「村全体の協力」ってなに?コロナ時代のバブルから学ぶ3つの英語表現

「村全体の協力」ってなに?コロナ時代のバブルから学ぶ3つの英語表現

プロ通訳者の関根マイクさんが、さまざまなスポーツにまつわるストーリーと英語表現をご紹介する連載です。大のスポーツ好きの関根さんの熱い語りで、スポーツの知識も英語も学べ、まさに一挙両得!第12回はコロナ時代の「バブル」に学ぶ英語表現です。

バブルは成功した!感染者ゼロの無観客試合

日本で「バブル(bubble)」という言葉を聞くと、90年代初頭のバブル崩壊(景気後退期)を連想する人が多いかもしれませんが、コロナ時代の北米スポーツ界では別の意味で使われています。スタジアムに観客を入れて試合をすると大規模クラスター感染のリスクが高いので、閉じられた環境の中で必要最小限の関係者だけ集めて無観客試合を行う、それも数カ月のスパンで行うことを意味しています。

3月以降、ほぼすべてのプロスポーツリーグが感染拡大を抑えるために2020年シーズンの開幕延期または一時中断を発表しましたが、やはり資本主義経済ではお金がないとモノがまわりません。

シーズンを開始・再開しないとリーグ機構やチームにお金(チケット収入がゼロでも放映権料が大きい)が入ってきませんし、一般人と比べてかなり稼いでいる選手も生活の質を維持するために相当な支出が必要ですから、収入ゼロが続くとさすがに困ります。

なので、6月あたりからバブルを設定した上でシーズンを始めるといくつかのリーグが発表しました。ナショナル・ウーマンズ・サッカーリーグ(NWSL、女子プロサッカー)はユタ州にチームを集めて1か月間のトーナメントを開催。メジャーリーグサッカー(MLS、男子プロサッカー)はフロリダ州に、北米メジャースポーツの一つであるナショナル・ホッケー・リーグ(NHL、男子プロアイスホッケー)はカナダに2カ所のバブルを設置してシーズンを再開しました。参考までにNHLのバブル設営についてはこちらの動画シリーズをご覧ください。

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このNHL、徹底した感染防止策が功を奏して、なんと8月1日のシーズン再開から9月末の終了まで感染者ゼロ。前述のNWSLとMLSも感染者ゼロでシーズンを終え、きちんとやればバブルは成功すると証明したのでした。

今振り返るとこれが当然にように感じてしまうのですが、バブルがうまくいくかなんて当時は誰にもわかりません。一つの社会実験のようなものだったのです。

そして2020年最大のバブル実験を実施したのがプロバスケのNBAでした。シーズンを救うためにフロリダのディズニーワールドの一部を貸し切って(一説では150億円以上の費用がかかったとか)、およそ3カ月にわたるシーズンをこれまた感染者ゼロで乗り切ったのでした。リーグコミッショナーのアダム・シルバーはバブルの成功を喜ぶ一方、来期のバブルについてはまだ未定と話しています。2:10あたりから。

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 … we love our fans and we want to bring them back into the arenas. And we want to do it, of course, safely. So if there are advancements right on the horizon, that will be a reason to wait.
ファンは大切な存在ですから、またアリーナに戻ってきてほしいです。もちろん安全を確保した上で。ですので、仮にワクチンの開発完了がすぐそこに見えているのであれば、来期開幕を遅らせる理由になるでしょう。

選手は3カ月ものあいだ家族から離れて、バブル内で何をしていたのでしょうか?ディズニーワールドといってもテーマパークの部分にはアクセスがなかったようで、選手は湖での釣りやゴルフ、プールなどを楽しんでいたようです。

もっとも、マイアミ・ヒートのスター選手、ジミー・バトラーのように、プレミアム価格のコーヒーショップ(1杯2,000円!)をホテルの部屋で開業した猛者もいました。NBAファイナルの開催中も営業していたらしいです。

ちなみにバブル内は食事も大変だったようです。もともとはディズニー側が食事に関する責任を担っていたのですが、質があまりにも低過ぎて、最終的にはNBA側が10人のシェフをバブルに招待することになりました。

ピーク時は休日返上で週4000食を用意していたようで、これまたバブル運営の難しさを物語ります。業務量が多過ぎて筋肉量が増えたとか。3:55あたりから。

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I’m also, like, jacked. I want to say 20 times stronger now that when I got here.
筋肉ムキムキになりましたよ。ここに来てから20倍くらい強くなったかも。

最終的にはロサンゼルス・レイカーズが17回目のタイトルを獲得したのですが、優勝後の記者会見では選手はもちろん、レイカーズGMのロブ・ペリンカも今年の成功は困難な状況の中でもチームが一丸となって戦った結果だと称えています。6:33あたりから。

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It takes a village to have success.
成功を手にするには全員が一つになる必要がある。

特に今年のNBAシーズンはit takes a villageを象徴するような一年でした。そもそもリーグと選手会が協力しなければバブル自体が実現しなかったでしょう。シーズンを再開することでBlack Lives Matter運動の勢いを阻害するのでは、という意見もありました

実際、バブル内でのシーズン再開後も無抵抗の黒人が白人警官に射殺される事件が発生し、選手がボイコットした試合もありました。3カ月近くも家族に会えない日が続き、深い孤独を感じた関係者もいたはずです。なぜこんな時にバスケしてるんだろう、これに意味はあるのだろうか、と自問したと告白した選手もいます。

社会にはそれぞれの役割があります。アスリートの役割はプレーを通して人々に感動を与えること。全力で戦う選手の姿に感動したのは私だけではないでしょう。コロナ後の世界はまだ見えませんが、私たちも今できるのは、与えられた役割を自分なりに考えて、周りと協力してしっかり果たしていくことしかありません。

今年のNBAファイナルのサマリー動画はこちらからどうぞ。

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コロナ時代のバブルから学ぶ3つの英語表現

on the horizon

~兆しが見える/(何かが)差し迫っている

「~兆しが見える」や「(何かが)差し迫っている」という意味です。地平線上にと聞くとまだ遠いじゃんと思ってしまうかもしれませんが、英語での距離感は結構近いです。記事のようにrightを足すと(right on the horizon)さらに距離感が縮まるニュアンスですが、逆にsomewhere on the horizonだと遠くなる印象です。

jacked

筋肉隆々、ムキムキのバッキバキ

素直に解釈すれば筋肉隆々、ムキムキのバッキバキという意味です。ただこのスラングの解釈は状況や文脈に依存する部分が多いので注意。今でもステロイドや筋肉増強剤を使用して大きくなった状態を指すことがありますし、酩酊状態でI’m jackedと言ったら。クスリをキメていると思われてしまいます。というかなんでこんな用語を紹介してんだよ。

it takes a village

ワンチーム

今、日本のビジネスシーンで大流行している「ワンチーム」とかなり似ています。一人の力ではやれることに限界がある、でもみんなの力を合わせれば上手くいく、という意味ですね。「子どもを健やかに安全に育てるには村全体が協力しなければならない」というアフリカのことわざでが語源です。

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同時通訳者のここだけの話

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関根マイク

関根マイクフリーランス会議通訳者・翻訳者。関根アンドアソシエーツ代表。FIFA(国際サッカー連盟)公式通訳者。カナダの大学在学中から翻訳・通訳を始め、帰国後はフリーランス一本で今に至る。政府間交渉からアンチエイジングまで幅広くカバー。著書に『同時通訳者のここだけの話』『通訳というおしごと』(アルク)。ブログ「翻訳と通訳のあいだ」http://blogger.mikesekine.com/