渡米して20年以上がたち、現在はオレゴン州ポートランドで暮らす大石洋子さん。家族や身の回りで起こった出来事や季節のイベント、日米文化の違いなどにまつわるお話を現地からお届けします。
長いことお風呂に入ってないなぁ・・・とつぶやいてみる。
いや、誤解のなきよう。私は毎日シャワーを浴びて、髪も体も洗っている。ただ、お湯に浸かっていないのだ。最後に、温かいお湯に首まで浸かって「はーあ、極楽・・・」と手足を伸ばしたのはいつだっただろうか。ええと、日本に一時帰国したときだったから、去年の8月か。それ以来、お風呂に入っていない。いや、だから、体は洗っているのだけれど。
アメリカ人にも、お湯にゆっくり浸かってリラックスする、という考えはあるようだ。アロマキャンドルなども用意して、バスタブにお湯を張ったりするようだから。でも、それは非日常というか、さてリラックスするぞ、という決意のもとに行う儀式である。そこへいくと日本人のお風呂でリラックスは、歯磨きみたいな日常の一部である。
アメリカのバスタブにお湯を張っても、実はあまりリラックスできない。バスタブが浅いから座っただけでは上半身がお湯から出て寒いし、それでは、と寝そべると膝小僧が出る。お湯の量が 少ない せいか、 すぐに 温度が下がるのも よろしく ない。
頑張ってバスタブの中でくつろいだとしても、その後が困る。なんとかバスタブの中のお湯で髪を洗い、体を洗って、仕上げのすすぎにシャワーが必要だ。しかし、アメリカの一般的な住宅の給湯システムは日本とは違って瞬間湯沸かし器ではなく、タンク式のボイラーであることが多い。わが家の給湯もガス式のタンクボイラーである。ガレージに設置してある円柱形のボイラーで40ガロン(約150リットル)のお湯を沸かしている。一度にたくさんお湯を使うと、次のお湯が沸くまでに 時間がかかる 。だからバスタブにお湯を張ってしまうと、最後に体をすすごうとしてシャワーを使うときには、出てくるのはぬるいお湯だけなのだ。せっかくバスタブのお湯に浸かって温まったと思いきや、最後はぬるいお湯で締めくくることになる。同じような理由で、複数の人が立て続けにシャワーを浴びることができない。2人目のシャワーが終わる頃には温かいお湯が尽きていて、ぬるいお湯しか出なくなる。
快適や便利さをとことん追求するアメリカ人が、いまだにタンク式のボイラーを使い続けているのは謎である。蛇口をひねってからお湯が出るまでにかなり 時間がかかる し、それにボイラーは常にオン。外出中はおろか旅行中だってタンクの種火はつけっぱなしなのだ。火事になることはまずないと思われるが、今どきエコでないことが気になる。
イラスト:尾崎仁美
設置するときのコストが倍ほど違うというのが、瞬間湯沸かし器がなかなか普及しない理由のようである。いったん設置すれば、瞬間湯沸かし器の方がボイラーの倍以上の期間は長持ちするそうで、長い目で見るとコストは同じか、むしろ安いらしいのだが、一度に出るお金が大きいので、多くの人がいまだに安いタンク式ボイラーを選んでいるようなのだ。子どもが巣立ったら「ダウンサイジング」といって小さな家に移ることが多いアメリカ人は、ずっと同じ家に住むとは限らない。次にこの家に住む人のために今自分が大金を払うの かもしれない と思うと、安い方のボイラーでいいか――そんな選択をみんながするものだから、アメリカではいつまでたってもボイラー給湯のままなのであろう。
そんなこんなで、バスタブにお湯をためて浸かってもあまりくつろぐことができないから、毎朝シャワーで済ませているというわけだ。
日米でさらに違うなぁと思う点は、子どものお風呂についてである。日本では、親と小さな子どもが一緒にお風呂に入るが、アメリカではそれはあまり一般的ではない。
生まれたての赤ん坊はたいていの場合、ベビーバスというたらいのようなものにお湯を張って洗ったり、キッチンのシンクで洗ったりする。そう、キッチンのシンク。親が服を脱ぐ必要もないし、立ったまま 作業 できるし、一人でできるから便利で手っ取り早い。 ちなみに アメリカ人は、キッチンのシンクで猫や小型犬も洗うのだ。
子どもが一人で座れるようになると、バスタブに浅くお湯を張ってお風呂に入れる。親がそばについて、体や髪を洗ってやる。おもちゃを用意して、遊ばせたりもする。子どもがおもちゃのアヒルでバチャバチャ遊んでいるのを映画などで見たことがある かもしれない 。
日本人なら、親も一緒にバスタブに入るところだが、アメリカでは首をかしげる人が多いようである。異性の子どもに限らず、同性の子どもでも一緒に入るのは 少ない 。お風呂は親子のスキンシップの場、などと日本では言うけれど、アメリカではその発想はない。スキンシップという言葉は そもそも 日本や韓国でしか使われないそうである。裸の付き合い、というような発想はないようだし、親子の間柄であっても、親の、あるいは子どものプライバシーを尊重するということらしい。
子どもの頃にしてもらったように背中を流してあげて、「あぁ、母さんも年取ったなぁ」としみじみ感じる、というようなことは、アメリカの親子の間にはないのである。
アメリカのオレゴン州ってどんなところ?
アメリカ北西部に位置する、全米屈指の美しい景観を誇るオレゴン州。IT、バイオテクノロジー、環境関連産業の成長目覚ましく、ナイキなどのスポーツ・アウトドア企業も多い。州都はセイラム、最大の都市は人口約60万のポートランド。
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