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コロナ禍を生き残るために、通訳案内士がすべきことは?今後の観光業界を予測!

コロナ禍を生き残るために、通訳案内士がすべきことは?今後の観光業界を予測!

新型コロナウイルス感染拡大により、日本の観光業界、特にインバウンドビジネスは大きな打撃を受けています。そんな中生まれている新しい事業とは?そして、通訳案内士が生き残る策はあるのでしょうか?全国通訳案内士で、『通訳ガイドというおしごと』(アルク)などの著書を持つ島崎秀定さんに解説していただきます。※記事の情報は2021年5月現在のものです。

度重なる全国通訳案内士への「逆風」

▼前編はこちら!

前編では、観光業界が大きな影響を受けているというお話しをしましたが、では、通訳案内士はどうでしょうか。実は、コロナ禍以前から通訳案内士には逆風が吹いていました

①通訳案内士法の改正

従来、通訳案内士という国家資格がなければ、有償で外国人観光客を案内することができませんでした。ところが2018年に通訳案内士法が改正され、資格がなくても有償で案内することができるようになったのです。有資格者から見ると、観光案内の質が低下することへの懸念と、ただでさえ季節変動が大きく食べていくのが厳しい通訳案内士という職業が、さらに厳しいものになってしまうのではないかという不安を感じています。

②マッチングサイトの急増

マッチングサイトというのは、インターネット上で観光案内を提供するガイドと、案内を希望する外国人観光客を結び付けるサイトです。通訳案内士法改正以前からマッチングサイトはありましたが、当初は有資格者に限定していました。それが改正を皮切りに、無資格者も登録できるサイトが急増したのです。

③外国人ガイドの増加

法改正の影響は、無資格外国人ガイドの増加にも表れています。

従来、無資格の外国人が日本でガイドすることは認められていませんでしたが、中国人を中心とした多くのアジア人は、無資格でガイドを行っていました。残念ながら、違法でありながらも取り締まりは一切行われていませんでした。それが、法改正によって大手を振って業務ができるようになったのです。

また、法律を遵守していた欧米人のガイドは、日本で案内をする場合、必ず日本人の有資格者を同行させていました。ところが法改正を機に、1人でガイディングをしている欧米人を頻繁に見かけるようになりました。

④コロナによる大逆風

①~③の逆風がすでに吹いているところに、コロナによる大逆風が吹き、通訳案内士は大きな苦境に立たされています。ほとんどの通訳案内士は、2020年の稼働日数がゼロに近い数字となっています。

通訳案内士はコロナ禍をどう過ごせばよいか

では、そんな中で、通訳案内士はどう過ごせばよいでしょうか?

通訳案内士の仕事が主要な収入源であった場合には、転職を含めた人生設計の見直しが必要かもしれません。「それでも通訳案内士の仕事を続けたい!」という、私のような頑固な人間の場合(笑)、以下のことは不可欠です。

①落ち込まないようにする

「仕事がなくなって気分が落ち込んでいる」というガイド仲間の声をよく耳にします。「落ち込むな!」と言っても、自分の気持ちは簡単にコントロールできるものではありません。いちばん簡単な解決法は、忙しくすることです。忙しいと、落ち込んでいる暇がなくなります。そのためには、以下のようなことが挙げられます。

②アルバイトをする

まずはアルバイトでもなんでも仕事をするのがよいでしょう。収入がない状態は気持ちをさらに落ち込ませるからです。金額は減少しても、アルバイト収入があるというのは気持ちの安定につながります。

また通訳ガイド業務以外の仕事を経験することによって、それが今後外国人を案内する際の話題にもつながるでしょう。私は昨年の4月から、大学の国際寮でコンシェルジュ業務のアルバイトをしています。

③勉強する

通訳ガイドの仕事が忙しくなると、なかなかまとまった勉強の時間を取ることができません。自分の強化したい分野の専門書を読むのもいいでしょう。例えば歴史、植物や鳥などの自然観察、もしくは改めて語学をやり直すのもよいでしょう。

私は、2週間に一度、仕事仲間でもあるカナダ人からガイディングを前提とした英会話のレッスンを受けています。また、通訳案内士団体や通訳案内士の有志が実施しているオンライン研修にも度々参加しています。

④活動の幅を広げた「研修講師事業」

2021年1月から2月にかけて、観光庁による「地域の観光人材のインバウンド対応能力の強化に向けた研修」という事業が行われました。

これは、通訳案内士を、全国の観光協会や観光地域づくり法人(DMO)、宿泊施設、交通事業者などに派遣し、外国人を受け入れるための心構えと接客英会話のレッスンを行うというものです。

通訳案内士団体からの要望もあって実現した事業ですが、コロナ禍で時間的余裕がある時期に、観光事業者にとって外国人受け入れの準備ができたことは有意義だったと思います。実際に観光事業者からは、「有意義な研修だった」「今後も研修を受けたい」という声が多数上がっています。

また、通訳案内士にとっても大きな意義があったと思います。収入面だけを見れば、この1回だけの事業でコロナによる損失を補填(ほてん)できるわけではありません。

しかしながら、今まで外国人の案内という業務だけを行っていた通訳案内士が、研修講師という新しい経験をすることによって、活動の幅を広げることができ、新たな業務への可能性を見出すこともできたのではないかと思います。

観光業界の課題と今後の予測

2011年の東日本大震災からの回復以降、2019年までは急激に外国人観光客が増加しました。2011年と2019年を比較すると、5倍にもなっています*1

このことによってインバウンド業界は売上を大きく伸ばすことができましたが、一方で弊害も起きています。旅行業界の課題と今後について考えてみたいと思います。

①オーバーツーリズム

特定の観光地に外国人が急増したことにより、地元住民の生活に支障をきたすことが多くなりました

例えば、路線バスが大混雑するようになり地元民が利用しづらくなってしまった、あるいは民泊の多い地域で観光客が騒音を出す、ゴミ出しルールを守らないなどのトラブルも起きています。

外国人を対象にした店ばかりになり、日本人が敬遠するようになった地域は、外国人観光客がいなくなってしまった現在、苦境に立たされています。

こうしたオーバーツーリズムの弊害を是正し、地元と観光客が共存していくことが求められています。

②密を避ける観光形態

2019年までは、定員45人のバスなら45人びっしり外国人を乗せて観光を行うということが普通に行われていました。しかしながら、新型コロナを経験した今、仮にコロナが収束したとしても、しばらくは密を避ける行動が選択されるため、1ツアー当たりの参加者が減少するでしょう。

そうなると、当然ながら参加者1人当たりのコストが増加し、ツアー代金が高くなってしまいます。そのしわ寄せが、ガイド料やホテル、バスなどの料金の低下につながらないことを祈っています。

③飛沫(ひまつ)対策としての機器の利用

感染予防の観点から、観光地にて大声でお客様に説明することもはばかられます。そこで、イヤホンシステムなどを利用するツアーが増えていくことでしょう。これもコスト高につながってしまいますね。

また、バス内でもお客様と対面で話をしたり、写真などを回して見てもらうのも避けることになるでしょう。通訳ガイドの中には、自分で作成した資料をバスのテレビモニターに映して説明している人もいます。今後、このような工夫も歓迎されることでしょう。

④富裕層から回復

では、どの層から旅行需要が回復するかというと、富裕層からではないかと考えられます。

まず、上記のように密を避ける観光によってコストが上昇し、ツアー代金が高くなるため、低所得者層は参加しづらくなるものと思われます。一方、富裕層はコロナ禍でさらに資産を増やしています。経済の停滞と逆行するように、世界的な株高が起こっているためです。

富裕層はたとえツアー代金が高くなろうとも、それによって旅行を控えることにはならないでしょう

⑤郊外型や自然系のツアーの増加

富裕層は混雑している観光スポットを避ける傾向にあると共に、コロナの影響が残るために都会の密になりやすい場所を避けることも予想されます。

今後、東京や京都といったメジャーな観光地から、観光客の比較的少ない地域が好まれることでしょう。自然と歴史や文化が同時に味わえる場所として、コロナ以前から人気が上昇し始めた、宿場町の残る旧街道や巡礼道といった地域がさらに注目されるのではないでしょうか

⑥ツアーコンセプトの明確化

コロナ以前からSDGsや環境を意識したツアーが増え始めています。通訳案内士もツアーの日程表を渡されるだけでなく、ツアー前に旅行会社からコンセプトの説明を受ける機会が多くなりました。

また、動物愛護の観点から、自由行動時に動物系カフェへの案内を禁止している旅行会社もあります。この傾向はますます強くなっていくことでしょう。

アフターコロナに向けて、通訳案内士は何をすべきか

ここまで、通訳案内士への逆風、そして観光業界の変化について述べてきました。今後、通訳案内士が生き残るためには、以下の3点への対応が不可欠です。

①通訳案内士への逆風への対応

今後無資格者との競争が激化していくことは避けられません。無資格者との競争の舞台では、ガイド料金が低下していくことも懸念されます。

一方、富裕層は高いガイド料を払ってでも、高品質なガイディングを受けたいと希望しています。富裕層を顧客としていくためには、ガイディング能力を高めることが不可欠です。また、ほかのガイドには負けない強みのある分野を持つことも大切です。

②旅行会社との関係を維持する

富裕層の仕事の多くは旅行会社から紹介されるので、旅行会社との関係を維持することも大切です。

今、多くの旅行会社はでコロナ禍によりリストラが行われたり、部署異動が行われたりしています。このような状況で、知らない間に懇意にしていた社員が担当を外れてしまうケースも増えています。

せっかく培った旅行会社との関係が切れてしまうと、旅行需要が回復したときにも仕事が回ってこなくなることが考えられます。そのためにも、ときどきは旅行会社と連絡を取ってみてはいかがでしょうか。

③情報収集と新しい旅行形態への対応

コロナによって旅行業界は大きく変化しています。常に最新情報を入手しておくことが大切です。

また、観光地も2019年と現在では様変わりしているところがあります。施設やお店が閉店していたり、新しい建物が建っていたりしています。よく知っている観光地でも、ときどきは下見をしたりしておくとよいでしょう

先程述べた、IT機器等を利用したガイディングを行うための準備をしたり、郊外型や自然系のツアーに対応するために勉強したりすることも重要です。

コロナはいずれ収束します。その際、いざ旅行会社から仕事の依頼があったとき、自信を持って仕事が受けられるようにしておくことが何より大切です。もうしばらくは厳しい状況が続くかと思いますが、時間の余裕ができた今を前向きにとらえ、一緒にこの苦境を乗り越えましょう!

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島崎秀定(しまざき ひでさだ)1963 年、東京生まれ。高校時代にアメリカ・オレゴン州の高校へ 1 年留学。慶應大学経済学部卒業後、経営コンサルティング会社を経て、美術館副館長を務める。1998 年、仏ソルボンヌ大学フランス文明講座にて 1 年学ぶ。帰国後、海外旅行の企画・添乗(添乗日数約 500 日)などを経験し、2009 年末より通訳ガイドとして活動(10 年間の稼働日数は 2000 日以上)。スポーツイベントなどの通訳も務める。著書に『通訳ガイドというおしごと』『指名が途切れない通訳ガイドの英語で日本紹介アイデアブック』(アルク)ほか。