復讐に燃える一人の女性の過酷な運命を描く【FILMOSCOPE】

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気になる新作映画について登場人物の心理や英米文化事情と共に長谷川町蔵さんが解説します。

今月の1本

『ストレイ・ドッグ』(原題:Destroyer)をご紹介します。

※動画が見られない場合はYouTubeのページでご覧ください。

ロサンゼルス市警に勤める女性刑事エリン・ベル。現在は酒に溺れ、同僚や別れた夫、16歳の一人娘からも疎まれる孤独な人生を歩んでいる。ある日、エリンの元に差出人不明の封筒が届く。17年前にFBI捜査官だった頃、同僚のクリスと共に犯罪組織への潜入捜査を命じられたエリンは、そこで取り返しのつかない過ちを犯し、捜査は失敗に終わる。その罪悪感は今なお彼女の心身をむしばみ続けていた。ある日届いた封筒の中身は紫色に染まった1枚のドル紙幣―それは、かつて逃がした組織のボスからの挑戦状だった。

ニコール・キッドマンが挑むハードボイルドな刑事

ロサンゼルス市警の刑事エリン・ベルはある日、差出人不明の封筒を受け取る。中に入っていたのは盗難防止用の紫色の染料に染まった紙幣だった。それを見たエリンは忌まわしい記憶を呼び起こされる。それはFBI捜査官だった17年前に命を懸けて潜入捜査まで行いながら取り逃した犯罪組織のボス、サイラスからの挑戦状だったのだ。過去にけりをつけるため、エリンは一人でサイラスの足跡を追うのだが……。

日系アメリカ人女性監督カリン・クサマの最新作は、ロサンゼルスを舞台にしたハードボイルド映画の典型といえる作品だ。酒に溺れる主人公の刑事は家族から冷たく扱われているぶん、余計に職務に打ち込むのだが、法律無視の捜査は犯罪行為に限りなく近い。しかし悪に近い場所にいるからこそ、互角に悪と戦えるのだ。

こうしたハードボイルド映画は従来、タフでマッチョな男優が主演するものと決まっていた。だが本作で主人公エリンを演じているのは、そうしたイメージから遠いところにいる女優ニコール・キッドマン。プライベートでは今年53歳を迎えながら相変わらずゴージャスで美しい彼女だが、本作では私生活の乱れが顔に表れた40代のエリンと、まだ初々しい20代のエリンを見事に演じ分けている。しかも映画を観ている間は観客に「ニコール頑張ってるな」と一切思わせない憑依っぷり。TVシリース「ビッグ・リトル・ライズ」(2017- )で今年のゴールデングローブ主演女優賞(テレビ/ドラマ部門)にノミネートされたのも納得である。

優れた俳優が性別関係なくこうした役を演じるようになったのは素晴らしいことだ。ただし本作はそんな意義だけにとどまってはいない。手掛かりを追う現代のエリンと並行して17年前のエリンが描かれていくにつれて、彼女が女性だからこそ成り立つドラマチックな真相が明かされるのだ。そして観客はラストシーンで、自分たちが冒頭シーンからずっとだまされ続けていたことに気付くだろう。

『ストレイ・ドッグ』(原題:Destroyer

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(C)2018 30WEST Destroyer, LLC.
Cast & Staff

監督:カリン・クサマ/出演:ニコール・キッドマン、トビー・ケベル、タチアナ・マズラニーほか/公開中/配給:キノフィルムズ

www.destroyer.jp

※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2020年12号に掲載した記事を再編集したものです。

長谷川町蔵(はせがわ・まちぞう)ライター&コラムニスト。著書に『あたしたちの未来はきっと』(タバブックス)、『インナー・シティ・ブルース』(スペースシャワーブックス)、『文化系のためのヒップホップ入門3』(アルテスパブリッシング)など。