12月8日に出入国管理法改正案が成立し、 今後 日本で暮らす外国出身者はさらに増えると 予想 されます。共存のために必要なことの一つは「みんなそれぞれ違う」という意識です。多民族国家のイギリスではその考え方が制度などにも見られるそうです。さまざまな国で働いた経験を持つ谷本真由美さんに紹介してもらいましょう。
この連載「グローバル視点の働き方」の前回までの記事は こちら 。
多民族国家では「違うのが当たり前」
日本人が外国人と一緒に働く場合にネックになるのが、自分と他人が同じように行動すると思い込んでいることです。日本は先進国としては珍しく人口全体に占める外国人の 割合 がなんと2パーセントにもなりません。これには日本に長年住んでいる在日韓国・朝鮮人や在日中国人の方が含まれていますので、どれだけ 少ない かということが分かるでしょう。
他の先進国では平均で大体12パーセントです。かつて植民地だった国々からやって来る人も多いですし、アメリカやカナダのような移民国にも多様な人が存在しています。宗教も言葉も人種もバラバラですから、最初から自分と他人は違った規範を持っていて、異なった行動を取ることが 前提 になっています。
「自分と他人は違う」という認識は実は大変重要なことです。ビジネスをする上でも、相手は自分と同じ考え方はしないという 前提 になりますから、サービスや商品の質に対する期待値ややり方を全て文章で明確に示さなければなりません。「あうんの呼吸」が存在しませんので、非常に高いコミュニケーション能力が必要です。
日本ではほぼ同じような人々に囲まれて育つ人もいて、このコミュニケーション能力が必ずしも高くはない人が多いです。はっきりした発言をしないために、何を言っているのかが分かりづらいこともあります。仕事でも、あまり良いとは言えないプレゼンテーションをする人もいます。文章を書いても要点がはっきりせず、何を伝えたいのかがよく分かりません。
イギリス移住者が受験する「イギリス市民試験」
イギリスでは相手と自分が異なっているという 前提 があることがよく分かる例として、「 イギリス市民試験(Life in the UK Test) 」が挙げられます。この 厳しい 試験は18~64歳の人が対象です。2012年以降、永住権 取得 だけではなく配偶者ビザや婚約者ビザなどの 取得 にも、合格することが必要になりました。
内容は細かいクイズのようで、選択式で24問あります。次に紹介する公式ウェブサイトの 模擬試験 には「イングランドの首都はどこ?」「クリスマスイブは何月何日?」といった問題もあるものの、多くの問題は英語圏の大学学部合格程度の英語力がないと解くのは難しいです。
では、公式ウェブサイトで公開されている 模擬試験「Life in the UK Test 1」 の例を見てみましょう。
1. Which Two British film actors have recently won Oscars?Colin Firth
Tilda Swinton
Leonardo DiCaprio
Jacky Stewart
2. Which flag has a white cross on a blue background?Irish
Scottish
English
Welsh
3. Who built the Tower of London?William the Conqueror
Oliver Cromwell
Henry VII
Henry VIII
4. What is not a fundamental principle of British life?Looking after yourself and family
Driving a car
Looking after the environment
5. Which flower is associated with England?Thistle
Daffodil
Shamrock
Rose
6. Who appoints “Life peers”?The Speaker
The Shadow Cabinet
The Prime Minister
The Monarch
7. Who is Queen Elizabeth II married to ?【答え】Prince William
Prince Philip
Prince Charles
Prince Harry
Who built the Tower of London?
William the ConquerorWhat is not a fundamental principle of British life?
Driving a carWhich flower is associated with England?
RoseWho appoints “Life peers”?
The MonarchWho is Queen Elizabeth II married to ?
Prince Philip
いかがでしょうか?
イギリス市民試験の公式ハンドブックは大学学部レベルの英語で書かれていて、200ページくらいあります。高速道路の制限速度や、パブに入れるのは何歳以上か、議会や王室の 仕組み 、イギリスの歴史などに関する細かい問題が掲載されています。
受験者の出身国や地域によっては、女性を殴って当たり前、児童労働も当たり前、トイレがない、労働法がほとんどないといったことが「常識」の場合もあります。というわけで、ハンドブックに書いてある内容もドン引きです。「イギリスでは強制労働は違法です」「女性には人権があり殴ってはいけません」「児童の飲酒は違法です」などとしつこく書いてあります。
前提 ">「イギリスの当たり前は世界の当たり前ではない」ことが 前提
試験の合格 基準 は正答率75パーセントと高いです。こういう 厳しい 仕組み ができた理由は、イギリスの福祉や医療や仕事に魅力を感じた移民の一部が、親戚同士で偽装結婚を繰り返して、親族を続々呼び寄せてしまうことがあったからです。
同様な理由で英語試験も導入されました。英語を一言も話せない人が来てしまい、政府側が困り果ててしまったのです。英語を理解できないと、イギリスでの就労はまず無理です。配偶者や受け入れ家族も低賃金労働だったり無職だったりすれば、福祉受給者となります。
英語が分からない人に対しては、法律で外国人差別が禁止されているため、移民局や市役所、病院、警察、学校などでは公的資金で通訳者を 手配 します。コストの高いマイナーな言語の通訳や翻訳が必要な場合もあり、緊縮財政を行うイギリス政府には大きな負担になります。政府は支出をなんとか抑えたいのです。
なお、受験するには、試験センターに行ってPCを使います。要するに、この試験全体が、PCが使いこなせない人、大学学部レベルの英語が読めない人は排除する 仕組み になっているのです。公式に「英語が分からない人はイギリスに来ないで」「PCすら使えない人はお呼びでない」「学歴は大卒以上」と言ってしまうと差別になるので、 仕組み を利用して求める人だけに来てもらえるようにしています。
この試験の内容や受験の 仕組み から分かるように、 そもそも イギリスのような多民族国家は、外国人は育った背景も考え方も全く違うということを 前提 にしていることがよく分かります。日本ではPCやスマホが使えるのは当たり前という感覚かもしれませんが、世界的に見ると当たり前に使える人は実は少数派です。女性を殴ったり子どもに過酷な労働をさせたりする国もありますが、イギリス政府はそのことを認識した上で、でもその考え方はイギリスでは通用しませんよ、ということを試験で伝えようとするわけですね。
「皆同じ」ではないので選択肢を用意する
郵便制度や宅配サービスについても、日本では正確に届いて当たり前という認識だと思いますが、イギリスでは郵便物や荷物が紛失することはままあります。ビザの申請は窓口で行えるほか郵送でも可能ですが、発送した申請書類やパスポートがなくなるという落とし穴があるのです。郵便局による荷物の追跡が割と適当なこともありますし、ポストからの郵便物の窃盗や配達中の荷物の窃盗も起こるので、どうしようもありません。
FedEx(フェデックス)や宅配便は郵便以上に信用できませんので、結局、窓口に行って対面で 手続き するのが一番安全です。そのため、窓口での申請には郵送よりも高額な費用がかかりますが、確実なため、ある程度お金がある人は対面を選びます。政府も、発送物が必ず配達されるとは想定しておらず、誰もが同じように行動するわけでもないと考えているので、郵便と窓口の両方で申請を受け付けているのです。
繰り返しになりますが、このように、イギリスのような多民族国家では、他人は自分と同じようには行動しないということが社会の 前提 になっています。これは私生活でもビジネスでも、物事の考え方ややり方に深く関わる事柄ですから、よく理解しておきましょう。
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文:谷本真由美(たにもと まゆみ)
1975年生まれ、神奈川県出身。ITコンサルタント、著述家。専門はITガバナンス、プロセス管理、サービスレベル管理、情報通信政策および市場 分析 など。ネットベンチャー、経営コンサルティングファーム、国連専門機関情報通信官、外資系金融機関などを経て2008年よりロンドンを 拠点 に日本と欧州を往復しながらITコンサルティングに従事。Syracuse University で国際関係論と情報管理学修士 取得 。趣味はハードロックおよびヘビーメタル鑑賞、園芸。Twitter @May_Roma
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