ショッピングが変わる【オレゴン12カ月】

オレゴン12カ月

渡米して20年以上がたち、現在はオレゴン州ポートランドで暮らす大石洋子さん。家族や身の回りで起こった出来事や季節のイベント、日米文化の違いなどにまつわるお話を現地からお届けします。

アメリカにあるショッピングモールのうちの3分の1 が、ここ数年のうちに閉じることになるだろうという記事を読んだ。

信じられない、と驚き、嘆いたけれど、よく考えてみたら私自身、以前ほどにはショッピングモールを利用しなくなっている。

出産してからしばらく、赤ん坊の世話に忙しくてゆったりとショッピングを楽しむ余裕がなくなった。そしてひと息ついたときには、流行に乗り遅れていて、何を着たらいいのかさっぱりわからなくなっていた。年を取って、以前ほどファッションにこだわりがなくなったせいもあるのかもしれない。そんなふうに分析し、ショッピングモールから足が遠のいたのは自分だけだと思っていたが、どうやら違うらしい。

郊外のハイウエー沿いにどーんとそびえる巨大ショッピングモールは、アメリカの象徴と言っても過言ではなかった。デパートが幾つかあり(モールではアンカーと呼ばれる存在だ)、チェーンのアパレル店やアクセサリー店があり、フードコートにも、やはりチェーンのレストランがひしめきあっている。だだっ広い駐車場も、週末にはたいてい満車なので、買い物を終えてモールから出てきた人たちをストーカーのように低速で追い、なんとか車を止めようと頑張ったものだ。人が溢れ、モノが溢れ、クルマが溢れ―ショッピングモールは、アメリカの豊かさの象徴であった。

皮肉なことに、そのモールさえもが溢れ返っていたらしい。アメリカは、1 人当たりの小売りスペースが世界のどこよりも大きく、過剰気味なのだそうだ。確かに、似たような店が軒を連ねるショッピングモールが、車で10分と離れていないようなところにあったりしたものである。これからは、淘汰(とうた)の時代というわけだ。

ショッピングモールが下火になっているもう一つの要因は、オンラインショッピングである。今どきの消費者は、モールに行かずにオンラインで買う。

考えてみれば、私もそうなのであった。何を買ったらいいのかわからない、などと言いながら、実はオンラインではけっこう買い物をしていたのだ。フィット感が大事なパンツや靴は店で試してから買わないとね、などと最初のうちは言っていたが、今やサイズ違いでオンライン購入し、合わないものは返品する。自宅が試着室というわけだ。チェーン店のオンラインショップは返品を店舗で無料で受けてくれるから、返品のときにだけショッピングモールに出向く。思えば、娘の服はほぼすべてオンラインで買いそろえていた。

オンラインで買うのは私だけではない。去年の暮れ、近所のお宅の旅行中に飼い猫の世話を頼まれたことがあったが、玄関先に、オンラインで購入したらしい荷物が連日届いた。ほんの3日ほどの間だったが、届いた荷物は20を超えていた。ブラックフライデーのセールで買った物がちょうど届くタイミングだったから普段よりも多かったのかもしれないけれど、それにしてもすごい量であった。

オレゴン12カ月

イラスト:尾崎仁美

ちなみにアメリカでは、基本的に受け取る側が指定しない限り、送られてきた荷物の受け取りにサインは必要ない。デリバリーの人は、玄関先に荷物を持ってきてドアベルで呼び出し、そして家の中から人が出てくるのも確認せずにそこに荷物を置いて立ち去る。少し陰になっていて通りから見えないところに置いていってくれる場合もあるし、ドアの前にでーんと置かれることもある。外出中に配達されると、夕方まで何時間もそこに置きっぱなしという状態になる。そういう荷物を狙って取っていく輩(やから)もいると聞いたことがあるが、これまでのところ、わが家の荷物が盗まれたことは一度もない。

ある統計によれば、アメリカの消費者の半数以上がオンラインショッピングを好んでおり、オンラインによる売り上げは年率約23%の伸びを見せているという。年齢が低くなるほどオンライン購入を好む率は高まり、ミレニアルと呼ばれる世代では約67%に達するそうだ。その若い層は、フェイスブックやインスタグラムなどのSNSを通じての新しい買い物方法にも興味を示しているという。

この先、世の中はどうなっていくのだろう。人はもうショッピングのためにわざわざ出掛けていくことはないのだろうか。生鮮食品以外の買い物は、ほとんどオンラインで済ませることになるのか。いや食品だって、すでに一部のスーパーマーケットは「オンラインで注文を受けて即配達」というサービスを始めているくらいだ。

ショッピングモールの空き店舗には、レストランやフィットネスクラブなど、「そこに行かないとできない」タイプの店が入るようになった、と先日ラジオで聞いた。モールの存在意義は、「モノ」を買うことではなく、「体験」を買うということにシフトしていくのかもしれない。モノは、箱に入ってトラックで運ばれ、玄関先に置かれていく時代である。段ボール製造会社と配送会社の株を買っておくといいかもしれない、とけっこう本気で考えたりする。

アメリカのオレゴン州ってどんなところ?

アメリカ北西部に位置する、全米屈指の美しい景観を誇るオレゴン州。IT、バイオテクノロジー、環境関連産業の成長目覚ましく、ナイキなどのスポーツ・アウトドア企業も多い。州都はセイラム、最大の都市は人口約60万のポートランド。

文:大石洋子
エッセイスト。1993年、夫の海外赴任でアメリカ・ニュージャージー州へ。2003年には異動のためオレゴン州に転居。現在は、日に日に生意気になる16歳の娘に手を焼く傍ら、月に2回、Boiled Eggs Onlineにオレゴンでの生活をつづっている。

本記事は『ENGLISH JOURNAL』2017年10月号に掲載された記事を再編集したものです。