「許す」は英語でallow/let/forgiveのどれ?「許し/赦し」の区別は?英単語や漢字から世界観を知る【日米文化の裏側】

ケンカした相手に「ごめん、許して!」と謝ったり、誰かの過ちを「許せない」と思ったり。「許す」ことや「許し」に関する考え方には、アメリカと日本の間で興味深い違いがあるようです。言語学者のアン・クレシーニさんと一緒に、その違いや英語での表現を見ていきましょう!

「許し」に対するアメリカと日本の捉え方

「相手を許して自分を自由にする」アメリカ人

日本で暮らし始めてから23年間、私はずっと日本とアメリカの文化の違いについて考えてきましたが、もしかしたら日本人が最も理解しにくいアメリカ文化はforgivenessかもしれません。日本語に訳すと、「許し」もしくは「(ゆる)し」になります。話せば話すほど、この概念の奥深さを感じます。

アメリカのニュースでは、たまに次のような光景を目にします――裁判所に、殺人犯と、殺された被害者の遺族がいる。犯人の刑が決まった後、遺族が犯人に近づき、犯人をハグしながら繰り返し「I forgive you.(あなたを許す)」と言う。そして、犯人が泣き崩れる。互いにハグし合った状態で、犯人は「I’m so sorry.」と何度も言い、遺族が「It’s ok. I forgive you.」と答える。(もちろん、犯人は罪を犯しているわけですから刑務所に入りますよ。)

この話を日本人にすると、必ずと言っていいほど「あり得ない。私には絶対できない」と返ってきます。

もちろん、アメリカ人も全員が自分の愛する人を殺した人間を許せるわけではありませんし、いつかはできるとしても、すぐ許せるという人は少ないと思います。ただ、一つの考え方としてあるのは、「相手を許すことによって自分が自由になる」というもの。犯人に対する憎しみや恨みをずっと持ち続けていると、自らもどんどん暗い人間になってしまう。許しによって、その重い憎しみと恨みから解放される――こういう風に思っている人は、「許しは自分のためだ」と考えます。相手が許しを求めていなかったとしても、自分の心が軽くなるために許すのです。

「キリスト教離れ」の現代アメリカでも影響力は大きい

ただし、自分のためだけに相手を許すわけではありません。現在のアメリカでは「キリスト教離れ」がかなり進んでいますが、それでもその影響力はまだ非常に強いです。キリスト教には、「神は人間の罪を許してくださったのだから、私たち人間もお互いを許さなければならない」という教えがあります。少なくとも、その教えは多くのアメリカ人に影響を与えていることでしょう。

アメリカ生まれ、アメリカ育ちの私も、「許し」はなんという素晴らしい概念だろうと思います。もちろん、私自身いつも正しいことをしようと行動していますが、もしも失敗したり、誰かを傷付けたりしてしまった場合も、許されることがあるなら安心できます。だって、人間なら誰でも失敗することがありますよね。

「許しを必要としないよう生きるべき」日本人

でも、多くの日本人の友達はあまり「許し」を理解できないようです。「自分の気持ちはいくぶん軽くなるかもしれないけれど、ただそれだけの話だ」と。あるいは、「殺された人の“代理人”として、犯人を許したらだめやろ?」と。

ある友達は、「許しがあるんだから失敗してもいい、悪いことをしてもいいと思っている人が多いやろ」と議論を投げかけてきました。彼女は「だってさ、失敗しても『ごめん、許して!』と言うだけでいろいろ済むってことでしょ?人間は、そもそも許しが必要ないように、しっかりした生き方をしないといけない」と言いました。「なるほど、そういう考えもあるんだな」と世界観の違いを感じた出来事でした。

「許し」は英語でforgivenessだと冒頭で言いましたが、文脈によって訳は変わってきます。ということで、いろんな例文を見ながら「許し」や「許す」ことについて話していきたいと思います!

「許す/赦す」を英語で言うと?

「許す」を英語で言いたい場合、その意味・文脈によって大きく2種類に分けることができます。一つがallowもしくはlet、もう一つがforgiveです。

【allow、let:人が何かをしようとするのを許す(許可する)】

まずは、一つ目の「許す」についてお話しします。これは「させてくれる」という意味で、具体的に言うと、「権力のある人が、ない人に何かをやらせくれる」ということ。親が子供に、上司が社員に、などの関係が当てはまります。

allowもしくはletを使う文を見ていきましょう。

allow、letを使った例文

My parents will never let me study abroad.
親は絶対に留学を許してくれん。

I want to get a full-time job, but my husband won’t allow it.
私はフルタイムの仕事に就きたいんやけど、夫が許してくれんわ。

I really want to go on my honeymoon right after the wedding, but my boss won’t allow it.
結婚式の後すぐ新婚旅行に行きたいけれど、上司がそれを許してくれない。

I want to drop out of college, but my parents will never let me.
大学を辞めたい、でも親は退学を絶対に許さない。

これらの「許す」の意味は「許可」に近く、ここでforgiveを使うとおかしくなってしまいます。特に、4つ目の例文でforgiveを使うと、意味は全然違ってくるのです。

どういうことか見ていくと・・・。

I want to drop out of college, but my parents will never let me.

これが元の例文でしたね。letを使い、「私は辞めたいけれど、は許してくれない」、つまり、「辞める許可を出してくれない、辞めさせてくれない」という意味を表しています。

では、forgiveを使うとどういう意味に変わると思いますか?

I want to drop out of college, but my parents will never forgive me (if I do).

この場合、「大学を辞めたいけれど、もし勝手に辞めたら、親はずっと恨みや怒りを持つ。どんなに謝っても説明しても分かってくれない」というニュアンスになるのです。

こんな風に意味が全然違ってしまいますから、英語で「許す」と言うときは気を付けて使い分けないといけません。「許可する」「させてくれる」と言いたいときは、forgiveではなくallowかletを使いましょう。allowとletは大体同じ意味なんですが、letのほうが話し言葉でよりカジュアルなニュアンス。allowはletよりも硬い表現です。

【forgive:人がすでに行ったこと・失敗を許す(赦す)】

二つ目のforgiveに移りましょう。

ネットの国語辞典「デジタル大辞泉」で調べると、「ゆるす(許す)」の項目には9つの意味が設けられていて、1番目、2番目はこう書かれています。

  • (「聴す」とも書く)不都合なことがないとして、そうすることを認める。希望や要求などを聞き入れる。「外出が—・される」「営業を—・す」
  • 2 (「赦す」とも書く)過失や失敗などを責めないでおく。とがめないことにする。「あやまちを—・す」

(出典:デジタル大辞泉(小学館)

1はallowやletを使う方、「許可する」のことですね。そして2が、forgiveに当たります。誰かがしてしまった失敗を責めずに許す、という意味です。この辞典によると、漢字は「許す」と「赦す」のどちらでも同じ意味だと考えられます。

「赦す」の方は日常生活ではあまり使われていませんが、具体的には、次のような意味だと言えます。

(中略)
これら二つの言葉は、時間の向かう先が違います。「許す」はこれから行う行為を認めること、「赦す」はすでに行った行為の失敗を責めないことです。

(参照:宮城学院女子大学 「お知らせ」

多くの日本語の単語と同じように、単語が元々持つ意味と、実際の使われ方には少しズレがあるようですね。

では、forgiveを用いた例文を見ていきましょう。「許す/赦す」の漢字の区別はここでは置いておきます。

forgiveを使った例文

I will never forgive my husband for cheating on me.
浮気をした旦那を絶対に許さない。

I never meant to hurt you. Will you please forgive me?
あなたを傷付けるつもりは全くなかったんです。許していただけますか?

I can’t forgive the drunk driver who killed my son.
飲酒運転で我が息子を殺した運転手をどうしても許すことができない。

I’m so sorry that I cheated on you. I promise I will never do it again. Can you find it in your heart to forgive me?
浮気をしてしまって本当にごめんなさい。もう二度と同じことをしません。許してくれますか?

I’ll never forgive my father for leaving my family when I was a kid.
私が子どもの頃に家族を捨てた父を絶対に許すことはないだろう。

A: Please forgive me.
どうか許してください。

B: I forgave you a long time ago.
もうずいぶん前に許したよ。

I’ll never forgive myself.
(他人に許されても)自分を一生許せない。

多分、皆さんが一番耳にする頻度が高い英語は、次のようなフレーズだと思います。

Please forgive me.
私を許してください。

I’ll never forgive you.
絶対にあなたを許しません。

「許す」と「赦す」の違い

改めて漢字・意味・英語の違いを振り返って、理解を深めておきましょう。

  • 「許す」:誰かがこれから行うことを認める/【allow】、【let】
  • 「赦す」:誰かがすでにしてしまった失敗を責めない/【forgive】

「許す」が当てはまる例文

《これから行うことや考えようとしていることについて》
(1)
I will never allow it.
それは許さない

(2)
My parents will never allow me to marry him.
親は絶対に彼との結婚を許して(認めて)くれない。

「赦す」が当てはまる例文

《すでに行ったことについて》
(1)
I will never forgive you.
あなたを絶対に赦さない

(2)
My parents will never forgive me for marrying him.
両親は彼と結婚したことを一生赦してくれないだろう。

allow、let、forgiveを使う文の形は、それぞれ次のようになるので参考にしてください。

動詞文の形
allowallow [人や組織など] + to [動詞]
letlet [人や組織など] + [動詞]
forgiveforgive [人や組織など] + for [物・事柄]

forgiveやallowの関連表現

debt forgiveness、loan forgiveness:債務免除

余談ですが、名詞のforgivenessを使ったdebt forgiveness(債務免除)という言葉があります。前回はdebt(借金)について書きました。もしまだ読んでいなかったら、ぜひその記事もチェックしてくださいね!

debt forgiveness、あるいはloan forgivenessは日本語で「債務免除」に当たります。つまり、「本来返さないといけないお金を返さなくていいよ!」ということですね。アメリカでは近年、大学のloan forgivenessが話題になっています。

allow:余裕を持つ(見る)

「許し」からは離れますが、allowには「余裕を持つ」という意味もあります。日本人には比較的知られていない英語表現かもしれません。

We need to allow some extra time for traffic.
道が混むことを考えて余裕を持った方がいい。

We need to allow at least an hour to get through immigration.
入国審査を通過するには少なくとも1時間の余裕を持つ必要がある。

You should allow for any delays due to the COVID pandemic.
コロナウイルスの流行による遅れを考慮して、時間の余裕を持つべきだよ。

Please allow 3-4 days for delivery.
配達には、3〜4日余裕を見ておいてください。

I’m sorry!:許してね!

最後に、「許してね!」を英語でどう表現するかについて話させてください。これはちょっと訳しにくいんですが、I’m sorry!とかSorry!が一番近いと思います。Please forgive me.より少し軽い表現です。

I don’t think I am going to be able to make it! Really sorry!
間に合いそうにないんだ!ごめん、許してね!

I said too much yesterday. I’m sorry.
昨日は言い過ぎた。許してね。

まとめ

皆さんの耳にたこができるくらい言ってきたと思いますが、言葉、文化、世界観のつながりは非常に大事です。「アンちゃん、また言ってるの?」と感じる方もいるかもしれません。でも、文化と世界観を理解することは、語学の勉強に欠かせないものだと思います。

日本語をマスターする鍵の一つは、日本の文化や世界観を理解することだと私は考えています。だから一生懸命分かろうとしているけれど、もし理解が足りていなかったら、許してね!


アン・クレシーニ
アン・クレシーニ

アメリカ生まれ。福岡県宗像市に住み、北九州市立大学で和製英語と外来語について研究している。著書に『アンちゃんの日本が好きすぎてたまらんバイ!』(合同会社リボンシップ)。自身で発見した日本の面白いことを、博多弁と英語でつづるブログ「アンちゃんから見るニッポン」が人気。Facebookページも更新中! 写真:リズ・クレシーニ

アン・クレシーニさんの書籍や連載

アンちゃんが英語&英会話のポイントを語る1冊

upset(アプセット)って「心配」なの?それとも「怒ってる」の?「さすが」「思いやり」「迷惑」って英語でなんて言うの?などなど。四半世紀を日本で過ごす、日本と日本語が大好きな言語学者アン・クレシーニさんが、英語ネイティブとして、また日本語研究者として、言わずにいられない日本人の英語の惜しいポイントを、自分自身の体験談・失敗談をまじえながら楽しく解説します!

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