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イギリスの超名門イートン校がオンラインでの世界進出に挑戦する狙いとは?

イギリスの超名門イートン校

英国で最も有名な名門パブリックスクール・イートン校。長い歴史を通じて、質の高いリーダーシップ教育を提供し続けてきた同校が、オンラインでの世界進出=EtonXに挑戦する狙いについて、EtonXの日本展開を担当しているグローバルスカイ・エデュケーション株式会社に取材した内容をご紹介します。

EtonXは2015年にイギリスのイートン校によって設立された英国のEdTech組織です。

イートン校とは、イングランドのバークシャー州ウィンザー近郊のイートン町にある、13歳から18歳までの男子を対象とした全寮制の私立中等教育機関(日本では中高一貫校に相当)です。1440年にヘンリー6世によって設立されたイートン校の卒業生の多くは、オックスフォード大学やケンブリッジ大学などのイギリスの名門大学へと進学し、また今日までに20人の首相を輩出してきました。

約600年の歴史と伝統を持つイートン校の特徴は、学問の卓越性と相まって、質の高いリーダーシップ教育を提供している点です。全寮制のカリキュラムを通じて養われる学生たちの品格、自発性、柔軟性、課題解決能力など、「ソフトスキル」の養成がイートン校の強みとして知られています。

近年、アジアや中東などに分校を設立するイギリスのパブリックスクールは増加傾向にありますが、EtonXのように、オンライン教育を提供している学校は珍しく、画期的です。

イギリスの伝統校でありながら、オンライン教育へと挑戦する狙いについて、EtonXの日本展開を担当しているグローバルスカイ・エデュケーション株式会社(GSE)に取材した内容をご紹介します。

次世代のリーダーに求められるスキルとは?

EtonXは、次世代のリーダーに求められる「ソフトスキル」を養成するためのオンライン教育講座です。「ソフトスキル」とは、通常の学校教育で教えている学科ではない、対人的な交渉・指導・意思疎通などをうまく行える能力のことを指します。

「コミュニケーションコース」「リーダーシップコース」「就職準備」「進学準備」の4種類を14〜20歳の若者に向けて提供しているEtonXは、以下の11種類のスキルを学ぶプログラムから編成されており、受講者は英語を使ってこれらのテーマを学んでいきます。

・Resilience(立ち直る力)

・Creative Problem Solving(創造的課題解決)

・Research Skills(リサーチスキル)

・Making an Impact(人の心を動かす)

Verbal Communication(言語コミュニケーション)

・Public Speaking(パブリック・スピーキング)

・Interview Skills(面接スキル)

・Writing Skills(ライティング・スキル)

・CV Writing(CVライティング)

Critical Thinking(多面的探求)

・Entrepreneurship(起業家精神)

イートン校らしさという点でぜひ注目したいのは、「Making an Impact(人の心を動かす)」というタイトルの講座です。リーダーにとって、演説やスピーチでいかに多くの人の心をつかめるかは、非常に重要なスキルとなってきますが、この講座では「自分の意見を明確に、自信を持って伝える方法」や「人の心を動かす話し方や身振りのノウハウ」、そして「他者の話をきちんと聞き、適切に要約する仕方」などを学ぶことができます。GSEの友永喜久さんは次のように述べています。

「ニュース番組などで、ただ原稿を読むだけの演説を政治家がしているのを見て、『そんなことで国民の気持ちが動くのか』と疑問を抱いたことがある人も少なくないと思います。実際に人の心が動かせるかどうかは、演説者のスピーチ能力の違いで大きな差が出ますから、EtonXではリーダーが身に付けるべきスピーチについて、具体例と理論を交えて体系的に学んでいきます」

ところで、ボリス・ジョンソン英首相が、昨年の4月に新型コロナウイルスを克服した際のビデオメッセージを、覚えている方もいると思います。国民に訴え掛けてくるような語り口で、世界中の人々の心が揺さぶられたと当時話題になりましたが、かくいうジョンソン首相もイートン校で学び、スピーチのスキルを身に付けた一人です。

ほかにも、デイヴィッド・キャメロン元首相や、ウィリアム王子などがイートン校の出身者として有名です。EtonXとは、イートン校で英国のリーダーたちが若い頃から鍛錬をしてきたような「ソフトスキル」を、英語を使ってオンラインで学んでいく講座なのです。

伝統校があえてオンラインを選んだワケ

しかし、約600年の歴史を持つイギリスの伝統校が、「オンライン」という革新的な場を選んだのはなぜなのでしょうか。

実は近年、イギリスのパブリックスクール、その中でも「ザ・ナイン」と呼ばれる9校が、中東などのアジアに分校を設立して海外展開をする例が増えています。例えば、ウィンストン・チャーチルをはじめ過去7人の首相を輩出してきた超名門のハロウ校は、タイのバンコクに始まり、香港、上海、北京に分校を開校し、2022年8月には、日本の岩手県にも開校予定です。なぜイートン校はハロウ校のように分校ではなく、オンライン教育での展開を選んだのでしょうか。

「背景にはイートン校の教育のエッセンスを全世界の人々に知ってもらいたいという思いがあるわけですが、分校ではやはり限られた人しか通うことができません。ですので、イートン校がオンライン教育に挑戦する狙いには、人種、国籍、文化、性別、貧富の差を問わず、全世界の人々へイートン校の教育を提供したいという想いがあるのです」

EtonXでは、「ヴァーチャルクラスルーム」と呼ばれるオンライン教室を通して、世界60カ国以上から集まってくる生徒最大8名と、一緒に学習を進めていきます。イートン校のエッセンスを学びながら同時に、留学経験に近いグローバルな環境に身を置くことができます。各コースでは動画を視聴しながら課題をこなし、ロールプレイやディスカッションを行います。単なる暗記ではなく、内省を通して自己フィードバックを得たり、自分の言葉でアウトプットする機会を設けるなど、学習者の能動的な学びを促す仕組みがふんだんに用意されています。また本家イートン校は男子校ですが、EtonXでは性別問わず受講できるのもメリットです。EtonXで実際にイートン校のエッセンスを体験した鷗友学園女子中学高等学校の学生は、次のような感想を述べています。

「緊張した時の対処の仕方や、質問された時の答え方などが、とても実践的で分かりやすくて、皆の前でプレゼンなどをする際に、活かせたら良いなと思いました。また、たんに英語を話すことだけじゃなくて、日常生活での勉強のやり方を英語を通して学べたことがよかったです」

英語レベルはTOEFL 60点以上の生徒が想定されていますが、日本でEtonXを受ける場合は、ウェブサイトの翻訳や解説などのサポートが付いた、より参加しやすいコースを選ぶこともできます。

昨今は、『グローバル人材を目指せ』『世界に目を向けろ』などと、日本の若者に期待する声も多いと思いますが、いざ、現実に留学を考えてみようとしても、経済的な問題などの制約で、簡単に実現できるものではありません。

EtonXなら、それらの問題を乗り越えて、多くの人が世界的にもトップレベルの教育を受けることができ、それがまた、世界へと広く目を向けるきっかけにもなるでしょう。またGSEの須川健太郎さんは、イートン校がオンライン教育に挑戦した理由について、次のように述べます。

「イートン校のような伝統校がオンライン教育にこだわる背景には、イートンという場に結び付いた伝統は、分校では決して再現できないというプライドがあると思います。ある意味では、イートンという町以外にイートン校が立つことは許されないという、伝統への誇りを持っているからこそ、まったく新しいオンライン教育にチャレンジしてみようというのが、イートン校の考え方なのです」

イートン校の約600年の歴史の中で培われてきたリーダーシップ教育は、人種、国籍、文化、性別、貧富の差を問わず、誰もが学ぶべき価値のあるユニバーサルな知です。オンライン教育という技術の進歩を活用することで、より広い世界に学習者が増えていくことが今後も期待されます。

ENGLISH JOURNAL ONLINE編集部

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