アウトドア天国!【オレゴン12カ月】

渡米して20年以上がたち、現在はオレゴン州ポートランドで暮らす大石洋子さん。家族や身の回りで起こった出来事や季節のイベント、日米文化の違いなどにまつわるお話を現地からお届けします。

日本の会社に勤めている夫のところには、時々日本からの出張者が来る。先日、日本から来た人の中にアウトドア、とりわけ自転車が好きという人がいて、ポートランドへの出張に大興奮していた。知らなかったが、いつの頃からか、ポートランドは「自転車天国」とか「バイカーの聖地」などとして知られているらしい。ポートランド発の自転車のアクセサリーやウェアなどのメーカーがあって、出張中にいろいろ買おうと楽しみにしてきたとのことだった。

そう言われてみると、ポートランドでは自転に乗っている人が少なくない。道路に自転車レーンが設けられているところもよくある。

天気のいい週末、郊外にあるわが家の周りでは、バイカーというのかサイクリストというのか、多くの人たちがサイクリングを楽しんでいる。サイクリングといってもレジャーというよりはバリバリのスポーツという感じで、自転車の車輪は極細だし、いでたちも、ヘルメットから靴までツールドフランスですか、と言いたくなるほどにばっちりキメている。そんな彼らは、上り坂でも自転車を押して歩いたりせずに、真っ赤な顔でストイックにペダルをこぎ続けるのであった。

平日には、通勤に自転車を使う人もいる。以前、娘が小学生だった頃に担任だった先生たちの何人かは、自転車通勤をしていたものだ。中には10マイル(約16キロ)ほどの道のりを毎日自転車で往復していた先生もいて頭が下がった。

自転車に限らず、ポートランドの人々はアウトドアでの活動が好きなのである。キャンプに出掛ける人も多い。REI(Recreational Equipment , Inc.)というシアトル発のアウトドアグッズの店はいつも大盛況だ。服や靴だけでなく、テントや寝袋、双眼鏡やコンパス、アウトドアクッキング用品などなど、大小さまざまのグッズが所狭しと並べられている。娘が通っていた小、中学校では毎年キャンプ旅行があったので、そのたびにREI に行っていろいろと買い足したものである。

その結果、娘は夏用と冬用2つの寝袋を持っているし、地べたに敷いて寝るための薄いマットや、レインコートにレインパンツ、雪道を歩く際に靴に付けるスパイク、さらには洞窟を歩くときに頭に付ける懐中電灯などというマニアックなアウトドア用品まで持っている。喜々としてキャンプ旅行を引率していた理科の先生は、「どんな天候でも、それに備えた服装さえしていればアウトドア活動は楽しいものなのだ」とよく言っていた。実際、気温が低かろうが雨だろうが、一切お構いなしなのであった。

イラスト:尾崎仁美

私はといえば、根っからのインドア派である。「キャンプ? ホテルがあるのになぜ外に泊まるの?」というタイプだ。自然の中でごはんを作って食べるのは楽しいだろうなとは思わなくもないけれど、そのためにあれこれグッズを買わなければいけないばかりか、それらおび ただし い量のグッズをキャンプの度に出したりしまったりしなければいけないのかと思うと、もうダメである。

私と同じようなインドア派のインド人の友人が、それでもある時、子どもたちが喜ぶだろうからと頑張ってキャンプ旅行に出掛けることにした。帰ってきた彼女は、

「私たちが夕飯に何食べたか知ってる? オリーブガーデンでパスタよ!」

と自嘲気味に言っていた。オリーブガーデンとは、イタリア料理のチェーン店だ。キャンプ場のそばにその店があるとわかった瞬間から、夕食を作る気はうせたそうである。

そんな友人に心の底から共感するインドア派の私だが、ハイキングにはよく行く・・・などと言うといかにも積極的な感じに響くが、実際のところは、家族に駆り出されてしぶしぶ、と言った方がいいだろうか。

ポートランドの周辺には自然公園がたくさんあり、ハイキングコースが縦横無尽に広がっている。コロンビア川渓谷の方に行けば、滝を裏側から見られるようなコースがあるし、西に行けば、歩いているうちにぱあっと景色が開けて海が見えるようなところもある。難易度やコースの長さもさまざまだ。アップダウンが激しかったり、雨のすぐ後にはぬかるんでいたり、木の根っこがぼこぼこしていたり、岩が入り組んでいたりするところもあるが、自然の中をひたすら歩くというのもたまにはいいものだ。犬を連れてきてもいいコースも多く、いろいろな犬が見られるのも楽しみの一つである。自分で歩くのに疲れたのか、コースの最後の方では飼い主に抱っこされて澄ました顔でいる小型犬などもいたりする。

つい先日行ったコースは、入り口のところの案内板に「クーガー(ピューマ)に注意」とあった。音を立てながら歩くこと、クーガーに出くわしたら逃げたりせずになるべく体を大きく見せること、などと書いてあって、スリリングであった。行って帰って5 マイル(約8キロ)ほどのコースからは、途中、太平洋が見えた。運がいいと、クジラが見えることもあるそうだ。残念ながら(?)、その日はクーガーもクジラも見ずに終わったが、インドア派の私としては、十二分にアウトドアを満喫できて大満足の一日であった。

アメリカのオレゴン州ってどんなところ?

アメリカ北西部に位置する、全米屈指の美しい景観を誇るオレゴン州。IT、バイオテクノロジー、環境関連産業の成長目覚ましく、ナイキなどのスポーツ・アウトドア企業も多い。州都はセイラム、最大の都市は人口約60万のポートランド。

文:大石洋子エッセイスト。1993年、夫の海外赴任でアメリカ・ニュージャージー州へ。2003年には異動のためオレゴン州に転居。現在は、日に日に生意気になる16歳の娘に手を焼く傍ら、月に2回、 Boiled Eggs Online にオレゴンでの生活をつづっている。
本記事は『ENGLISH JOURNAL』2019年9月号に掲載された記事を再編集したものです。

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