渡米して20年以上がたち、現在はオレゴン州ポートランドで暮らす大石洋子さん。家族や身の回りで起こった出来事や季節のイベント、日米文化の違いなどにまつわるお話を現地からお届けします。
今年も、もう残りわずかだ。早いものである。
年の暮れといえば、クリスマス。今回は、このアメリカの一大ホリデーには欠かせないクリスマスツリーについて書いてみよう。
アメリカでは約4分の3の家庭が、クリスマスツリーを飾るそうである。クリスマスは必ずしも宗教的なホリデーではないけれど、アメリカのキリスト教信者が約7割という統計と合うところが興味深い。 ちなみに わが家は無宗教で、アメリカに住んで最初の10年間は面倒くさいという理由でツリーは飾らなかったが、15年前に娘が生まれてから恒例になった。
この時期になると園芸店やスーパーマーケットの店 先に モミの木がごろごろと並べられるが、私たちは週末に、車で30分ほどのところにあるモミの木ファームに足を運ぶ。実はオレゴンは、全米一のクリスマスツリー生産地なのである。
私たちが買うのはすでに切られた木だが、ファームにまだ植わっている木を買うこともできる。のこぎりを貸してもらって、自分で切り倒すのである。あらかじめ切られたものよりも少し安いらしい。
私たちは、毎年7 ~ 8フィート(約2.1 ~ 2.4メートル)のノーブルという種類のモミの木を買う。針のような葉っぱが青白っぽい緑色だ。運びやすいように初めから細いひもでぐるぐる巻きにしてある木もあるが、それでは木の形がわからないので、円錐形(えんすいけい)に枝葉が開いているものから選ぶ。
どの木を買うか決めたら、木の切り口を電動のこぎりで 改めて 切ってもらう。これは、切り口を真っ すぐに するのと、水の吸い上げをよくするため。それから、ぶるぶる震える機械の上に立たせ、抜けた針葉を振り落とす。最後に筒状の機械に通すと、細いひもでぐるぐる巻きになって、運びやすいようにコンパクトになる。傘をすぼめる感じ、と言ったらわかりやすいだろうか。
イラスト:尾崎仁美
リーマンショックによる不景気の頃に苗を植えるのを控えたせいで、ここ数年はクリスマスツリーの価格が上昇しているそうだ。2018年の全米での平均価格は75ドル。私たちの木は、36ドルであった。平均に比べてだいぶ安いのは、産地だからであろうか。
さて、コンパクトになっているとはいえ30キロ近い木である。ファームでは木を車に載せるのを屈強の若者が手伝ってくれるが、家に着くと、その木を下ろすのは夫と私の仕事だ。ぜいぜい言いながら、2メートルを超える木を玄関からえっちらおっちら運び込む。
その木を立てるのが、またひと仕事である。
ウチのツリースタンドはプラスチック製で、火山のような形をしている。高さは20センチほど。上の方には四方に金属製の太いねじがあり、噴火口部分から差し入れた木の幹をねじで留める格好である。まずはよっこらしょとスタンドに木を差し入れて立て、夫が木を支えている間に娘と私が下にかがんでねじを締める。きっちり締まったことを確認したらスタンドの中に水を入れ、ぐるぐる巻きにしていた細いひもを切る。すると、モミの木はパッと円錐形に開く。
それからどこを正面にするか迷ったり、傾きを直すべくスタンドのねじをいじったりして木の周りでひとしきりワイワイやるのが習わしだ。力仕事でへとへとだし、床には無数の針葉が散らばっていてため息が出るが、部屋に立ち込めるモミの木の匂いを嗅ぐと、なんとなく達成感を覚える。
アメリカの家庭で飾られるクリスマスツリーは、本物の木は2割ほどで、8割は人工のプラスチック製だそうである。一回きりで捨ててしまう生ツリーと、何度も使い回しができる人工ツリーと、いったいどちらが環境に優しいか、という論争がある。
切らずにおけば60メートルもの大木になるモミの木を、わずか2メートルほどで切ってしまう(それもたかだか数週間の飾りのために)と考えると、生の木を買うことに抵抗はある。しかし、山に生えている野生の木を切っているわけではなく、ファームで育てられた木を買っているのだから、商業用に栽培された野菜と変わりはない。クリスマス後、役目を終えた木を普通のゴミに出して埋め立て場行きにしたら環境によくないが、堆肥にするためのリサイクルに出せば、環境への負荷はほとんどないという。
一方、人工クリスマスツリーは何年か使い回せるとはいえ、お役御免の際にはリサイクルできないし、プラスチックは長いこと分解もされない。燃料を使って長距離を運ばれてくる中国製の人工ツリーを買わずに、地元で育てられた生のモミの木を買って地元の経済に貢献してほしい、とアメリカのモミの木生産者は呼び掛けている。
わが家のクリスマスツリーは、1月になると地元のボーイスカウトによって 回収 され、リサイクルに出される。ツリー1本につき10ドル。ボーイスカウト団体の資金集め活動だ。うまいところに目を付けたものだと感心するが、最近は複数の団体間の競争が激化していて、 回収 の予約を取り付けに来る時期が年々早くなっているのであった。
アメリカのオレゴン州ってどんなところ?
アメリカ北西部に位置する、全米屈指の美しい景観を誇るオレゴン州。IT、バイオテクノロジー、環境関連産業の成長目覚ましく、ナイキなどのスポーツ・アウトドア企業も多い。州都はセイラム、最大の都市は人口約60万のポートランド。
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