通訳者はどのような訓練を経てプロになるのか?

通訳者はどのような訓練を経てプロになるのか?

映画俳優や監督などの通訳をする「芸能通訳者」の今井美穂子さん。この連載では、今井さんが通訳学習者の基礎訓練を活用した英語のトレーニング法を、完全オリジナルの英語エッセイ(日本語訳・英語音声付き)とともにお届けします。最終回である第4回のテーマは「通訳者はどのような訓練を経てプロになるのか?」。今井さんが、通訳をすることの本質について書きます。

芸能通訳者のトレーニングを大公開!

EJOの読者の皆さま、こんにちは。芸能通訳者の今井美穂子です。この連載では、私がTwitterで提唱している、英語の多面的なトレーニング方法をご紹介します。トレーニングの素材は、毎回私がオリジナルで制作、ご提供します。

毎回の構成は以下のようになります。

  • オリジナル英語エッセイのテキスト:今回のトピックは「通訳者はどのような訓練を経てプロになるのか?」。大まかな日本語訳を付けました(逐語訳ではありません)。英語だけで内容が理解できる方は、日本語の部分はさっと読み飛ばしてもOKです。

  • 英語エッセイを読み上げた音声:私が読み上げています。

  • 今回の注目フレーズ!:英語エッセイの中から、なじみのない表現や、覚えておくと役に立つ表現をピックアップしました。

  • 英語のトレーニング法:エッセイと音声を使用した英語訓練法をいくつかご提案します。ご自分に必要なトレーニングを選んでみてください。

では、さっそく始めましょう!

通訳者はどのような訓練を経てプロになるのか?

過去に「達成したこと」を自信の源泉にする

In the previous installment of this series, I wrote about how to preserve your confidence and self-esteem during challenging moments. In addition to the items that I listed in my “prescriptionfor healthier interior monologue, I would also include in the list the habit of reminding yourself of past accomplishments. These could be past accomplishments on the job or any endeavor that you undertook that serve as a testament that you have earned your rightful place.

前回のエッセイでは自信と自尊心の保ち方について書きました。健全なセルフトークのための処方箋としてコツをいくつか提案しましたが、それに一つ加えるなら、過去に達成したことを思い出す習慣を付けることだと思います。仕事で達成したことでも良いですし、仕事でなくともご自身が今までに取り組んできたことについて思い出し、「私は今ここにいて良いのだ」と思えるようにしましょう。

I keep a mental list of these accomplishments, not the least of which was the training I underwent in interpreting school. People who consider interpreting as a profession are usually bilingual or multilingual to a certain degree, but they soon find in their training one indisputable truth. While a given among working interpreters, this truth is widely overlooked by those outside of the profession. Namely, it is not enough to be bilingual or multilingual to work as an interpreter.

私もしばしば自分の過去をこのようにして反芻(はんすう)するのですが、なかでも自信の大きな柱となっているのが、通訳スクールで取り組んできた訓練です。通訳者志望であれば一定レベルの語学力を有するバイリンガルまたはマルチリンガルであることが多いのですが、訓練を始めると決まってある真実を突き付けられます。通訳者の間では当然のこととして認識されていますが、世間的には広く見過ごされていることで、それはバイリンガルまたはマルチリンガルであるからといって必ずしも通訳業を営めるわけではないということです。

通訳は言葉の置き換えにあらず

French interpreter, and founder of the Interpretive Theory of Translation, Danica Seleskovitch has written that one must differentiate between knowing languages and utilizing languages in the technique of interpreting. Her classic textbook, “Interpreting for International Conferences,” was mandatory reading in the interpreting school that I enrolled in, and I strongly recommend it to any aspiring interpreter.

フランス語通訳者で通訳研究における「意味の理論」*1を打ち立てたダニッツァ・セレスコヴィッチは、言語を知ることと、通訳技術において言語を運用することとを分けて考えなければならないと書いています。同氏による『会議通訳者ーー国際会議における通訳』は、私が通っていた通訳スクールでは必読書で、通訳者を志す方に強くおすすめしたい名著です。

Interpreting is not transcoding. In other words, interpreting has less to do with replacing a word in the source language with a semantically equivalent word in the target language. It is an exercise of dissociating words from thought. It is a process of extracting the sense of what was uttered and then re-expressing the equivalent sense in the target language.

通訳はコード変換ではありません。つまり、ソース言語*2で発話された単語をターゲット言語*3における同義語に置き換える作業なのではなく、言葉と考えを分離し、発話された言葉の「含意」を抽出し、それを「再表現」する作業と考えるのが妥当です。

Therefore, an aspiring interpreter must develop a knowledge base and expressive capacity that reaches far beyond the limitations of his or her hitherto necessarily narrower intellectual life. Structured training will propel you to build muscle in both of these arenas through the rigorous exercises, reading material, and research requirements the teachers assign.

従って、通訳学習者はそれまでの知的生活の領域をはるかに超える知識基盤と表現力を付けていかなくてはなりません。綿密な演習、資料読み込み、リサーチなど、授業で課される体系的な訓練がこの両方を強化する推進力になります。

通訳スクールではどのような勉強をするのか

Aside from consecutive and in-booth simultaneous interpreting exercises and basic training techniques I have recommended in this series of columns, the interpreting classes I enrolled in entailed the following, to name a few.

私が受講した通訳クラスでは、逐次通訳演習、通訳ブースを使用しての同時通訳演習に加え、この連載で提唱してきたトレーニング法のほか、以下のような演習が組み込まれました。

Written tasks: written tests on current issues; transcribing one’s interpreting and self-correcting; written essays; reading assignments.

記述演習:時事テスト/自分の通訳音声の書き起こしと自己添削/エッセイ提出/資料の読み込み。

Oral tasks: summarizing a given speech into a third of its length on the first listen; reproducing a story of a certain length without taking notes; recorded word tests; drawing cards from a bowl, and giving a two-minute speech on the topic written on the card.

口述演習:初めて聞いたスピーチを3分の1に要約する /ノートを取らずにある一定の長さのストーリーを聞き、再現する/吹き込み式単語テスト/ボウルからカードを引き、引いたカードに指定されたテーマについて2分間スピーチをする。

Frankly, I had underestimated the cognitive load interpreting class would require. I remember that when I was in my very first semester at school, I had signed up for a four-hour weekend course and that after the four hours, the accumulated mental strain was such that there was a stress-induced tremble in my left hand for the rest of that day.

正直申し上げて通訳演習がどれほど負荷のかかるものか、甘く見ていました。入学して最初の学期は、週末の4時間集中クラスを受講し、神経をあまりにもすり減らしたせいか、授業後は左手に震えが起き、その日いっぱい力が入らなかった覚えがあります。

現場は自信と落ち着きが大切

All of this training has given me a certain sense of confidence so that I don’t have to be too squeamish even in the presence of greats. To carry an air of confidence and calm is very important because people are quick to sense insecurity, which will only leave them insecure about whether they have been assigned an interpreter that is up to the task.

この訓練を経たことが一つの自信になり、大物を目の前にしてもさほど気後れすることなく対応できるようになりました。人は不安感を敏感に嗅ぎつけますので、自信と落ち着きがとても大事です。おどおどしてしまっては、話者も「この人に任せて大丈夫なのだろうか?」と不安になってしまいます。

I have sensed time and again that it is of utmost importance that you build a sense of trust with your speaker so that he or she can feel that they can trust you with the delivery of their words. I find that even in the small talk that takes place prior to interviews or press conferences, your skills and intellect are being gauged.

現場では話者との信頼関係を構築し、相手に「この人になら私の言葉を委ねても良い」と思ってもらえるようにすることが何よりも大切だとしばしば感じてきました。インタビューや記者会見の前の何気ない雑談も、技術と知性を品定めされている気がします。

What gives me comfort in such situations is that I had put myself through that training at school, and that I have been doing this for over a decade, and that I have done my research on the topic. I don’t think there are any shortcuts to confidence.

そんな時に安心材料になるのは、スクールで訓練してきたこと、10年以上この仕事を続けてきたこと、当日に向けてしっかりと下調べをしてきたことです。自信への近道はないように思います。

I have a love-hate relationship with my profession. It can be utterly frustrating and nerve-racking at times but also inspiring and rewarding in equal measure. It is an intellectual stimulant that is quite addictive. I find myself always coming back for more.

通訳稼業と私とはある種の愛憎関係にあるような気がします。どうにも思うようにいかない時や神経がすり減る時もある一方で、それに見合うくらいの刺激とやりがいが得られる仕事でもあります。仕事で得られる知的刺激にはかなりの中毒性があり、なんだかんだやめられない稼業なのであります。

今回の注目フレーズ!

  • testament 証し
  • rightful 公正な、正しい
  • indisputable 議論の余地のない
  • a given 当然のこと
  • semantically equivalent 同義の
  • dissociate 分離する
  • extract 抽出する
  • utter 声を発する
  • expressive capacity 表現力
  • on the first listen 初見で
  • cognitive load 認知的負荷
  • squeamish ビクビクしている
  • insecurity 不安感、自信のなさ
  • up to the task 役割を果たせる
  • small talk 雑談

英語のトレーニング法

上記のエッセイと音声を使用した英語訓練法をご提案します。ご自分にとっての英語学習上の課題に応じて、必要なトレーニングを選んでみてください。

ディクテーション

難易度:★

対象:リスニングが苦手と感じる英語学習者。

手順:1センテンス単位で音声を止め、テキストを見ずに書き取りをします。一通り書き終えたら、原文のテキストと照らし合わせ、間違えたところや抜けたところを精査します。

効果:音声をひとつのまとまった構造として認識する訓練になります。前置詞、冠詞、時制、動詞の活用、可算・不可算名詞等、後述する「リプロダクション」や「シャドーイング」では見落としかねない細かい文法を意識できるようになり、文法力、ひいてはリスニング力、スピーキング力のアップにつながります。

リプロダクション

難易度:★★

対象:リスニングはある程度できるが、正確に話すのが難しいと感じる英語学習者。

手順:1〜3センテンス単位で音声を止め、テキストを見ずにリピートします。慣れないうちは1センテンス単位実施し、一言一句正確に再現します。慣れてきたら2、3センテンスと分量を増やしてもよいでしょう。文法に自信のある学習者の方は、多少表現を変えても、内容を正確に再現できていれば構いません。文型認識、意味理解が重要です。

効果:文の形や理解した内容を瞬時に口で再構築することで、正確なスピーキング力が身に付きます。

シャドーイング

難易度:★★★

対象:リスニング力、スピーキング力、語彙力全般の底上げを図り、英語発話のリズム、発音、スピードを改善したい英語学習者。聞きながら話すので、負荷の大きい訓練法です。ある程度基礎力を付けてから取り組むことをお勧めします。

手順:音声にかぶせるようにして、ほぼ同時にまねをします。慣れないうちはテキストを見ながらでもいいでしょう。話者の声の高低やリエゾン、リズムを意識しながら、はっきりと声を出してシャドーイングしましょう。ヘッドフォン着用を推奨します。時間に余裕があればご自身のシャドーイングを収録し、書き起こし、原文テキストと照らし合わせると、語彙や文法上のウィークポイントをあぶり出すことができます。

効果:大量にまねることで、リスニング力、スピーキング力、語彙力アップにつながり、自然な発話が身に付きます。

パラフレージング

難易度:★★★★

対象:表現の幅を広げ、文章構築力を身に付けたい英語学習者。相当な文法力と語彙力が要される訓練法で、上級者におすすめです。

手順:言い換えの練習。1〜3センテンス単位で音声を止め、原文と違う表現や文型を用いて内容を再現します。

【例】
元の文:Her classic textbook was mandatory reading in the interpreting school that I enrolled in.

パラフレーズした文:Every student was required to read her seminal textbook at the interpreting school where I went.

効果:表現の幅が広がることで、言葉の詰まりや言いよどみが減っていきます。言いたいことをずばり伝えられるようになります。パラフレージングの訓練は、日々多くの英語表現に触れ、インプットを十分に蓄積することが前提となります。

まとめ

最後までお読みいただきありがとうございました。第4回の「芸能通訳の現場から!」、いかがでしたでしょうか?今回は通訳学習者の訓練法について書かせていただきました。今回で連載はいったん終了となりますが、少しでもお役に立てたのなら幸いです!

*1:通訳者は「言葉」を伝えるのではなく、脱言語化のプロセスを経て「意味」を伝えるという理論。1960年代に初めて提唱された。

*2:ある言語から別の言語へ通訳する時の元となる言語。原語。

*3:ある言語から別の言語へ通訳する時の訳出後の言語。英語話者の発話を日本語に訳す場合、ターゲット言語は日本語である。

今井美穂子

今井 美穂子(いまい みほこ)日英通訳者。映画配給に10年間携わった後、2009年に通訳者デビュー。現在はエンターテイメント業界を中心に活動する傍ら、通訳者養成学校で後進の指導に当たっている。 芸能通訳者としては、来日イベントや国際映画祭での記者会見、舞台あいさつ、レッドカーペット、取材での通訳を10年以上にわたり担当。 過去に通訳した著名人には(以下敬称略)マーティン・スコセッシ、クリストファー・ノーラン、キアヌ・リーブス、岩井俊二、塚本晋也、黒沢清、仲代達矢、渡辺謙がいる。
Twitterアカウント:https://twitter.com/mihoko_imai