新型コロナウイルス現況 in UK【LONDON STORIES】

「多文化都市」と呼ばれるイギリスの首都ロンドン。この街で10年以上暮らすライターの宮田華子さんが、日々の雑感や発見をリアルに語ります。

イギリスの「新型コロナウイルス」対応

この原稿を書いている4月中旬現在、イギリスは新型コロナウイルス(以下「コロナ」と表記)拡散防止のためのロックダウン(都市封鎖)中だ。 今後 どのように事態が進んでいくのかは誰にもわからないが、現状を見る限り行動規制は長引きそうな気配である。皆さまの安全を祈りつつ、家ごもりの日々から見えるイギリスについて書いてみたい。

イギリスでコロナ対策が本格化したのは3月2週目のこと。2月前半までは手洗いの徹底などが訴えられていたものの、今思えばまだまだのんびりしていた。しかし2月末にイタリアとスペインでアウトブレイク(感染爆発)したことで一気に緊張感が高まった。

どちらの国もイギリスからは約2時間のフライトで行ける、距離的にも精神的にも近い国。出張や週末の小旅行、修学旅行などで当地に訪れたばかりの人、また滞在中の人たちも多く、帰国に難儀する例も相次いだ。

「いよいよ・・・来るか」という予感は的中し、3月2日に最初のイギリス国内の死亡例が確認。後は雪だるま式に感染者数も死者数も倍増していった。

公園にて。同居人(家族等)以外と接触しないのがルールなので、運動も1人または家族とだけ行う。

 

政府が最初のコロナ対策会見を開いたのは3月12日。ここからはさまざまなことが音を立てて動いていった。この日発表された 方針 は、人口の6割が感染することで抗体を獲得する「集団免疫」策。

驚きの策に仰天したが、専門家の大批判を受けてあっという間に 方針 を変更。15日には高齢者の長期自主隔離要請を決め、16日には正式に他欧州国同様の「行動規制型」に方向転換を表明。20日には学校閉鎖を 完了 させ、23日には事実上のロックダウン宣言を行った・・・という流れである。

「これでダメならすぐ次!」スピーディーな対応

ここからも動きは早く、個人補償(会社員もフリーランスも収入の8割)やビジネス対策の発表、「今働くべき仕事(キーワーカー)」の選定、見本市会場の病院への改装などがどんどん進んだ。

通常のイギリス生活は物事の動きが鈍く、忍耐力を要することが多い。しかし今回、あまりの対応の早さに「イギリス、やればできるじゃん!(笑)」と皆思ったはずだ。この点においてはちょっと笑ってしまったが、いきなりの方向転換も含め、「ダメとわかったらさっさと次!」といった優先順位と効率を重視するイギリスらしさがよく見える出来事だった。

わかりやすいガイドラインや毎日行われている政府会見でのグラフを使った進捗説明も好評だ。初動で一気に国民の信頼を失ったものの、あっという間に信頼を回復したのは「あっぱれ」と言うしかない。

こんなふうに3月末から精神的にはめまぐるしい日々が過ぎていった。ガイドライン上は「必需品の買い物」「1日1回の運動目的の外出」は許されているが、老人や病弱な人は「症状がなくても外出しないように」と指導されている。

実はボランティアの層が厚い国、イギリス

ロックダウンが始まり、私が すぐに 思い出したのは知り合いの老人夫妻のことだった。わが家から2駅の場所に住んでいるが、公共交通機関の使用はキーワーカーの出勤以外は原則NG。うちには車がないので、何かを届けることができない。

心配 して連絡してみると、「通っている教会の買い物ボランティアが何でもしてくれるので、家から一歩も出ずに済んでいる。大丈夫。 心配 しないで!」と明るく言われ、拍子抜けした。

そう、イギリスはボランティアの層が厚い国なのだ。ロンドンに住んでいるとご近所付き合いは皆無だし、イギリス人は基本他人に干渉しない。なので隣人としては決してフレンドリーな人たちではないのだが、「弱者に優しく」という姿勢と「困っている人を助けたい」という気持ちが根底にあり、慈善活動には熱心なお国柄だ。

お金持ちが行う慈善活動の資金集めパーティーには上から目線の「ノブレス・オブリージュ(=持つべきものが持つ義務)」的雰囲気が漂うが、病気や貧困、脆弱(ぜいじゃく)な環境の人たちへの実質的支援は、草の根ボランティアが支えている。今回、国が慈善団体への助成を発表したことも、ボランティアネットワークが国の屋台骨の一つであることを物語っている。

コロナ前と後で変わる、人とのつながり

イギリス医療のNHS(国民保健サービス)は150万人に及ぶ老人や病人のみの世帯を 把握 し、国から食料と医薬品を届けること、定期的に安全を確認することを約束した。しかし医療・福祉のプロは患者急増でパンク状態。そこで保健大臣は3月24日、25万人のボランティア募集を呼び掛けたが、ほぼ1日で70万人もの応募が寄せられた。

また個人レベルのボランティアも一気に拡散している。自分の名前、連絡先、可能な支援(買い物、薬の引き取りなど)が書かれたカードを近所の家に投函(とうかん)するムーブメントは全土に広がり、地域情報の共有HPを見ると多くの人が地図上にフラグを立て、ボランティアの名乗りを上げている。

子どもたちがNHSの医療スタッフへ「ありがとう」のメッセージとともに虹の絵を飾っている。

「普段のそっけなさと、このボランティア精神の落差は何なのだろう?」と思うのだが、ともあれ非常時に助けを求められるのは心強い。そしてこの1カ月で隣人関係にも変化が生まれており、今までは見掛けなかったご近所同士が塀越しやベランダ越しで会話する姿をよく見るようになった。

ウイルスは目に見えないだけにやっかいだ。早く終息してほしいと願っているが、すべてが終わったとき、今までとは異なる人とのつながりが定着している かもしれない

イギリスのロンドンってどんなところ?

イギリスの首都ロンドンはイギリス南東部に位置し、さまざまな人種・文化・宗教的背景の人たちが住んでいる「多文化都市」。ビッグベン、大英博物館など観光スポットも満載。

文・写真:宮田華子

ライター/エッセイスト。2002年に渡英。社会&文化をテーマに執筆し、ロンドン&東京で運営するウェブマガジン「matka(マトカ)」でも、一筋縄ではいかないイギリス生活についてつづっている。

※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2020年7月号に掲載された記事を再編集したものです。

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