自分流の学び~不安と自信 奄美の歌姫・城 南海(きずきみなみ)インタビュー

「語学」に苦楽あり。でも、それは何も語学に限ったことではありません。何かを学び、身に付けるには、さまざまな苦労を乗り越え、また同時に多くの喜びを味わっているはず。さまざまな分野で活躍する方々に、そんな学びの体験をうかがっていきます。第1回にご登場いただくのは、奄美大島出身の歌手、城 南海さん。歌を通して学んだこと、歌を通して伝えていきたいことをお話しいただきます。

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城 南海(きずきみなみ)

歌手。鹿児島県奄美市出身。2009年にシングル「アイツムギ」でデビュー。2014年から出演した「THEカラオケ☆バトル」では、奄美民謡独特の歌唱法を武器に10冠達成。奄美の言葉、奄美の文化を世界に届けるために音楽活動を続けている。奄美大島、同島の大和村と瀬戸内町、奄美大島の南に位置する徳之島の観光大使も務める。

ピアノが大好きな人見知りっ子

実は、小さいころはものすごい人見知りで。よく死んだフリをしていました(笑)。

と一緒に歩いていて親の知り合いに会うと、目を閉じて動かなくなるんです。私からその人が見えなくなるから、その人からも私は消えて見えなくなる。透明人間化していると信じていました。

前に出ることに慣れてきたのは、習い事を始めてからだと思います。なかでもピアノは毎年ホールで発表会もしていましたし。

「人見知り」を克服できたのは、転校することが多かったというのもあります。慣れていくしかなかったんです。周りから変な目で見られないように、良くも悪くも八方美人のように振る舞っていたんだと思います。

でも、今もステージに出ていくときは、毎回緊張しているんですよ。おなかが痛くなるくらい(笑)。周りからは分からないみたいですけど。

音楽に恵まれて過ごした幼少期

子どものころから私の周りには音楽があふれていました。

奄美では「海かカラオケか」という感じ。そのどちらかをやるみたいな遊び方だったので、友達ともよくカラオケに行ってました。歌うことはずっと大好きでした。

ピアノを習い始めたのは2歳のときです。グループ形式のレッスンで習う教室から始めて、そのうちもっとしっかり学びたいと思って、個人で教えてもらえる教室に移りました。

私には10歳以上離れた兄がふたりいるんですけど、初めての女の子だったということもあって、家族は私に音楽を続けさせたいという思いがあったみたいです。家庭の事情で島の中を点々と引っ越していましたが、ピアノはずっと同じ教室に通わせてもらっていました。

奄美大島の中で最後に住んでいたのが瀬戸内町の古仁屋(こにや)でした。当時、教室のある奄美市まで片道2時間近くかかっていたと思いますけど、兄や親が毎日送り迎えしてくれて…。

おかげで、毎日ピアノを練習することができました。

人生初の「異文化体験」

中学1年のときに奄美大島の南にある徳之島に引っ越して、鹿児島市内に移ったのは中学2年のときのことです。鹿児島は、ほんと「都会」でした。都会に憧れていました。最初は、もう大喜びで(笑)。

でも、最初の一週間くらい、怖くて学校に行けませんでした。

奄美とは言葉がまったく違うし、人どうしの接し方も違うし。島独特の文化が通用しない都会だったんです。

奄美だと年上の人を「にいちゃん」「ねえちゃん」と兄弟みたいに呼ぶんですけど、そんなふうに呼ぶと「兄弟じゃないのになんでそんな呼び方する?」「あんたのねえちゃんじゃないし」のように言われるんです。最初はショックで、怖かったです。

独学で始めたシマ唄

高校は公立の音楽科があるところで、ピアノを専攻していました。

兄がシマ唄をやっていた影響もあって、高校1年の終わりくらいから歌うようになりました。高校2年くらいからは三味線も始めていました。

シマ唄は独学で学びました。見よう見まねで歌って、そのうち兄について行って、一緒にライブやお祭りなどのイベントに出演させてもらっていました。

ピアノを続けて頭がすっかりクラシックになっていたので、シマ唄を始めた頃は、民謡をすべてドレミファソラシドで捉えようとしていました。「朝花節(あさはなぶし)」というあいさつ代わりに最初に歌う歌があるんですけど、それを最初に覚えようと思って、CDを再生して巻き戻して、譜面を書き起こして…。でも、そんなことしていたら切りがないと気がつきました。

基本的にシマ唄は自由なんです。歌う人によって歌い方は全然違うし、キーも変わる。順番も歌を先に覚えて、自分でそれに伴奏を付ける。シマ唄は歌に三味線を合わせる音楽なんです。だから「シマ唄ってそういうものなんだ」という頭の切り替えを、まず覚えました。

ピアノで音感は鍛えられていましたし、覚え始めてからは早かったです。元ちとせ(はじめちとせ)さんや中孝介(あたりこうすけ)さん、そのほか多くの方のシマ唄のCDを聞いて、歌い方やこぶしの付け方を学んで。それほど苦労せず、自然とシマ唄の世界に入っていきました。

ラフに楽しみ、学べてよかった

私がシマ唄を覚えたのは「ウタアシビ」という、文字通り「歌遊び」のセッションの場でした。シマ唄が好きな人が集まって、「じゃ、次は私が歌う」と言ってどんどん歌って回していく。三味線を弾く人がいて、それに合わせて歌を回していくんです。参加者がその場で会話していくような感じです。

高校生で始めたばかりの頃でしたが、兄がいたので私も安心してそこに入って歌っていました。「ウタアシビ」をやっていたのは奄美料理のお店だったので、そこに来るお客さんに自分のシマ唄を聞いてもらう機会もありました。お客さんに一曲お願いしますと言われて兄と一緒に歌ったり。

そんな風に、ステージで歌いながら覚えていったみたいなところもあります。民謡だからと構えずに、会話しながら自然と覚えていった。

シマ唄はもともと民の歌。集落でおじいちゃん、おばあちゃん、子どもたちがみんな集まって、祝いの場などでラフな感じで歌っていくのが、シマ唄の本来のスタイルだと思います。みんながいろんなことを言い合いながら、雑談しながら楽しむ。

今の私たちはもう、島の言葉は使いません。歌の中にしか残っていない言葉がたくさんありますが、そういう言葉の背景や歌の背景を、本ではなくて人から聞いて、理解して歌う。

私はそのとき、歳も一番下だったので、かわいがられながら教えてもらいました。

「自己流」の不安が解消されたとき

教室で先生に教わるのとは違う覚え方ができて、私自身は良かったと思っています。でも、私には流派とかなくて、人のスタイルが全部ごちゃ混ぜだという劣等感もありました。

デビューしてしばらくたったときのこと。ある流派のトップの大御所の方と共演することがあったんですが、そのときは「どうしよう」と不安でした。

「はじめまして城 南海と申します」。自己紹介をしたときに「名前は知ってたよ。テレビでたまに見るよ」と言ってくれて。「私のシマ唄は独学でちゃんとしていないかもしれないんですけど」と伝えて、怒られるかと思ったら、その方は「シマ唄は自由だから」とおっしゃってくれて。

たぶん、その流派に入っている人たちには厳しいんだと思いますけど、基本的にシマ唄は「自由」。そういう考えなんだと分かって、そのときに気持ちが楽になりました。

「自分流」は「奄美流」

流派が違えば、歌い方も三味線の弾き方も違います。奄美では、大きく分けると北と南で歌い方も言葉も違うんです。

北は笠利唄と書いて「かさんうた」。南は東唄と書いて「ひぎゃうた」というんですけど、笠利だったら『西郷どん』のテーマを歌っている里アンナさんとか。太くどんと歌う感じが笠利唄。笠利の方は山が少ない地形にも関係しているという説があります。

南はというと、山も峠もたくさんあって、そのせいか歌い方もくねくねしていて、裏声もたくさん使います。元ちとせさんとか中孝介さんの歌い方が唄。

大きく分けてこの2つがあって、そのなかでも流派があって、集落によっても歌い方はまったく違ってきます。

私は好きなフレーズとか間の入れ方とか、あと手が小さいので自分の弾きやすい三味線の弾き方とかを選んでやってきたところがあります。

奄美の人はいろんな文化が混じっている。琉球だったこともあれば、薩摩だったこともあれば、アメリカだったこともある。いろんな文化を受け入れるという基本的な態勢がある。私のスタイルもそれでいいんだ、と思っています。

インタビュー後編に続く

城 南海さんが大河ドラマ挿入歌と大河紀行音楽を担当

5月13日(日)放送回より舞台を奄美に移したNHKの大河ドラマ『西郷どん』。この新章の挿入歌と、番組の最後に放送される大河紀行「西郷どん紀行~奄美大島・沖永良部島編~」の音楽を、城 南海さんが担当しています。

城さんが奄美の言葉による作詞と歌唱を担当した挿入歌「愛加那」と「愛、奏でて」(「愛加那」の三味線弾き語りバージョン)、「西郷どん紀行~奄美大島・沖永良部島編」を収録したニューシングルは、6月20日(水)発売予定。「西郷どん紀行~奄美大島・沖永良部島編」は iTunesレコチョクmora で先行配信中。

城 南海さんの活動予定

コンサートツアー「ウタアシビ2018 夏」

名古屋 6/30(土)
大阪 7/1(日)
東京 7/7(土)、7/8(日)
鹿児島 7/16(月・祝)
横浜 7/21(土)

日本遺産物語コンサート 奄美大島編(共演:元ちとせ、中孝介)

東京 8/25(土)

そのほか活動の詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

取材・写真・構成:山本高裕(GOTCHA!編集部)

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