出版翻訳はどこへ向かう?翻訳書のトレンドを解説!

出版翻訳のいろは

連載「翻訳コーディネーターが徹底解説!出版翻訳のいろは」では、株式会社トランネットの代表取締役で翻訳コーディネーターの上原絵美さんが、自身のご経験を基に、出版翻訳のお仕事について紹介します。第2回のテーマは、「出版翻訳のトレンドと未来」です。

どの言語からの翻訳依頼が多い?

翻訳案件の受注、翻訳者へのお仕事のご紹介、翻訳作業終了までのサポートといったコーディネートを主な業務とするトランネットでは、平均して年間170冊ほど翻訳のご依頼をいただきます。原書の言語はやはり英語が圧倒的に多く、9割を占めます。英語からの翻訳が多いのは、日本に入ってくる原書(翻訳企画)の量も、翻訳者の数も多いためでしょう。

ひっくり返せば、日本になかなか翻訳企画が入ってこない言語は、仕事がないためにおのずと出版翻訳者を目指す人が少なくなり、原書を探し出せる人がいないために情報が入ってこない、という悪循環になっているように思います。現地の出版社もこの状況をわかっていて、各国へ売りやすいよう英訳した原稿を用意していることもあるので、結果としてさらに英語からの翻訳が増えることになります。

次に多いのが韓国語です。韓国語は、私が入社してからだと2004~2005年頃に1回目、2013~2014年頃に2回目のブームがあり、今3回目のブームが来ているのですが、これは弊社に限ったことではないようで、昨年の単行本の売上ランキングTOP25に韓国語から翻訳された書籍が2冊入っています(英語原書の書籍は1冊です)。最近では韓国語のエッセイの翻訳企画もたくさん入ってくるので、ますます増えそうな予感です。

ご依頼数の3位と4位はフランス語とドイツ語なのですが、この2言語は日本のエージェントや出版社に紹介されるタイトル数もそこそこありますので、当然かなと思います。

それ以外で注目を集めているのが北欧です。北欧ミステリーは一ジャンルとしてすっかり定着しましたが、最近ではライフスタイル本も増えてきました。

翻訳書のトレンド変遷

翻訳書には、その時々で人気のジャンルというのがあります。別々の出版社からのご依頼なのに、不思議なくらいジャンルが被るんです。訳せる方が多いジャンルであればいいのですが、専門知識が必要なジャンルのご依頼が重なると大変。社内で翻訳者さんの争奪戦が始まります。

翻訳コーディネーター人生で大ブームを経験したのが、「ロマンス小説」と「自己啓発書」です。

ロマンス小説が流行ったのは10年くらい前。「この出版社まで?」と思うほど、いろいろな版元が一気に進出しました。

ロマンス小説は、アメリカで膨大な量が出版されていますので、ネタには困りません。が、作品の内容はピンキリですし、「誰かと誰かが出会って恋に落ち、ハッピーエンドを迎える」という大枠が決まっているため、内容が似通いがちです。

その中から「これは読んだことがない!面白い!」と思える作品を探すのも大変ですし、かといってあまりエッジの効いた設定だと読者も限られるようで、だんだんと出版社数も作品数も、さらには印刷部数まで落ち着きました。

自己啓発書のほうは、一時期「私もそろそろ自分で書けるかも」と勘違いしそうになるくらい訳文を読んでいました。日本人の多くが、生き方に悩んでいたのでしょうか・・・。

が、これもブームの最後の頃はそれぞれの本の特色がわかりづらくなっていたように思います。当然のことながら、そうなると売れなくなってきますので、「自己啓発書祭」も終結しました。

最近増えてきたのが、理系のものと、ITや社会科学関連の書籍、図鑑などのフルカラーでボリュームのある本です。

理系のものは、いわゆる「ポピュラーサイエンス」、つまり一般人が楽しく読めてちょっとした発見のある本が人気です。

IT系はどんどん新しい技術が生まれますし、民主主義や資本主義が行き詰まりを見せるようになり、社会科学の分野でもさまざまな考え方が登場していますので、そうした情報はどんどん日本にも入ってきてほしいと思います。

図鑑などが増えている理由は、図書館に売りやすいため(ある程度の部数が見込めます)、子ども向けの本には親や祖父母が投資をするため、そして、「紙の書籍」である意義が大きいからでしょう。特に最後のポイントには印刷会社も絡んでいて、印刷受注を取るために、印刷会社がフルカラーの原書を探して出版社に売り込んでいたりします。

出版翻訳はどこへ向かう?

まず大きな問題は、「本」や「出版」がこれからどうなっていくのか?ということです。

日本では2010年が電子書籍元年といわれていますが、最初の頃、電子書籍の売上は伸び悩みました。ですから、10年前くらい前までは、「本」といわれたら、皆さんほぼ100パーセント紙の書籍をイメージしたかと思います。

ところが今では、紙と電子の契約内容を一つにまとめた出版契約書も普通になっていますし、紙と電子が同時発売される書籍も増えました。「本」の形態としては、「紙もあれば電子もある」という認識が一般的になったのではないでしょうか。

そして、翻訳者としては、出版方法が紙であろうと電子であろうと「訳す」という作業自体は同じです。「出版」から「紙」という要素を抜いてみると、出版翻訳とは「文字で表現された情報・知識・物語などを翻訳すること」かなと思います。そういう意味では、出版翻訳という仕事がなくなることはないでしょう。

今後大きく変わる可能性があるとしたら、一つひとつの翻訳の「分量」かもしれません。出版=紙だったころは、書籍にしても雑誌にしても、ある程度のボリュームがないと商品になりませんでしたし、流通させられませんでした。

ところが今は、数ページの短編でも記事単位でも販売ができますし、Webマガジンも増えました。そうすると、当然そこにも出版翻訳の需要が生まれるはずで、今までは「1件300ページ」というイメージだった出版翻訳にも、短く、訳しやすいコンテンツが増えてくるかもしれません。

これからの翻訳者に求められること

今人気のジャンルや、電子コンテンツが増えるだろうことを考えると、悲しいですが、ますます翻訳スピードを求められるようになりそうです。

以前に比べて世界の変化は恐ろしく速くなりました。そうすると、新しい技術を伝えたり、これからの社会を考えたりするような内容の本は、どんどん鮮度が落ちていってしまいます。そして、外国語で書かれた最新の知見を、フレッシュなうちに日本の読者に届けようと思うと、いちばん負担がかかるのは、当然ながら翻訳作業なわけです・・・。

前回書いたように、出版翻訳ではいまだに原文を横に置いて訳文をコツコツ打っていくのが一般的ですが、出版社や、その先にいる読者のニーズを考えると、機械化できるところは機械化して、スピードアップを図る必要があるかもしれません。
これについては、私自身も引き続き方策を模索していきたいと思います。

あなたの訳文を、上原さんが評価します!

本連載「翻訳コーディネーターが徹底解説!出版翻訳のいろは」の第3回(2021年2月22日公開)にて、上原絵美さんが皆さんの日本語訳文を評価します。プロに訳文を見てもらえるチャンス!ぜひチャレンジしてみてください。

【課題文】

“We simply cannot stay closed until the vaccine hits critical mass. The cost is too high. We will have nothing left to open,”

出典: US Changes Vaccine Strategy, WHO Says Herd Immunity Will Not Be Achieved in 2021(VOA News)

【参加方法】

Twitterにて、「#出版翻訳のいろは」を付けて訳文をツイートしてください。

【募集期間】

2021年1月31日まで ※募集は終了しました。第3回の記事はこちら

ej.alc.co.jp

上原絵美

上原絵美 神奈川県出身。就職氷河期ど真ん中で仕事が決まらないまま大学を卒業し、ホテル業界でアルバイトをしながら出版に関われる仕事を探していたところ、創業4年目の株式会社トランネットと出合う。その後、翻訳コーディネーターとして400冊以上を担当し、2020年代表取締役就任。