属する生徒たちがブースを構えていて、やはり質問に答えている。在校生も教師もみんなニコニコ、おまけに校内のあちこちに風船が飾られていたり、クッキーやレモネードなどが用意してあったりで、ちょっと学園祭のようなノリ。「ウェルカム!」という空気に満ち溢れていた。

その後、「シャドウ・デー」があった。これは、入学 希望 者が、在校生に一日中影のようにくっついて歩く、体験入学のことである。この学校に通っている知り合いの子がいたので、娘はその子を指名して「シャドウ」させてもらった。数学と経済学、それにスペイン語の授業を一緒に受けたそうだ。カフェテリアでのランチは学校のおごり。ブリトーがおいしく、そして高校生たちが気さくに仲間に入れてくれて、楽しく過ごしたようである。

イラスト:尾崎仁美

12月の初めには、「プレースメントテスト」と呼ばれるテストがあった。学校からの案内には、「準備のための勉強は必要ありません。前の日の夜はよく寝ること」とあった。科目は英語と数学。市販されている練習問題の冊子を入手したところ、そう難しくはないが、時間の割に問題数が多い。学校は、「このテストは合否を決めるものではなく、入学を決めた後にクラス分けをするための、あくまでも参考です」とも言っていた。ウチの娘はそれを真に受けてほとんど勉強しなかったが、周りに聞いてみると、練習問題の冊子さえ買わなかったという人がいる一方、家庭教師を雇って数カ月準備した、という人もいた。

特筆すべきは、テストの 実施 日。テストそのものは数時間だから1日で済むのだが、 実施 日が複数用意されているのである。金曜か土曜、どちらか都合のいい日に来るように、とのこと。その両日どうしても都合が悪い場合には、近隣の姉妹校で別の日に受けることもできる、というありがたいシステムだ。

受験生だけでなく、保護者も必ず来るように言われる面接もまた柔軟である。2週にわたって土曜に行われるこの面接は、名字の頭文字によってあらかじめ日時が割り振られていたが、「指定の時間に来られなかったら、ほかの時間に来るように。連絡なしで構わないから」とのこと。ウチはどうしても都合がつかず、指定の時間外に行ったのだが、嫌な顔ひとつされなかった。面接官も保護者たちもカジュアルな服装で、 念のため 、とジャケットを着て行ったウチの夫は少し浮き気味であった。校内の図書館で行われた面接自体も肩の凝らないもので、面接官はこちらを緊張させないようにとジョークを飛ばし、終始笑顔だった。

必要な書類は、すべてオンラインでの 提出 だ。現在通っている中学校での成績はもちろん、数学と英語の教師、そして校長からの推薦状が要る。期日までに推薦状が 提出 されなかった場合には、高校側から中学の担当教師に催促のメールを出してくれるという至れり尽くせりぶりだ。

もちろん、私たちもいろいろと書かされた。娘は「学校の課題以外で最近読んだ本について」とか「なぜ本校を 希望 するのか」などの短い作文を書いたし、私も、娘の長所と短所について書かねばならず、英語を娘に添削してもらったりした。

というわけで、アメリカの高校受験は柔軟でカジュアルだ。学校のことをよく知った上で選んでほしい、という姿勢が伝わってくるし、生徒のことも一度の試験結果だけではなく多面的に知った上で選考したい、という意思も感じられる。娘もリラックスして、本当の自分を見てもらうことができたのではないかと思う。

アメリカのオレゴン州ってどんなところ?

アメリカ北西部に位置する、全米屈指の美しい景観を誇るオレゴン州。IT、バイオテクノロジー、環境関連産業の成長目覚ましく、ナイキなどのスポーツ・アウトドア企業も多い。州都はセイラム、最大の都市は人口約60万のポートランド。

文:大石洋子エッセイスト。1993年、夫の海外赴任でアメリカ・ニュージャージー州へ。2003年には異動のためオレゴン州に転居。現在は、日に日に生意気になる16歳の娘に手を焼く傍ら、月に2回、 Boiled Eggs Online にオレゴンでの生活をつづっている。
本記事は『ENGLISH JOURNAL』2018年5月号に掲載された記事を再編集したものです。

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