世界中の価値ある本を翻訳出版!サウザンブックスインタビュー

本で世界と日本をつなぐ!お仕事インタビュー

「本」を通じて世界と日本をつなぐ会社に突撃取材する、全3回のインタビューシリーズ。第2回は、クラウドファンディングで翻訳書を出版する「サウザンブックス」取締役の安部さんにお話をお聞きしました。

サウザンブックスって?

――クラウドファンディング*1で翻訳書を出版されているとのことですが、どういった仕組みなのでしょうか。

サウザンブックスは、まだ日本語に訳されていない、読んでみたい本や応援したい本を一般に広く募集しています。ジャンルや言語は問いません。推薦のあったものについて出版権利状況を確認した上でプロジェクトを設計し、クラウドファンディングを活用して、翻訳書をつくるための費用を出資してくれる人(支援者)を募集します。

目標金額が集まったらプロジェクトが成立し、書籍が刊行されます。目標金額が集まらなかった場合はプロジェクト不成立となり、書籍は刊行されませんし、支援者の支払いも発生しません。

刊行された書籍は支援者に届けられ、書店やAmazonなどで一般発売されます。支援者へのリターン(返礼品)はプロジェクトによってさまざまで、完成した翻訳書をお届けすることに加え、本を図書館へ寄付したり、支援者が参加できるイベントやセミナーを企画したりすることもあります。

プロジェクトが成立したら、公序良俗に反する内容のもの、誹謗(ひぼう)中傷に値するもの、反社会的勢力に関係があるものなど、「出版にふさわしくない」と思われるもの以外は、基本的にすべて刊行します。

▼サウザンブックスのプロジェクト一覧

thousandsofbooks.jp

――なぜそうした仕組みで翻訳書を作ろうと考えられたのでしょうか?

出版業界が縮小する中、出版のあり方はこのままでいいのかと危機感を持っていました。

また、一般的な出版社では、書店で売れる見込みのある本でなければ出版することができません。特に翻訳書は、翻訳者や原作者などたくさんの人が関わる分、費用も時間も余計にかかるので、なおさらです。世界中に面白い本がたくさんあるのに、出版できないというもどかしさを感じていました。

そんなとき、ある知り合いの翻訳者の方が、「1000人集まれば、本できるんじゃないの?」とつぶやかれたんです。読みたい人を先に集めれば、本が作れるんじゃないか、と。それを聞いて、確かにそうだ、そんな仕組みをつくってみよう、と思ったことがきっかけです。

――実際に事業を始めたときの感触はどうでしたか。

設立した2016年頃は、支援者を募るにしても「クラウドファンディングって何?」というところから説明しなければならなかったのと、会社としてクラウドファンディングで出版を行うという例がほかになかったので、苦労しました。

現在ではクラウドファンディング自体の認知度も上がりましたし、サウザンブックスから刊行した書籍の点数も増え、着実に実績を重ねてこられたなと感じます。

プロジェクト起案から出版まで

――書籍ができるまでの流れを、もう少し詳しく教えて頂けますか。

1. 本の推薦

まず、サウザンブックスの公式HPなどを通して、日本語に訳して刊行してほしい本を募集します。現在、月に約10冊が推薦されています。

2. プロジェクト設計・起案

その中から、そもそも日本で出版する権利が得られるか、推薦者がプロジェクト発起人を務められるかという条件をクリアしたものについて、価格・部数などを決定してプロジェクトを設計し、クラウドファンディング上で支援者を募ります。現在、月に約1冊がプロジェクトとして起案されています。

「発起人を務められるか」というのは、発起人の方には情報を提供したり、告知をしたりと、営業・広報の場面でご協力頂くことがあるので、それだけの時間を割いて頂けるかどうかということを確認しています。

発起人を務められる方には、一般の読者の方やその本で取り上げられている内容に通じている方、翻訳業界の方など、さまざまな方がいます。

サウザンブックスでは、プロジェクトを起案した段階で、解説や監修を付けるかといった構成を考え始めたり、デザインや翻訳を頼む人を検討し始めたりと、本の組み立て部分を考え始めます。

3. プロジェクト成立~刊行

これまでに32件のプロジェクトが起案され、3件を除いて成立しました。プロジェクトが成立したら、実際にデザイナーや翻訳者、編集者などのアサインを始めます。絵本からマンガ、小説、ノンフィクションなど、幅広いジャンルを扱うので、それぞれを得意分野とされている方にお願いするようにしています。

全体的な編集やデザインなどの方針は、発起人の思いを聞きながら、サウザンブックスが決めます。

反響とこれから

――パイオニアとしてこの取り組みを続けてこられて、苦労ややりがいを感じるのはどんなときでしょうか。

読者にダイレクトに届けるという前例のない事業であり、また書籍のジャンルによって営業の面で働きかける方面が異なるので、毎回試行錯誤しています。

一方で、書店で売れると出版社が判断した本でなければ刊行されない、という状態を打開できたことは制作者にとってもよかったと思いますし、「この本が日本語で読みたいけど、どこに言えばいいの?」と感じている読者の受け皿になることもできていると感じます。

これまで「本を出版する」ということは、出版社に持ち込んで、承諾を得て・・・という、多くの人にとってかなりハードルの高い行為でしたが、サウザンブックスでは、クラウドファンディングという仕組みを通して、発起人や支援者を含めたより多くの人が出版に関わって本を作っています。

また一般的な本づくりだと、読者の感想は刊行後にしか得られませんが、クラウドファンディングだと本の編集中に支援者の方から要望や意見のコメントが届くことがあり、「皆さんと一緒に本を作っている」という実感があってとても面白いですね。

意外だったのは、支援者から「この本の制作に携わる機会を頂き、ありがとうございます」という感謝の声がたくさん届くことです。単に商品を購入するということに留まらず、翻訳書を出す・支援をするということに意義を感じて、喜んで頂けてるのだなと感じます。

――今後取り組みたいことはありますか。

現在、1プロジェクトあたりの支援者は約500~600人ですが、支援者が増えれば増えるほど1人あたりの負担が低くなるので、もう少し気軽にプロジェクトに参加できるような仕組みがつくれたらいいなと思っています。

また、今は海外の本を日本にという一方通行の事業ですが、いつかは日本語の書籍を訳して、世界に発信するというシステムづくりにも挑戦してみたいと考えています。

サウザンブックスイチオシ!の本

――今、特におすすめの本はありますか。

発達障害の男の子の青春を描いた小説、『キッズライクアス』がおすすめです。ご自身も発達障害の子どもを持つ翻訳者の方の推薦で刊行された本です。

キッズライクアス

キッズライクアス

 

発達障害を取り上げた書籍は日本にもありますが、「どのように接したらよいか」といった実用書がほとんどです。翻訳者の方は、そうした実用書を読んでプレッシャーを感じていた中で、フィクションの中で発達障害を描いたこの本に出会い救われたという経験から、この本を推薦されました。

主人公の男の子の一人称でストーリーが展開するため、いわゆる流暢な言葉ではありません。どこまで原文らしさを残すか、どこまで読みやすくするかという点で、何度もやりとりを重ねて完成した本なので、ぜひ翻訳にも注目して読んで頂きたいです。

また、原著がフランスで発行された『レベティコ-雑草の歌』や、メキシコで発行された『くろは おうさま』など、英語圏以外の翻訳書もおすすめです。

くろは おうさま

くろは おうさま

 

取材後記

「前例がないから大変」と話しながらも、安部さんは始終とても楽しそうで、これまでにない新しい仕組みづくりをすることにとてもやりがいを感じられている様子でした。

「サウザンブックス」という会社名には、英語のthousands of(何千もの、たくさんの)と、設立のきっかけとなった「1000人集まれば本が作れる」という言葉が掛けられているのだとか。「世界中のあらゆる言語・ジャンルの本をたくさん刊行したい」という思いが込められているそうです。

日本語訳された世界中の書籍を購入して楽しむのはもちろん、プロジェクトを支援したり、発起人となって本づくりに関わったりと、これまでにない本の楽しみ方が増えるシステムですね。

長い間「どこかからこの本の日本語訳が出ないかな」という思いを温めている方、「私が翻訳書をつくりたい!」という気概のある方は、ぜひサウザンブックスのHPから問い合わせてみてはいかがでしょうか。

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*1:インターネット上で出資者を募る仕組み