北九州市立大学准教授であり、言語学者でもあるアメリカ人のアンちゃんの連載「かなり不思議な日本語の世界」。今回、取り上げるのは「家族」に関する表現です。日本語には wife に当たる日本語がたくさんあって、アンちゃんもびっくりしています。
英語も日本語も、直訳すると変になる?!
私は、日本の大学で働き始めて17年になります。この間、生徒たちが同じ英語の間違いをするのを、何度も見たり聞いたりしてきました。
例えば、「友達と遊ぶ」を“I play with my friends.”と言ってしまう間違いです。でも、中学生くらいになったら、「遊ぶ」は play ではなく spend time や hang out を使います。
だから私は、学生たちに毎年「私が教えたことを全部忘れてもいいけど、これだけ覚えて!そうしてくれたら、先生は最高にうれしい!」と言います。でも、学期末試験で誰か一人は必ず、“I play with my friends.”と書きます・・・。
Last weekend, I spent time with my friends.
先週末、友達と遊んだ。
「遊ぶ」の英語に関する記事は、ここに詳しく書いてあるバイ!
でも、学生たちがそんな間違いをするのは、仕方のないこと。なぜなら、母国語が外国語学習に与える影響はとても強いからです。
例えば私は、時計が壊れたときに、「時計が働いていない!」と言ったことがあります。その理由は、「時計が壊れている」は英語で“My watch isn’t working.”と言うからです。かわいかろう?
もう一つ、学生たちがよく間違えるのは「家族」に関する英語。例えば、“I have four families.”と言ったりします。
日本はいつから一夫多妻になったの!これはヤバい!
冗談は置いておいて、なぜ four families になったかというと、日本語では「4人家族」と言うからです。でも、これを“I have four families.”にしてしまうと、「4つの家族がいる」という意味になってしまいます。
正しくは、
There are four people in my family.
私の家族は4人家族です。
こう言えば、一夫多妻にはならんバイ。
さて今回は、こんな不思議な家族用語について話そうと思います。
では、始めましょう!
「お母さん」と「母」、呼び方の境目は何歳?
日本は人間関係をかなり気にする文化だからなのか、家族の呼び方は少なくとも2つの言い方があります。例えば、
お母さん=母
お父さん=父
お兄さん=兄
お姉さん=姉
お母さんと直接、話をしているときには「お母さん」と呼びますが、身内ではない人とお母さんの話をするときには「母」と言います。
でも、友人と話しているときには、「ね、私のお母さんがくれたプレゼント、超かわいくない?」のように言ったりします。
そういえば、身内ではない人に「お母さん」を使うのは子どもだけ、と友人が教えてくれました。
何歳を境に「お母さん」から「母」になるの?
友人いわく、具体的には決まっていないけれど、中学性になって「お母さん」を卒業したら、大人の言葉を使っているね!と尊敬されるとか。
日本語は複雑だなぁ。
でも、英語も似たような感じかもしれません。「お母さん」は英語で次のように言います。上からフォーマル度が高い順です。
mother
mom
mommy
誰かに自分の母親を紹介する際に、“This is my Mommy.”と言うのは、とても恥ずかしいです!英語の mommy は、日本語の「ママ」のように、幼い子どもが使うイメージです。中学生くらいになると使わなくなります。
Mommy から Mom になったとき、アメリカ全国のお母さんたちは、バリ泣きたくなります。「私の子どもはもう赤ちゃんじゃないんだ。泣ける!」
誰かに母や父を紹介するときには、
This is my mother.
This is my father.
このように言うのが一番よいでしょう。でも、
This is my Mom.
This is my Dad.
これも悪くありません。
「年上」「年下」を強調しない英語の世界
次は「兄」「弟」「姉」「妹」です。さて、どうやって紹介しますか?
英語では「年上」と「年下」をあまり強調しないので、最も一般的な紹介の仕方は次のような感じです。
This is my brother.
This is my sister.
兄のことを“This is my older brother.”とか、妹のことを“This is my younger sister.”のように言うことはあまりありません。
“Do you have any brothers or sisters?”と聞かれたときは、“I have two brothers.”とか“I have a brother and a sister.”と答えます。さらに“Older or younger?”と聞かれるようなことがあれば、詳しく説明します。
ちなみにイギリス英語では、older より elder の方が好まれるようです。
He is my elder brother.
彼は私の兄です。
「かみさん」と聞くと「神様」を想像してしまう!
「妻」「家内」「奥さん」「嫁」「かみさん」はどうでしょう。英語では、どれも wife です。
私は「家内」と「妻」「奥さん」の使い方はすぐに分かりました。でも、「嫁」と「かみさん」は分かりませんでした。「かみさん」と聞くたびに「神様」を思い浮かべていたほどです。
友人に使い分け方を聞いてみましたが、「よく分からない」と言われました。「かみさん」と「嫁」は、「状況」と「好み」で使い分ける!とか。ほんと?!
日本語はバリ曖昧で、日本人にも訳が分からない・・・ということですね。笑笑
ちなみに、私が最も不思議に思う wife の呼び方は「愚妻」です。きっと奥さんのことを愚かだとは思っていないのに、「愚妻」と呼ぶ。なぜでしょう。
あと、wifeとは関係がないけれど(ある?)、「愛人」という日本語。愛人のことはおそらく心から愛していない。でも「愛人」。不思議な言葉です。「愛車」とか「愛犬」という言葉もありますが、それと同じ「愛」とは思えません・・・。
「だんな」より「主人」の方がいいってホント?
さて、次は「だんな」「主人」「夫」。これも英語には husband しかありません。
I love my husband.
私はだんなを愛している。
This is my husband.
こちらが私の主人です。
My husband made dinner.
夫が食事を作った。
そういえばこの間、友人に「だんな」より「主人」と言う方がいいよ、とアドバイスをもらいました。
「何で?」「なんとなく・・・」
日本に住んで20年ですが、初めて知りました。日本語は、難しいなぁ。
ところで英語には、spouse という便利な英語があります。日本語で近いのは「配偶者」。でも、日本語の「配偶者」という言葉は、なんとなくお役所言葉のように聞こえます。
Please bring your spouse with you to the party.
配偶者をパーティーに連れてきて。
とは普通に言えます。でも、これは、とても不自然に聞こえます。
そもそも日本では、職場のパーティーに spouse を連れていくようなことが、あまりない気がします・・・。
「義理の母」って誰のこと?
もう一つ不思議に思っているのは、「義理の母」という言葉です。
もし、お父さんが再婚したら、新しい奥さんは自分の「義理の母」になります。でも、考えて!お父さんの奥さんのお母さんも「義理の母」です。
「妻」を表す言葉はあれほど種類豊富なのに、この全く別の二人の呼び方はなんで同じなのでしょう?日本語って面白い!
ちなみに英語では、お父さんの新しい奥さんは、子どもから見ると stepmother です。お母さんが再婚したら、新しいお父さんは stepfather です。新しいお母さんやお父さんに連れ子がいたら、その子は stepbrother または stepsister になります。
私はアメリカにいた頃、異母兄弟、異父兄弟をよく見かけました。ある日、私の子どもが、近くに住む姉妹の家に遊びに行ったときのことです。
Can Sarah play?
サラちゃんは、遊べる?
No, she is spending time at her Dad’s this weekend.
ううん、(サラは)今週末、お父さんのとこに行く。
Are you going too?
あなたも行く?
Nah, me and Sarah have different dads.
行かない。私とサラはお父さんが違うから。
日本語には「異母兄弟」「異父兄弟」という言葉がありますが、英語では両方とも、half を使います。
He is my half-brother.
彼は私の異母(父)兄弟です。
She is my half-sister.
彼女は私の異母(父)姉妹です。
でも、仲がいい家族ならあまり区別せず、“He is my brother.”とか“She is my sister.”とだけ言うことがほとんどです。
ついでに、「再婚する」は remarry です。再婚して half-sister や half-brother がいる新しい家族は、blended family と言います。アメリカでは、離婚、再婚の数がとても多いので、新しい家族を表す表現は日常でも頻繁に使われます。
まとめ
言葉は文化の影響を大きく受けます。文化をよく理解していなくても、その言葉はある程度話せるようになりますが、微妙なニュアンスの言葉を使い分けるのは、外国人にとっては難しいことです。
もし、日本語を間違えて使っている外国人がいたら、優しく直してあげてください。
私は10年間、自分の子どもを「ちゃん」付けで読んでいましたが、誰も直してくれませんでした(指摘してくれた親友に感謝です)。今、「ちゃん」を付けないように努力していますが、習慣になってしまっていて、直せるまで時間がかかる気がします。こういう微妙なニュアンスは、誰かに教えてもらわないと、絶対に分かりません!
さて、次回は、連載の最終回。最後の不思議な日本語です!テーマは・・・言いません!笑
お楽しみに!