ダイエットの話【オレゴン12カ月】

オレゴン12カ月

渡米して20年以上がたち、現在はオレゴン州ポートランドで暮らす大石洋子さん。家族や身の回りで起こった出来事や季節のイベント、日米文化の違いなどにまつわるお話を現地からお届けします。

ヴィーガンという言葉をご存じだろうか。ヴィーガンとは、動物性食品を食べない人たちのこと。普通のベジタリアンが卵や乳製品を食べるのに対して、ヴィーガンは動物由来のものを一切口にしない。動物から搾取しないのが根本の考え方なので、ハチミツもご法度である。ヴィーガニズムは、食生活だけでなくライフスタイルでもあるから、革製品も使わない。

中学生の娘の友達、アレクシスが、ヴィーガンになろうとしていると聞いて、焦った。アレクシスは小学生の頃に自分の意思でベジタリアンになった女の子で、これまでもわが家に遊びに来ると食べられるものが限られて大変だった。それが乳製品もダメとなったら何を食べさせたらいいものやら、と私はひそかに慌てていたのだが、その話の数日後、

「チーズが諦め切れない」

と、早々にヴィーガンになるのは断念したそうだ。やれやれ、である。

ダイエットというと、痩身や減量のための食事法と捉えられがちだが、宗教や主義などに基づく食事制限のことも英語ではダイエットという。前述のように、肉は食べないけど卵は食べる、とか、ビーフとポークは食べないがチキンはオーケー、などという具合に細分化していて、もはやついていけない世界である。最近は、パレオというのが注目を集めている。これは、caveman diet(原始人ダイエット)とも呼ばれるもので、人間は本来、狩猟や採集をして暮らしていたのであり、それが最も理にかなった健康的な食生活なのだ、という考えだ。肉類や魚、野菜、果物を食べ、農耕を始めてから摂るようになった穀類や、加工食品などは食べない。

アレルギーや持病などの理由で、ある種の食品を制限するケースもある。よく聞くのは、ピーナツアレルギーや糖尿病などだ。最近は、小麦粉に含まれるたんぱく質グルテンを摂るとアレルギー反応を起こしたり、体調を崩したりする人が増えてきたので、グルテンフリー食品が売られている。私の周りにもグルテンフリーダイエットをしている人が何人かいて、うち一人は、グルテンを食べると小腸の組織がダメージを受けるセリアック病という深刻なケースだ。そういう人には、ご飯中心の和食がいいのではないかと思いきや、しょうゆに小麦粉が含まれているので注意が必要だそうだ。

グルテンフリー食品は、この10年ほどであっという間に増えた。その市場は少し勢いを落としつつも、2019年には20億ドルに達すると見込まれる。アメリカでセリアック病患者は180万人に上ると言われているが、グルテンフリー食品市場を支えるのは、その人たちばかりではない。体に悪いものだと勝手に思い込み、アレルギー症状がないにもかかわらずグルテンフリー食品を選ぶ人が多いのだ。ある調査によれば、実際にはグルテンに対する耐性を持たない人は130人に1人ほどしかいないのに、30%近くの人が、グルテンフリー食品を買っているそうだ。

今や「グルテンフリー」と表示すれば売れるから、猫も杓子(しゃくし)もグルテンフリーである。ペットボトル入りの水や、トマトのサルサ、ポテトチップスなど、そもそも小麦を含まない食品にまでグルテンフリーの表示がされている。健康に関しての意識が高いのか低いのか判断がつきかねる、冗談のような話である。

オレゴン12カ月

イラスト:尾崎仁美

さて、ダイエットといえば、もちろん痩身や減量を意味することもある。ある決まった食品だけを食べ続けるような極端なダイエットをcrash diet、あるいはfad diet と呼ぶそうだ。どちらも、一時的に夢中になる、というような意味は共通しているかもしれない。グレープフルーツだけ、あるいはキャベツスープだけを食べ続けるというようなダイエットのことだ。

アメリカで有名なクラッシュ・ダイエットといえば、あるチェーン店のサンドイッチである。ファストフードばかり食べてろくに運動もしていなかったJという男性が、そのチェーン店のサンドイッチだけを食べるようになって、200ポンド(90キロ)痩せた、というのだ。彼が通っていた大学の新聞に掲載されたその記事は、やがて広告代理店の目に留まることとなり、Jはそのサンドイッチチェーンの広告塔になった。

「このサンドイッチを食べてこんなに痩せました」

ほっそりしたJが、太っていた頃にはいていた大きなズボンを広げて見せるその広告は、世間を驚かせたものだ。2000年から始まったこのキャンペーンは2年ほど前に終わったが、いまだにこのサンドイッチ店には、健康的なイメージが定着している。

痩身に限らず「ダイエット」は細分化していて、今や「〇〇は食べるけれども×× は食べない」などと、制限付きの食について語るのがファッショナブルと捉えられる傾向にあるそうだ。年寄りばかりが集まるパーティーに食べ物を用意することになった業者が、要望や制約はないかと前もって聞くと、年寄りの参加者たちからは「何もない」という答えが返ってくるが、これが若者の集まるパーティーになると、「あれはダメ、これもダメ」とやたらと注文がつくのだそうである。

アメリカのオレゴン州ってどんなところ?

アメリカ北西部に位置する、全米屈指の美しい景観を誇るオレゴン州。IT、バイオテクノロジー、環境関連産業の成長目覚ましく、ナイキなどのスポーツ・アウトドア企業も多い。州都はセイラム、最大の都市は人口約60万のポートランド。

文:大石洋子
エッセイスト。1993年、夫の海外赴任でアメリカ・ニュージャージー州へ。2003年には異動のためオレゴン州に転居。現在は、日に日に生意気になる16歳の娘に手を焼く傍ら、月に2回、Boiled Eggs Onlineにオレゴンでの生活をつづっている。

本記事は『ENGLISH JOURNAL』2017年12月号に掲載された記事を再編集したものです。