新型コロナウイルスの感染 拡大 は、今なお多くの業界に深刻な 影響 をもたらしています。海外からの観光客をガイドし、日本の魅力を伝える通訳案内業界は今どのような状況なのでしょうか?2020年8月時点の様子を全国通訳案内士の松本美江さんに聞きました。
訪日旅行は当分難しい状況
コロナ感染症 拡大 は夏に入っても止まるどころか、連日、感染者数の最高記録が塗り替えられています。政府にとってもこの状態は想定外だったのでしょう、「Go To キャンペーン」 *1 も、急きょ東京発のツアーを除外するなど、ドタバタした感があります。
私自身、9月以降のジャーナリストさんたちのツアーもすべてキャンセルになり、仲間の通訳ガイドたちも、予約が残っていた多くのクルーズツアーも取り消しになったと意気消沈していました。
日本国内でさえ遠方への移動が不安で、近隣で旅行をするマイクロツーリズムが主流なのですから、海外からの旅行客が来られるはずはないと承知していても、この分だと来年の春までは私たち全員の失業状況が続くと 予測 されます。
通訳案内士が今できる2つのプロジェクト
ワクチンが出来るまでは、観光業界の専門家も打つ手なしと匙(さじ)を投げるこの状態で、今2つの企画を進めています。
一つは、私が理事長を務める全日本通訳案内士連盟(JFG)で、これまで行ってきたオンラインでの研修に加え、今度は全国のメンバーで 希望 する人にご当地のオンラインツアーを動画で作ってもらい、それを団体のホームページで紹介し販売するという企画です。
その目的は、訪日のお客さまが戻ってくる時までにガイディングがさび付かないように練習しながらモチベーションを保てるようにすること、そしてその動画を仲間たちに廉価で購入、視聴してもらうことでいくらかでも収入の足しにすることの2つです。もちろん購入して視聴するメンバーにとっても、あまりなじみのない地方の様子やそこでのガイディングを学ぶいい機会になります。まだ企画段階ですが、うまくいくといいなと思っています。
もう一つは、3月に全国の通訳案内士の団体が合同で国土交通大臣に 提出 した要望書に記載した通訳案内士活用のためのプロジェクトです。これに政府の 予算 が付いて正式に動き出しています。 具体的に は全国通訳案内士が全国各地の旅館やホテルの従業員たち向けに、通訳ガイドならの実践的な語学力と、喜ばれるホスピタリティーの研修を行うというものです。
講師として派遣される全国通訳案内士は、あらかじめそのための研修を受けて認定されることが必要ですが、正式に講師として派遣される場合には国から講師料が支払われます。訪日のお客さまにあまり慣れていない観光地の人たちにとってはプロから研修を受けられるメリットがあり、派遣される通訳案内士には仕事の創出になり、双方にとってありがたいプロジェクトになりそうです。
この2つのプロジェクトで私自身も当分の間、仕事がないことを忘れて打ち込むことができるのが個人的なメリットになります。
今後の 訪日観光の幅を広げるチャンスに"> 今後の 訪日観光の幅を広げるチャンスに
アフターコロナと呼べる時はいつかは来るでしょうが、その時は旅行がこれまでとはまったく違う形になっていると 予想 されます。せっかくの機会なので、通訳ガイド業界だけでなくすべてのインバウンド業界で、コロナがあったからよくなったと後で思える変革を進めていくプラス思考の時にしたいものです。
例えば、日本への旅行でこれまで人気が偏っていてオーバーツーリズム *2 の弊害の 原因 になっていた、時期や訪問地の選択肢を大きく広げていくことが挙げられます。
桜や紅葉の季節は確かにどこに行っても美しいですが、ゴールデンウイーク後の初夏や晩秋から真冬まで、日本には季節ごとの魅力があります。訪問地も、京都も確かに文化財が多く魅力的ですが、日本の田舎と言われる地域はどこも訪日のお客さまにとって魅力の宝庫です。例えば奈良で大仏を見学した後、30分ほどのドライブで和束(わづか)という茶畑の町で茶摘み体験をし、近隣の農村に立ち寄って農家で一緒に収穫した材料で料理体験をすることなどもこれまでとは違う日本発見になるでしょう。サイクリングやハイキングを取り入れることもできます。
コロナがあったから日本のインバウンドが変われたと、後で思い出される変革のチャンスになることを期待しています。
2020年6月時点の全国通訳案内士の状況はこちら
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松本美江
米国コロラド大学にて言語学と英語教授法の修士号を 取得 。1977年に通訳案内士試験に合格後、通訳ガイドとして活躍。現在までに世界各国数万人の外国人のガイディングを担当。世界トップ企業の重役やVIPからの指名も多い。全日本通訳案内士連盟(JFG)理事長として、通訳案内士試験合格者のための研修も担当している。