タンパク質たっぷり!【オレゴン12カ月】

渡米して20年以上がたち、現在はオレゴン州ポートランドで暮らす大石洋子さん。家族や身の回りで起こった出来事や季節のイベント、日米文化の違いなどにまつわるお話を現地からお届けします。

つい先日、アメリカ人の男子大学生と話していたら、突然「カツバーガー食べたいなあ」と言い出した。

「トンカツのこと? ポーク?」

聞くと、

「ポークかなあ? ビーフ? わかんない。とにかくうまいんだ」

と言う。シアトルにある店のようである。

調べてみたら、カツサンド屋だった。食パンではなくてバーガー用のバンズで挟んでいるから、彼が言うようにカツバーガーと呼ぶ方が正しそうだ。2011年にシアトルの外れにオープンしたこの店は、や5 店舗にまで拡張している。

やられた、と思った。何を隠そう、私は東海岸のニュージャージーに住んでいた頃、つまり1990年代後半に、「アメリカでカツサンド屋やったらはやるよね」と、夫と話していたのだ。遠出のドライブのお供にと家で作ってきたカツサンドを頬ばりながら、店の名前は何にしようか、値段はいくらにするかねえ、などと、カツサンド屋計画について夫婦で熱く語り合ったのをよく覚えている。あの時に、頑張ってアメリカでカツサンド屋を開いていたら、今頃は全米に 展開する チェーンレストランのオーナーで億万長者だったかも! と、悔しい。

日本人にとってはカツといえばトンカツだが、この店の一番人気はどうやらビーフカツバーガーのようである。メニューの最初に書いてある。チキンもある。パン粉の衣をつけて油で揚げた肉が、トマト、ピクルス、キャベツの千切りと共にバンズに挟まっている。もちろん、ソースもとろーり。

やはりアメリカ人はビーフが好きだし、トンカツがトップにはならないのか・・・と思いながら調べてみたところ、肉にまつわる意外な事実が判明した。アメリカ人1 人当たりの肉の消費量は222ポンド、約100キロなのだそうだが、そのうちいちばん多いのは、チキンで42%。続いてビーフが25%、ポーク23%、そしてターキー(七面鳥)が9%という 割合 だ。50年ほど前にはビーフの消費量がいちばん多く、チキンはその半分以下だったが、赤身の肉は不健康と言われてビーフの消費が下降し、一方、チキンが高タンパク・低脂質だと言われて上昇するうちに、1993年ごろからチキンの消費量がビーフを上回るようになった。

イラスト:尾崎仁美

もう一つ意外だったのは、ポークの消費量がほぼ横ばいを続けていることだ。チキンの人気にあやかって、 The Other White Meat という広告キャンペーンで「赤身ではなくてヘルシー」とうたい続けてきたから消費は上向きなのかと思いきや、この50年間、1人当たりの年間消費量はほぼ50 ポンド(約23キロ)前後である。ビーフの53ポンド(約24キロ)と、さほど大きく違わないのも驚きであった。

ポットラックと呼ばれる料理持ち寄りの集まりに、何度カツサンドを作って持って行こうと思ったことか。でも、一度もしたことがない。なぜかというと、ユダヤ教やイスラム教の信者がポークを食べないからである。カツサンドだけでなく、肉団子や焼き豚などもウケるだろうなあと思うのだが、このように、あらかじめ食べないとわかっている人が少なからずいるので我慢する。そして、ビーフもまたポットラックでは避ける食材だ。ヒンズー教信者がビーフを食べないからである。結局、最も無難なのはチキン。持ち寄りには鶏の唐揚げ、というのがいつの頃からか定着した。

それでは、とポットラック用に鶏の唐揚げを作るべくスーパーマーケットに行くと、意外に 希望 の部位が手に入りにくい。チキンはいまやいちばん人気の肉だが、中でも、アメリカ人は脂肪が 少ない 胸肉がお好みなのだ。好きなのか、それともそれがいちばん低脂質でヘルシーだから買っているのかは定かでない。私は唐揚げにはしっとりしているモモ肉を使うが、店によっては扱っていないこともある。扱っている店でも、隅っこの方に置かれている。日本では、胸肉とモモ肉ではモモ肉のほうが値段が高いのだが、アメリカでは胸肉のほうが高い。人気があってよく売れるからであろう。

それにしても、先ほどはサラッと流したが、アメリカ人の肉の年間消費量というのはよく考えてみるとすごい。年間100キロということは、1日当たり270グラム程を食べるということだ。270グラムの肉というと、4人前の肉野菜炒めを作るときに使う量ぐらいか。それを毎日。小さい子やベジタリアンなども勘定に入っているだろうから、食べている人はかなりの量を消費しているということになる。

今のアメリカでは、肉の消費量は増える 傾向 のようである。「炭水化物を減らし、その代わりにタンパク質を」というダイエットがはやっているのだ。 ちなみに 、日本人の年間食肉消費量は30キロ。魚介類が27キロ(アメリカは7キロ)だそうである。

ところでタンパク質と言えば、ついこの間、近所のスーパーでコオロギチップスなるものを発見してがくぜんとした。食用に飼育されたコオロギの粉で作ったチップスだそうで。パッケージには、「タンパク質たっぷり!」とあった。世界の人口が増えるにつれてタンパク源の供給が追い付かなくなるから、そのうちに昆虫を食べるようになる、と言われているのは知っていたが・・・間違って買わないように気を付けたい。

アメリカのオレゴン州ってどんなところ?

アメリカ北西部に位置する、全米屈指の美しい景観を誇るオレゴン州。IT、バイオテクノロジー、環境関連産業の成長目覚ましく、ナイキなどのスポーツ・アウトドア企業も多い。州都はセイラム、最大の都市は人口約60万のポートランド。

文:大石洋子エッセイスト。1993年、夫の海外赴任でアメリカ・ニュージャージー州へ。2003年には異動のためオレゴン州に転居。現在は、日に日に生意気になる16歳の娘に手を焼く傍ら、月に2回、 Boiled Eggs Online にオレゴンでの生活をつづっている。
本記事は『ENGLISH JOURNAL』2019年8月号に掲載された記事を再編集したものです。

【トーキングマラソン】話したいなら、話すトレーニング。

語学一筋55年 アルクのキクタン英会話をベースに開発

  • スマホ相手に恥ずかしさゼロの英会話
  • 制限時間は6秒!瞬間発話力が鍛えられる!
  • 英会話教室の【20倍】の発話量で学べる!

SERIES連載

2024 12
NEW BOOK
おすすめ新刊
キクタンタイ語会話【入門編】
詳しく見る