行き場をなくしたプラスチック【オレゴン12カ月】

渡米して20年以上がたち、現在はオレゴン州ポートランドで暮らす大石洋子さん。家族や身の回りで起こった出来事や季節のイベント、日米文化の違いなどにまつわるお話を現地からお届けします。

ゴミが増えた。以前は、月に一度のゴミ収集で事足りていたが、最近はそうもいかなくなってきた。

月に一度のゴミ収集が実現できたのは、以下のような事情による。

ポートランドの各家庭は、市から3つの収集容器を支給されている。1つ目の青い容器はリサイクル用で、古紙やプラスチック容器、瓶や缶などをまとめてガサッと入れる。

2つ目の緑の容器には、yarddebris(ヤード・デブリ=庭仕事で出る枝や枯れ葉)とキッチンからの生ゴミを入れる。生ゴミは、植物性のものだけでなく、魚の骨なども入れていい。ポートランドにはゴキちゃんはいないし、容器はガレージの中に置いておくので臭いも気にならない。こうして集められたヤード・デブリと生ゴミは、微生物が分解してcompost(堆肥)になり、有機肥料として販売されるそうだ。

3つ目の黒い容器は、landfill と呼ばれる埋め立て地に行くゴミ用である。リサイクルに出せないプラスチックや猫のトイレからのゴミがほとんどだ。

青と緑の容器の中身は、毎週 回収 される。黒い容器は、隔週か、あるいは月に一度。ゴミの量によって各家庭が決めているのだ(ポートランドのゴミ収集は有料で、頻度によって値段が変わる)。

わが家は月に一度の収集にしていたのだが、最近、それでは間に合わなくなってきた。

と、ここでようやく、冒頭の「ゴミが増えた」にたどり着くわけだが、なぜゴミが増えたのかというと、プラスチックの行き場がなくなったからである。 

イラスト:尾崎仁美

リサイクル用の青い容器に入れて 回収 に出してもいいプラスチック、というのは限られている。シャンプーやドリンク、洗剤などのプラスチックボトルや、大きなものだけ。例えばスーパーで買う豆腐が入っているプラスチック容器などは、リサイクル用の青い容器に入れることができない。生鮮食品のトレーなどもそうだ。このような、市が 回収 しないプラスチックのために、スーパーマーケットの店 先に 回収 箱が設置されていて、買い物のついでにそこへ持って行っていたのだが、その 回収 箱が軒並み姿を消した。

理由は、中国がそれらのプラスチックを買い取らなくなったからだそうである。これを知ったときには驚いた。それまで、環境問題に心を砕くポートランダーは、プラスチックを 回収 しては地元で再生しているものと思っていたので、ほかのところに(それも遠く離れた中国に!)わざわざ運んでいた・・・どころか、売り買いしていたというのはビックリなのであった。それに、買い取られなくなったという時点で 回収 をすっぱりやめてしまったというのにも。私が勝手に幻想を抱いていただけで、結局、世の中というのは――エコ精神が高いと思っていたポートランドでさえ――経済中心で回っている、という事実を鼻 先に 突き付けられた気がした。

また、ポートランドではスーパーでのビニール製レジ袋の使用を禁止するという話で盛り上がったことがある。5年ほど前だろうか。一定規模以上の店ではビニール製の袋の使用は禁止、紙袋を使用すること、という決まりができたのである。

これも、ほんの一時期だけ話題になって励行されたが、5年たった今は、ビニール製のレジ袋に逆戻りだ。ごく一部のナチュラル系スーパーでは紙袋だけを使用していたり、お客さんも意識が高い人が多くてマイバッグを持ってきたりしているけれど、主流は、昔と変わらぬビニールのレジ袋なのである。

ビニールのレジ袋は、軽い。ゴミ箱に捨てても、埋め立て地から風に舞って飛んでいき、そこらじゅうに落ちる。川や海に落ちたものは、やがて細かくなって生物の体の中に入る。ビニールを食べた魚を、私たちが食べているというわけだ。

1967年に公開された『卒業』というハリウッド映画の中で、大学を卒業したてでモラトリアム状態の主人公ベンに、ある大人が「プラスチックがこれから当たる」と自信たっぷりにアドバイスをするシーンがあった。

その人の予言めいたアドバイスは大当たりであった。それから50年後の今、私たちはプラスチックに囲まれて暮らしている。何をするにもプラスチックが関係しないことはないし、そしてそのほとんどはゴミ箱に直行する、いわゆるsingle- use (使い捨て)のものばかり。

太平洋上には、テキサス州ぐらいの大きさのプラスチックゴミの浮島がある、という話を聞いたことがある。潮の流れによっては、プラスチックがスープの具であるかのように浮かんでいる海域がある、という報道もよく耳にする。鼻にプラスチックのストローやフォークが刺さったウミガメや、プラスチック製の漁網にからまった海鳥、胃袋に幾つものビニール袋が入っていたクジラなど、海に流れ込んだプラスチックゴミによって生命を脅かされている動物の写真や画像は山のように出てくる。

これでいいのだろうか。いいはずはない。でも、プラスチックを使わぬ生活もできない。心の隅に罪悪感を抱えながら、行き場をなくしたプラスチックを今日もゴミ箱に 捨てる

アメリカのオレゴン州ってどんなところ?

アメリカ北西部に位置する、全米屈指の美しい景観を誇るオレゴン州。IT、バイオテクノロジー、環境関連産業の成長目覚ましく、ナイキなどのスポーツ・アウトドア企業も多い。州都はセイラム、最大の都市は人口約60万のポートランド。

文:大石洋子エッセイスト。1993年、夫の海外赴任でアメリカ・ニュージャージー州へ。2003年には異動のためオレゴン州に転居。現在は、日に日に生意気になる16歳の娘に手を焼く傍ら、月に2回、 Boiled Eggs Online にオレゴンでの生活をつづっている。
本記事は『ENGLISH JOURNAL』2018年12月号に掲載された記事を再編集したものです。

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