新しいショッピング【オレゴン12カ月】

渡米して20年以上がたち、現在はオレゴン州ポートランドで暮らす大石洋子さん。家族や身の回りで起こった出来事や季節のイベント、日米文化の違いなどにまつわるお話を現地からお届けします。

日本にしばらく暮らした外国人が本国に帰って、いちばん恋しく感じるのは飲み物の自動販売機だ、という記事を読んだ。自販機がちっとも珍しくない日本人としては不思議な気がするが、でも考えてみれば、アメリカ育ちのウチの娘も日本に着いてまず最初にするのは、自販機でドリンクを買うことである。コインを入れてボタンを押すとガタンと商品が出てくる、というのが楽しいらしい。そのようにして買った缶入りラテなどをすすりながら、「あ~日本に来たって感じ!」としみじみするのであった。

アメリカにはあまり自動販売機はないが、一方で自動化というか無人化が進んでいるのは、スーパーマーケットのレジである。

買いたいもののバーコードを、客が一つ一つ自分でスキャンするのだ。スキャンしたものは、スキャナーの向こう側に置いて自分で袋詰めする。金額だけでなく商品の重さの情報も登録されているようで、商品をスキャンせずにスキャナーの向こう側に置くと、機械が作動しなくなる。つまり、支払いをごまかすことができないようになっているのだ。

たくさんの買い物をするときには面倒だが、2、3品だけというようなときには、無人レジは便利である。ピッ、ピッとスキャンするのもちょっと楽しい。でもふと考えると、これって前は店の人の仕事だったのに、今は客の私がやらされてるなあとも思う。

スーパーマーケットの「バルクセクション」も、じわじわと広がっている。

バルクとは「嵩(かさ。ものの大きさや容量)」という意味の言葉だが、包装していない「ばら荷」という意味もある。バルクセクションとは、包装なしの量り売りコーナーのことだ。量り売りというと、日本のデパ地下のように店員さんがいて、欲しいものを容器に入れてくれる、というのを想像する かもしれない が、アメリカのスーパーのバルクセクションは、セルフサービスだ。大きな容器に入っているのを、欲しい分だけビニール袋やプラスチック容器に自分で入れる。備え付けのペンで容器にコード番号を書いておくと、レジで店員がそれを打ち込み、重さに応じて金額が計算される。

バルクセクションに並ぶ商品は、実にさまざまだ。豆や米、ナッツなどはもちろん、パスタやシリアルも定番。小麦粉などの粉類や、砂糖、塩といった調味料まである。チョコレートやドライフルーツ、また、それらを混ぜたトレイルミックスなどのスナック類も充実している。

私がよく利用するのは、スパイスのバルク売りだ。クミン、オレガノ、キャラウェイシードなどたまにしか使わないスパイスは、瓶入りのものを買うと結局使い切れずに 捨てる ことが多いが、バルク売りなら、2、3回分の料理に使うぐらいの量を買うことができるから無駄が出ない。以前は瓶入りのローリエは高いと思っていたが、バルクセクションで買うようになって、今まではもしかして瓶にお金を払っていたのか、と思うほどに割安になった。

最近は、お茶のバルク売りもある。大きなガラス瓶に入った茶葉を、自分でビニール袋に詰めるのだ。湿気ないのかなとか、いつからそのガラス瓶に入ってるのかな、などと気になるが、実はバルクセクションの商品はかなり回転がいいらしい(もちろん店にもよる)。真空パックで売られているものに比べたら多少品質が劣るに決まっているだろうが、短期間で使い切れる分だけを割安で買えるというのは魅力的である。

バルクセクションにあるのは乾き物だけかと思っていたら、先日は備え付けの機械から、ソフトクリームのように、ぐにゅーと出ている茶色いものをプラスチック容器に入れている人を見掛けた。何かと思ったら、ピーナツバターなのであった。レバーを引くと、搾りたて(?)のピーナツバターが出てくるというわけだ。

似たようなレバーが幾つか並んでいるので目を凝らしたら、ソイソースやオリーブオイルもあった。こちらの方は、搾りたてというわけではなく単なる量り売りだと思われるが、バルクセクションのバラエティーがかなり豊富になっていることに驚いた。

イラスト:尾崎仁美

買い物の仕方が変わるといえば、最近のトレンドは、グローサリーの宅配である。昨年、大手Eコマース企業がナチュラル系スーパーマーケット(こちらも大手)を買収したことで、生鮮食品も含めた日常の買い物もオンラインショッピングの時代に突入したようだ。いまや、どのスーパーもこぞって宅配サービスを提供し始めている。

バルクセクションの充実と、グローサリーの宅配とは 今のところ 相容れないようだが、そのうちバルクの商品も宅配されるようになる かもしれない 。店には客がおらず、いるのは注文の品を容器に詰めたりしている店員だけ――そんな光景が頭に浮かんだが、いやもしかしたら、それは店員ではなくてロボットなのかも。しかも、そうなればもう店は要らない。倉庫で十分である。

買い物に行かず、浮いた時間で私たちは何をするのだろうか。そんな未来って楽しいのかなあ、と思わず首をかしげるのであった。

アメリカのオレゴン州ってどんなところ?

アメリカ北西部に位置する、全米屈指の美しい景観を誇るオレゴン州。IT、バイオテクノロジー、環境関連産業の成長目覚ましく、ナイキなどのスポーツ・アウトドア企業も多い。州都はセイラム、最大の都市は人口約60万のポートランド。

文:大石洋子エッセイスト。1993年、夫の海外赴任でアメリカ・ニュージャージー州へ。2003年には異動のためオレゴン州に転居。現在は、日に日に生意気になる16歳の娘に手を焼く傍ら、月に2回、 Boiled Eggs Online にオレゴンでの生活をつづっている。
本記事は『ENGLISH JOURNAL』2018年3月号に掲載された記事を再編集したものです。

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