渡米して20年以上がたち、現在はオレゴン州ポートランドで暮らす大石洋子さん。家族や身の回りで起こった出来事や季節のイベント、日米文化の違いなどにまつわるお話を現地からお届けします。
娘が 所属 するフェンシングクラブでのトレーニングの一環として、毎週火曜に私がヨガを教えているということは以前にこの連載に書いたが、いつもひときわ熱心にヨガに取り組んでいる10年生のノア(日本では高校1年)が、「来週からしばらくヨガに来られない」と言い出した。
どうしてかと尋ねたら、
「放課後にDriver ed を受けるから」とのこと。
Driver education-―クルマの運転免許を取るためのクラスだ。
「楽しみ?」と聞いたところ、ノアは、
「うーん、そうでもない。クルマは誰かに乗せてもらって寝てるのが好きだな」と言った。
16歳でクルマの運転か・・・と思っていたら、なんと、9年生で15歳のゾーイがすでに教習を受けているというので驚いた。日本でならまだ中3というゾーイは、ノアと違ってやる気満々。早く1人で運転できるようになりたくてたまらない様子である。父親を助手席に乗せ、すでに人気の 少ない 駐車場などで運転の練習を始めているのだそうだ。
運転免許 取得 にまつわる決まりは州によって異なるが、オレゴンでは、15歳から免許 取得 のプロセスを始めることができる。まずは、DMVと呼ばれる、いわゆる免許センターで学科試験を受けることから始まる。パスするためには35問中28問正解しなければならないが、問題集が出回っているのでそんなに難しくない。試験に受かると、learner’s permit という許可証(仮免)がもらえる。
許可証をもらったら、基本的には、規定時間数の運転練習をこなし、実技試験にパスするだけである。やり方には2通りあって、21歳以上の大人が同乗のもと100時間以上練習するか、あるいはオレゴン州運輸局 承認 済みの教習を受けるか。教習は、自動車教習所だけでなく、地元の高校や教会、レクリエーションセンターなどでも開かれているクラスだ。 ちなみに アメリカの教習所には、日本の教習所のような箱庭式の練習場はない。
教習は、教室で受ける講習が32時間と、6時間の運転実技講習がセットになっていて、500ドル前後が相場だ。これを受けると、練習の規定時間が100時間から50時間に減らされ、また、免許センターでの最終実技試験が免除されたりもする(もちろん、教習の終わりに行われる試験をパスしなければならない)。 ちなみに 、教習ではインストラクターが同乗しての運転実技練習は6時間ほどなので、残りの44時間は、たいていの場合、親が練習に付き合うことになる。
イラスト:尾崎仁美
日本ではどういう規定になっているのか調べてみた。東京指定自動車教習所協会によれば、講習は全26教程だそうで、ひとつを1時間としたらアメリカの方が講習の総時間数は多い。また、技能と呼ばれる運転も、日本では教習所内と路上を足して31時限だが、アメリカは50時間(講習を受けない場合は100時間)。アメリカでは簡単に運転免許が取れるという印象があるが、時間は意外にかかるようだ。
教習を修了して16歳の誕生日を迎えたら、晴れて免許がもらえ、1人で運転することができるようになる。が、最初の1年間は制限付きである。20歳以下の人を同乗させてはいけない(家族は除く)、午前0時から5時までの間は運転してはいけない、などなど。同年代の友達を乗せてドライブできるようになるのは17歳になってからである。
この記事を書くに当たって、何人かの友人と運転免許について話をしたのだが、そこでリックが、
「オレ、クルマを運転し始めたのは14歳だったな」
と言うのでひっくり返った。彼の出身地アラスカ州では、14歳から運転の練習ができるのである(免許を手に入れられるのは16歳から)。
そんなに若いうちから運転させなくたっていいではないかと思うが、しかし、家が学校から遠い子も多く、早くから運転させたい事情があるらしい。実際、わが家の近所に住む共働きの家庭は、娘が16歳になるのと 同時に 免許を取らせてクルマも買い与え、「これで送り迎えにあくせくしなくて済む」と言っていたものだ。国土が広く、公共交通機関が発達していないアメリカでは、子どもにも早くクルマ社会の一員になってもらう必要があるのだろう。
それにしても14歳は早いなあと思っていたら、なんと、12歳の子にクルマを運転させるというプログラムがあるのを見つけてさらに驚いた。これはもちろん公道ではなく区切られた敷地内でのこと。12歳とはいっても、身長が4フィート10インチ(約145センチ)以上でないと参加できません、という ただし 書き付きなのは、まるで遊園地の乗り物みたいだ。運転を教えるというよりは、クルマを運転してみたいという子どもの気持ちに応えるのが目的とのことだが、いやはや。
そんなわけで、早くから自動車の運転に親しむアメリカ人は、日本人にとってビックリの連続である。が、お返しに、「日本では免許を取るのに2000ドル以上かかるのよ」と言うと、今度はアメリカ人の方がぶっ飛ぶ番なのであった。
アメリカのオレゴン州ってどんなところ?
アメリカ北西部に位置する、全米屈指の美しい景観を誇るオレゴン州。IT、バイオテクノロジー、環境関連産業の成長目覚ましく、ナイキなどのスポーツ・アウトドア企業も多い。州都はセイラム、最大の都市は人口約60万のポートランド。