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「カワイイ」の多様性を探る~ちびキャラから妖怪まで~ 

カワイイの奥深き世界

ハローキティやポケモンなど、今や世界中にファンを持つ「カワイイ文化」。その魅力は英語の「cute」や「beautiful」には収まらない奥行きにあります。この連載では、社会学をご専門とする遠藤薫さんと「カワイイ文化」の真髄に迫ります。

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なぜちびキャラは「カワイイ」のか?

「カワイイ」印象は「幼い」印象に結びつけて考えられることが多いですが、この点については、動物行動学者のコンラート・ローレンツが1943年に発表した論文「可能な経験の生得的形態」の中で、「人間は、大きな眼、大きな頭、引っ込んだあごなど、幼い特徴を持つ動物に愛情を感じる。眼が小さくて鼻の長い動物には、同じような反応を示さない」(図1)と指摘し、これを「ベビースキーマ(baby schema)」と呼んだことが知られています。*1

ベビースキーマ効果

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図1 ベビースキーマの例

確かに、図1で、左側の人や動物の方が、右側より幼くかわいく見えますよね。また、日本のコミックなどでは、シリアスなストーリーでも、主人公を図2のようなちびキャラにして楽しむことも多いですね。ちびキャラは通常、顔が大きく、丸く、眼が大きいなど、幼児の特徴を強調するデフォルメが加えられます(図2)。

ちびキャラ(「ちびキャラメーカー」 で遠藤作成)

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図2 ちびキャラの例

また過度でなければ、ベビースキーマに当てはまるほど、人はかわいいと感じることが確かめられています。ローレンツによれば、人間がベビースキーマをかわいく感じるのは、親が生まれたばかりの子どもに対して保護意欲を刺激され、養育行動を誘発されるという、霊長類の生得的な本能によるものだと想定されていますが、実際にそれが、本能のような「生得的」なものか、経験から学習されたものか、あるいはその他の理由によるものかについては、まだ論争が続いているようです。

一方、進化生物学者のスティーヴン・ジェイ・グールドは、『パンダの親指』*4 という著書の中で、非常に興味深い指摘をしています。今や誰もが知っている人気者のミッキーマウスですが、初めてスクリーンに現れたのは、100年近く前のことです。1928年公開の『蒸気船ウィリー』の中でミッキーは、現在のような「国民的良い子」キャラではなく、むしろ手に負えないヤンチャぶりを発揮していたことをご存じでしょうか?

その後ミッキーの人気が高まるにつれ、性格は穏やかで礼儀正しいものに変化していったのですが、それとともに、「見た目」も大きく変化していったのです。初期のミッキーは、現在のミッキーに比べると、頭が小さく、眼も小さく、顔が細く前に突き出ていて、手足も細く長く、動作は機敏でした。ディズニーはミッキーに、ローレンツが指摘した幼児らしさを、徐々に付け加えていったのです。

グールド自身は、「ディズニーの漫画家たちが、自分たちのしていることをはっきり自覚していたのかどうかもわからない」と指摘していますが、実際に、ミッキーのデザインが段々と、頭が相対的に大きくなったり、目が大きくなったり、頬が膨らんだりしていったことは事実です。このように「進化的現象として幼児化が進むこと」は、「ネオテニー(neoteny)」と呼ばれています。

鉄腕アトムやドラえもんも「ネオテニー」

ミッキーマウスと同じような現象は、日本で愛されているキャラクターたちにも見られます。

鉄腕アトムが初登場したのは、雑誌『少年』で1951年4月から連載された「アトム大使」という作品でしたが、この作品のアトムはかなり大人っぽいスリムな体型で、筆者が測ったところでは、およそ5頭身あります。顔は引き締まっており、手足が細く、まつげが長いのもが特徴です。

それが雑誌『少年』に1957年に掲載された「鉄腕アトム スーパー旋風の巻」では、プロポーションは4.5頭身ぐらいに縮み、頭は大きくなり、ほっぺが膨らみ、手足は末端に行くほど太いデザインになります。 1966年に掲載された「鉄腕アトム 宇宙放送の巻」ではこの体型変化がさらに進みます。体型は3頭身ほどとなり、顔はいっそう丸く、手足はより太く短くなっています。

ドラえもんも同様の「ネオテニー」の傾向を示しています。単行本『ドラえもん』刊行当時、ドラえもんは2.5頭身くらいでした。しかし、45巻にまでくると、ドラえもんは1.5頭身くらいまでに頭でっかちになっています。身体の部分の方が頭より短くなり、顔も横に丸くなっていることがわかります。ベビースキーマは、さまざまな人気のアニメキャラにも現れています。

ちなみにこのプロポーションはハローキティとほとんど同じですが、ハローキティは誕生から今まで、ほとんど体型が変わっていないようです。

「ベビー」じゃなければはかわいくないのか?

「ベビースキーマ」は大変説得力のある魅力的な学説ですが、幼くて弱々しくて守ってあげたくなるような対象にしか人は「カワイイ」と感じないのでしょうか?

実はそんなこともないのです。例えば、サンリオのキャラクター「ぐでたま」は、赤ちゃんというよりおじさんに見えます。また図3は、上野動物園のお父さんパンダのリーリーです。子パンダたちに比べると、動作や表情にもそこはかとなく人生に疲れたおじさんの風情が漂っている気がしますが、でもそこが「カワイイ」と思いませんか?

上野動物園のリーリー

図3 上野動物園のリーリー

最近は、憎々しげな悪役や渋く脇を固めるおじさん俳優たちも、「カワイイ」と賞賛されることが増えているようです。遠藤憲一さんや松重豊さんなどがその代表ですね。特に、松重さんが猫の着ぐるみを着て家政婦を演じたミニドラマ「きょうの猫村さん」なんて、ほっこり感と意外性のある「カワイイ」が満載です。もちろん、身長188センチの松重さんが演じる猫は、頭が小さく、目も小さく、手足は細長く、身体はスリムで、8頭身くらいあります。ベビースキーマとは正反対ですが、それでも「カワイイ」と感じられるのは、にじみ出す人柄のおかげでしょうか。「カワイイ」という感性の奥深さがわかります。

実はアメリカでも、おじさんを「カワイイ」と感じるトレンドがあるようです。“Dad Bod”という言葉をご存じですか?略さず書くと“Dad Body”で、直訳すれば「パパ体型」ということになるでしょうか。2015年にMackenzie Pearsonという人が書いた“Why Girls Love The Dad Bod”というエッセイがネットでバズったことから有名になった言葉のようです。Pearson氏によれば“Dad Bod”とは以下のような人を指すようです。

*ビール腹(beer gut)と運動(working out)のほどよいバランス

*太りすぎ(overweight guy)でもないし、腹筋ムキムキ(washboard abs)でもない

そして“Dad Bod”が女性に人気の理由については、次のように説明されています。

*It doesn't intimidate us.(威圧的じゃない)

*We like being the pretty one.(横にいる自分がかわいく見えそう)

*Better cuddling.(抱き心地がよさそう)

*Good eats.(食事制限していないので、一緒に何でも食べられる)

*You know what you're getting.(結婚後の姿を想像できる)

人の体型をあれこれいうのは失礼ですが、「なるほど」と思える部分もあります。つまりは「あまり無理せず、自然体がいいね」ということでしょうか。

「カワイイ」の多様性

一見すると「カワイイ」からはほど遠い印象がある、エライ人たちの「カワイイ」エピソードにも触れておきましょう。

第26代アメリカ大統領セオドア・ルーズベルトは、1902年の秋ごろ、趣味の熊狩りに出かけました。でもその日は一匹も仕留められませんでした。そこで同行のハンターが熊を撃ち、とどめの一発を大統領に頼みました。しかし大統領は、「瀕死(ひんし)の熊を撃つのはフェアじゃない」と断りました。このエピソードがワシントンポスト紙に絵入りで掲載され(図4)、大変評判になりました。

1902年11月16日のワシントンポスト紙に掲載された漫画

図4 ワシントンポスト紙に掲載されたセオドア・ルーズベルト

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それにあやかって、当時アメリカで人気の高かったクマのぬいぐるみが「テディ・ベア」(図5)と呼ばれることになったそうです。テディというのはセオドアの愛称です。テディ・ベアの背景には、こんな大統領の逸話があったのですね。

テディベア

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図5 テディ・ベア

こうしてみると、「カワイイ」と感じる気持ちは、必ずしも丸くて大きな頭やクリクリした瞳や、プニュプニュした手足など、ベビースキーマだけによるものではないようです。「見た目が9割」などよくいいますが、「カワイイ」の世界はもっと広くて豊かなのです。  

例えば、図6を見て下さい。これは江戸時代につくられた「閻魔鬼木彫根付」です。根付(ねつけ)とは、印籠や矢立などを帯からつるすための留め具ですが、細かな細工が装飾のために付けられています。死んだ人の罪を裁く地獄の閻魔(えんま)さまが、ちょっと残業続きだったのでしょうか。子鬼に肩をもんでもらって、痛そうな表情をしています。いつも怖ろしい閻魔(えんま)さまだからこそ、こんな表情を見ると思わずカワイイと思ってしまいます。

閻魔鬼木彫根付(江戸時代の漆細工)

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図6 閻魔鬼木彫根付

一方の子鬼は、いつも怒られてばかりなのかもしれません。肩もみしながらもちょっと不安そうです。でもそれと同時に、弱っている閻魔(えんま)さまに一矢報いてやろうとしているかのような悪い顔もしているようです。そんなところも「カワイイ」ですね。

また図7は狩野探幽が描いた「百鬼夜行図」と呼ばれる絵巻(模写)の一部です。人が寝静まった深夜、百鬼つまりさまざまな鬼や妖怪たちの群れが、街を勝手気ままに練り歩く様子を描いています。『今昔物語』など古い物語では、当時の人びとがこのような百鬼夜行に出会うことを恐れたと書かれています。でも、どうなんでしょう。絵巻に描かれた百鬼たちを見ると、確かに目玉がいくつもあったり、角が生えていたり、醜いというか、怖いというか、確かに化け物なのですが、なんだかとても楽しそうで、思わず百鬼たちの仲間になって浮かれ歩きたい気持ちになってしまいます。百鬼は「カワイイ」のです。

百鬼夜行図

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図7 百鬼夜行図

このように「カワイイ」は、思わず抱きしめたくなるような愛らしい存在だけでなく、ちょっと疲れたおじさんや、近づきがたいエライ人にも感じられる感性であり、さらには、怖ろしい悪鬼や、不気味で醜い化け物たちにも感じることのできる感情であることがおわかりいただけたでしょうか?そういえば、2021年のサンリオキャラクター大賞の第5位は、おでこに髑髏(どくろ)マークを付けたクロミちゃんでしたね。「カワイイ」は醜も悪も包摂する、まさに多様性が織りなす世界なのです。

次回は2021年8月27日(金)に公開予定です。

遠藤薫

遠藤薫(えんどうかおる)学習院大学教授。専門は社会学で、社会の変化、メディア、文化などを中心に研究。著書に、『ソーシャルメディアと公共性』(東京大学出版会)、『ロボットが家にやってきたら・・・――人間とAIの未来』(岩波書店)、『カワイイ文化とテクノロジーの隠れた関係』(東京電機大学出版局)など。
遠藤薫研究室ウェブサイト