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通訳案内士が解説!コロナ禍で「観光」はどう変わったか?進化するオンラインツアー情報も

通訳案内士が解説!コロナ禍で「観光」はどう変わったか?進化するオンラインツアー情報も

新型コロナウイルス感染拡大により、日本の観光業界、特にインバウンドビジネスは大きな打撃を受けています。そんな中で生まれている、新しい観光事業とは?そして、通訳案内士が生き残る策は?全国通訳案内士で、『通訳ガイドというおしごと』(アルク)などの著書を持つ島崎秀定さんが解説します。※記事の情報は2021年5月現在のものです。

コロナ禍で、稼働日数は前年比マイナス93%

私は、2009年から英語の全国通訳案内士をしています。

全国通訳案内士とは、海外からの観光客を日本全国の観光地に案内する仕事です。それ以前には旅行会社に勤務していたこともあり、旅行業界には2000年から携わっています。

この20年余り、2001年のアメリカ同時多発テロ、2003年のSARSの流行、2011年の東日本大震災など、大きな事件や災害が起こる度に国内外の観光客が激減し、観光業界にも私自身にも多大な影響がありました。

しかしながら、2020年初頭から始まった、新型コロナウイルス感染拡大影響ほど大きなものは経験したことがありません。私の通訳案内士の仕事では、2019年の稼働日数が237日でしたが、2020年にはわずか15日、前年比マイナス93%でした。

今回から2回にわたり、コロナが観光業界に与えた影響、観光業界の対応と今後どのように変化していくかという予測、その中で通訳案内士が生き残るためにはどうすればよいのかという点について、私自身の体験を交えながら考えてみたいと思います。

観光業界全体はどれくらい影響を受けた?

私の稼働日数がマイナス93%と書きましたが、観光業界全体ではどうでしょうか。

度重なる緊急事態宣言などの自粛要請を受け、国内旅行者が激減しています。特にインバウンド中心に行っていた旅行会社への影響が大きいです。

日本政府観光局によると、2019年に3188万人だった訪日外国人数は、2020年には411万人と激減し、前年比マイナス87%となりました*1

2020年4月からは観光目的の外国人の入国が事実上できなくなっていますから、観光客だけに限って言えば、さらに大きなマイナス幅となっているものと考えられます。

このような状況下で、大手旅行会社が大幅な人員削減をしたり、ホテルや飲食店が倒産・閉店に追い込まれたりというニュースが日々流れています。東京オリンピックに海外からの観客受け入れ中止を決定したことや、度重なる緊急事態宣言も、マイナスに拍車をかけています。

「国内向き事業」に重点が置かれるように

こうした状況の中、観光業界ではさまざまな模索が行われています。 

①対象顧客の拡大

今まで海外旅行を専門(あるいは中心に)行っていた旅行会社が、国内旅行に重点を置くようになってきたり、インバウンドを専門(あるいは中心に)行っていた施設が日本人や日本国内に住む外国人を対象に事業を行ったりするなど、顧客層を変更、あるいは拡大する動きが強まっています。

私にも、日本人向けツアーガイドの仕事のオファーが来ましたが、残念ながら緊急事態宣言によりキャンセルとなってしまいました。 

②余剰人材の派遣

観光業界のように、コロナ禍で需要が激減している業界がある一方で、IT業界、通販、一部の製造業など、むしろ売上を伸ばしている業界もあります。こうした状況下で、航空会社が余剰社員をほかの業界に派遣するというようなことが行われています。

ワーケーション、オンラインツアーなどの新しい試み

顧客層を変更や拡大するだけでなく、新たな観光事業の開発も行われるようになりました。

①既存の設備を活用した事業拡大

鉄道会社やタクシー会社など、これまで主に人間を運んできた会社が、余剰スペースを利用して物品を運び始めています。観光地の人力車が弁当を運んだという事例もあります。物流業へ事業を多角化したということができるでしょう。

②ワーケーションの誘致

宿泊施設の中には、新しい旅行需要の創出を行っているところもあります。ワーケーションがその代表的なものでしょう。これは「ワーク」と「バケーション」を合わせた造語で、リゾート地などバケーション気分を味わえる場所でリモートワークを行うことです。今までになかった宿泊形態で、これはリゾート地に限りません。

例えば、帝国ホテルが「帝国ホテル サービスアパートメント」と称して割安で長期滞在できるプランを発表したところ、すぐに完売し、都会の他のホテルも追随しています。

www.imperialhotel.co.jp

③オンラインツアーの実施

昨年春から、旅行会社やバス会社による、Zoomを利用したオンラインツアーが盛んに行われるようになりました。

最初は静止画や文字情報中心とした観光地の紹介程度のものだったのが、動画を多用したり、生中継で観光地を紹介したりするなど、徐々に現場の雰囲気をより身近に感じられるようなものに進化していっています。

バス移動や航空機移動からオンラインツアーが始まるなど、現実に近い旅行気分が味わえるような工夫もなされています。また、普段は入れない場所をオンラインで訪れ、特別感を出しているツアーも見受けられます。海外旅行を中心に行っていた旅行会社では、海外支店と連携して、現地情報を伝えているところもあります。

参加費はまちまちです。数百円で参加できるものもあり、収益的に大きく貢献できているとは思えません。しかしながら、それによって既存顧客との結びつきを継続したり、新規顧客を獲得したりすることによって、自由に旅行できるようになった際の売上につなげようという思いがあるようです。海外旅行のオンラインツアーに参加する人は、下見的な利用の仕方も多いようですから。

また、外国人向けに行われているオンラインツアーもあります。私自身も一度、ロンドンの学生向けにZoomを利用した「オンライン東京観光」を実施しました。事前に都内観光地に行って写真や動画を撮影し、パワーポイントを活用して約1時間のツアーを行いました。最後には質疑応答の時間を設け、双方向のコミュニケーションを行いました。

茶道や座禅など、体験的な要素を含んだものもあります。私が参加した、お寺が主催するオンライン座禅体験は、参加者を国籍に関わらず募集していましたが、100人くらいの参加者の内、2~3割が外国人でした。

www.tokozenji.or.jp

オンラインツアーも日々進化しています。VRを活用して360℃自分で自由に景色を見られるものは、非常に臨場感があります。

www.ace.jp

Spatial Chatという地図上で自分のアイコンを自由に移動できる機能もユニークです。ここではZoomと違って、アイコンが近い人同士だけで会話することもできます。また、ビジネスや介護用に作られた分身ロボットを旅行に活用する試みも行われています。

コロナが収束した後も、オンラインツアーは残るものと思われます。高齢者など体力的に旅行ができない人もいますし、オンラインツアーの楽しさを味わった人は今後も利用し続けるでしょう。より現実感を味わえるものへと進化していけば、ツアーの魅力も増していくものと思います。 

④ネット通販事業

オンラインツアーの中には、事前に訪れる国や地域のお土産品や飲食料品を送って、飲食しながらツアーを楽しんでもらうような企画も増えています。

私が参加した国内ツアーでは、ツアー中に酒蔵を訪れ、酒蔵の社長のインタビューを聞きながら、そこで生産された焼酎を飲むというものがありました。飲みながら、チャット機能や実際の音声で感想を伝えて生産者とコミュニケーションを取ることができ、実際に酒蔵で試飲をしているような気分を味わえました。

国内旅行・海外旅行を問わず、こうした商品の取り扱いに力を入れる旅行会社が出てきました。いわばネット通販事業に進出していると言えますが、単なる物販ではなく、その土地や生産現場などを紹介しながら商品を販売するという旅行会社のメリットを生かすスタイルは、今までになかった形態と言えるでしょう。

以上のように、観光業界はコロナ禍で影響を受けるとともに、事業の見直しを含む大きな転機を迎えています。こうした中、いち早く環境の変化に対応している会社が成功し、今後も生き残っていくものと思われます。

後編は2021年7月15日(木)公開予定!お楽しみに。

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ej.alc.co.jp

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島崎秀定(しまざき ひでさだ)1963 年、東京生まれ。高校時代にアメリカ・オレゴン州の高校へ 1 年留学。慶應大学経済学部卒業後、経営コンサルティング会社を経て、美術館副館長を務める。1998 年、仏ソルボンヌ大学フランス文明講座にて 1 年学ぶ。帰国後、海外旅行の企画・添乗(添乗日数約 500 日)などを経験し、2009 年末より通訳ガイドとして活動(10 年間の稼働日数は 2000 日以上)。スポーツイベントなどの通訳も務める。著書に『通訳ガイドというおしごと』『指名が途切れない通訳ガイドの英語で日本紹介アイデアブック』(アルク)ほか。