エリザベス女王がチャーミング過ぎる!サミットなどで披露した絶妙な英語ジョーク

写真:Mark de Jong

2021年6月11~13日にイギリス南西部のコーンウォールで開催された、主要7カ国首脳会議(G7サミット)。新型コロナウイルスのワクチンや気候変動、中国の人権問題への対策などが話し合われました。サミットではエリザベス女王やチャールズ皇太子など王室の人々も、首脳たちと面会するなどの役割を果たしましたが、その中で報道され話題となった女王のジョークや、過去にも発揮されたユーモアセンスを紹介します。

写真撮影で「楽しそうに見えるようにすべき?」

エリザベス2世が各国首脳ら(※1)と写真撮影に臨んだ際の動画では、隣にいるボリス・ジョンソン首相の方に顔を向けながら放ったひと言が笑いを誘いました。どんな言葉だったのでしょうか?

動画はこちら。

英語を聞き取れましたか?字幕付きですので、比較的わかりやすかったと思います。こう言っていましたね。

Are you supposed to be looking as if you’re enjoying yourself?

楽しそうにしているように見えないといけませんよね?

新型コロナウイルス感染防止のためのソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)またはフィジカル・ディスタンシング(物理的距離)を意識して、互いに離れた位置にいるのかなと考えたのですが(※2)、最初は、その点もほのめかすかのような発言なのだろうかと思って少しドキッとしてしまいました。

しかし、社内の2人の英語ネイティブスピーカー校正者(イギリス出身とカナダ出身)によると、この女王の発言は写真撮影者に向けたものだろうということでした。それなら、ポーズしている人たちの配置は関係ないのかもしれません。

これもその校正者たちに確認したのですが、この文の“you/yourself”はいわゆるgeneric you(※3) で、“yourself”が単数形なので(※4)、この場合は女王自身を指していると解釈できるとのこと。「撮ってもらうときに笑った方がいいですよね?」というニュアンスでしょうか。

ところが、女王のコメントに対するジョンソン首相の反応はこうでした。

Yes. We have been enjoying ourselves in spite of appearances.

そうです。そうは見えないかもしれませんが、われわれは楽しんでいますよ。

これは、女王が言及したのは写真に写る全員だと受け取った上での応答だと考えられそうです。もっとも、この一連のやりとりについてはほかの解釈もあり得るかもしれません。

動画ではここで笑いが起こっていますが、自分がこういうときに英語のジョークを聞いて笑えるだろうか?と心配になります。よくわからなかったときは、曖昧に少しほほ笑むようにしています(笑)。自分やほかの人がからかわれたりしている状況だと、一緒に笑うのはよくない場合もあるかもしれないので、どっちつかずの不気味な顔になることしばしばです。

下記の記事などで、この写真撮影についての英語の報道を読めます。

www.abc.net.au

 

写真:WikiImages(Pixabay)

ナイフではなく剣でケーキを切ります!

サミット中にコーンウォールで開催された「エデン・プロジェクト」の「ビッグ・ランチ」に出席した女王は、今度はケーキを剣でカットしようとして、周囲の笑いを誘います。

そのときの動画はこちら。女王と同席しているのは、コーンウォール公爵夫人カミラさん(チャールズ皇太子の妻)とケンブリッジ公爵夫人キャサリンさん(ウィリアム王子の妻)ですね。

このようなやりとりが交わされていました。

Queen Elizabeth: I don’t think really this is going to work.
The Duchesses of Cornwall: With two hands.

エリザベス女王:うまくいきそうにありませんね。
コーンウォール公爵夫人:両手を使うといいですよ。

女王の発言中の“really”はあまりはっきりとは聞こえませんが、社内のイギリス出身校正者によると、上流階級の人による英語の発音では/l/の音を落としてreallyが/rei/のように発音されることがあるそうです。

続けて、近くにいた関係者が女王にし掛けています。

Staff: There is a knife there as well.
Queen Elizabeth: What?
Staff: There is a knife if you want it.
Queen Elizabeth: I know there is. This is something that is more unusual.

スタッフ:ナイフもあります。
エリザベス女王:なんですって?
スタッフ:よろしければナイフもあります。
エリザベス女王:知っていますよ。この方が普通でないから(いいでしょう)。

その場にいる人を楽しませようとする姿勢を感じますが、周囲の人たちは戸惑っているようでもあります。

女王が剣を手にする様子は、ちょっと怖い図です。危なっかしいというほどでもないのですが。「フィガロジャポン」によると、この剣は「かつてコーンウォール公爵であったエドワード・ボリトーが持っていた剣」なのだとか。本物の、切れる剣なのですよね・・・。私は学生のときに授業で本物の日本刀を持ったことがあるのですが、一瞬だったにもかかわらず、手が震えそうになるのを必死にこらえた覚えがあります。女王はさすが、95歳と言えども、そんな心配はないのかもしれません!

この出来事を伝えるオーストラリア放送協会(Australian Broadcasting Corporation、ABC)の記事では、ことわざや慣用句を使った次のような英文があります。

There’s more than one way to skin a cat ? or cut a cake, . . .

猫の皮を剥ぐ(目的を果たす)にはいろいろな方法がある――いや、むしろケーキを切るには(と言うべきか)(後略)。

この英文は次の表現を踏まえているのでしょう。

There’s more than one way to skin a cat.

目的を果たすにはいろいろな方法がある。
※ことわざ。直訳は「猫の皮を剥ぐにはいろいろな方法がある」。

記事にあるこの文にもご注目を。

As she was handed the sword, . . . it became clear that trying to manoeuvre the blade would be far from a piece of cake.

女王が剣を受け取ると、その刃を扱おうとするのはとうてい簡単ではない(一切れのケーキではない)ことが明らかになった。
※manoeuvre=maneuver

この文に見られる決まり文句は、日本でもよく知られているのではないでしょうか。

a piece of cake
簡単にできること
※慣用的な表現。

これらの英文は凝っていて、ちょっとしゃれていますね!

www.abc.net.au

 

なお、「エデン・プロジェクト(The Eden Project)」は、コーンウォールにある施設で、環境などの教育活動をしている慈善団体のようです。「ビッグ・ランチ(The Big Lunch)」もその活動の一つで、地域のみんなでランチをしましょうというイベントだそうです。
www.edenprojectcommunities.com

下記の記事でも、このケーキカットに関する英語の報が読めます。

edition.cnn.com

過去にもシュールな(?)ジョークが話題に

エリザベス女王は、これまでにも数々のジョークが知られていて、『The Wicked Wit of Queen Elizabeth II』という本まで発売されているそうです。

VOGUE」の記事では、「Queen Elizabeth’s 11 Best Witty One-Liners」(エリザベス女王の機知に富んだジョークのトップ10)と題して、その一部が紹介されています。 そのうち、例えば2つ目はこれです。

  1. On the occasion of her 72nd anniversary to her husband, Prince Philip, the Queen of England loudly commented during a public appearance: “What’s the date?”
  2. 夫のフィリップ殿下との結婚72周年に際し、女王は公式行事の最中に大声で「今日は何日?」と言った。

同じ記事の5や11のジョークもわかりやすいと思いました。

www.vogue.com

 

2021年4月9日に亡くなった、女王の夫であるフィリップ殿下も、ジョーク好きな人として知られていました。ジョークを超えて、gaffe(失言)のレベルに達してしまっていたことも多々あったと、訃報のニュースで伝えられています。

www.independent.co.uk

 

そして、『The Wicked Wit of Prince Philip』という本も出版されているそうです。

失言は問題がありますが、最初に紹介したエリザベス女王の言動のようなジョークは、周囲の人の緊張を和らげて楽しい気分にさせる効果がありそうですね。女王の発言も、皮肉が効き過ぎている、辛辣(しんらつ)だ、という意見もあるかもしれませんが、あなたはどう思いますか?

英文校正:【全体】Peter Branscombe(アルク)/【一部】Margaret Stalker(アルク)

※1 ロイターの記事によると、写真撮影に参加したのは、ウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長、ドイツのアンゲラ・メルケル首相、日本の菅義偉首相、フランスのエマニュエル・マクロン大統領、カナダのジャスティン・トルドー首相、イギリスのボリス・ジョンソン首相、イタリアのマリオ・ドラギ首相、アメリカのジョー・バイデン大統領、シャルル・ミシェル欧州理事会議長。

※2 2017年G7タオルミーナ・サミットの集合写真 や、 2018年G7シャルルボワ・サミットの集合写真 を見ると、もっと接近して写っています。

※3 一般的な人を指すoneと同じように使われる場合が多い。話し手である自分もほかの人たちも、というニュアンスの用法が見られる。

※4 ロイターの記事では “enjoying yourselves”と複数形になっているが、社内の英語ネイティブ校正者によると、間違いと思われる。

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